ヴォキャビュラリー・アーマード・ボーイ
これは男子小中学生が皆逃れられない性なのでしょうか——
それともわたくしだけが彷徨った境涯なのでありましょうか——
告白します。
「アルティメット」という言葉が醸す黄金色の煌めきが、大好きでした。
「ドラゴン」もいいけれど、より琴線に触れたるは「ドラグーン」。
「バチカン市国」よりかは、「ヴァティカン市国」。「ヴ」の美。
「…ネス」を語尾に持つ語を愛していました。「ダークネス」「ブライトネス」。
「…ド」の放つ重厚感も素晴らしい。「パワード」、「アーマード」。
「…ション」という爽やかな締め方も無視できません。「エヴォリューション」。
「リーサル・ウェポン」の語頭「リーth」に心ときめきました。
ギリシャ文字が響かせる滑らかな語感もたまらない。「イプシロン」「オメガ」。
だから、
デュエル・マスターズは小学生のわたしの聖典でありました。
「デュエル」の響きからして、胸の高鳴りは約束されている。
カタカナ語という沃野、いわば超絶永遠郷を教えてくれたのは、あなたです。
忘れまい、闘龍騎ヴィラン・レギウス。某コミック誌の附録、永遠郷の先達。
忘れまい、バザガベルグ・疾風・ドラゴン。剛腕にして疾風怒濤の攻め人。
忘れまい、超神羅ロマノフカイザー・NEX。ワールド・ブレイカーの使い手。
デュエル・マスターズだけではない。
わたしは神羅万象チョコがみせてくれる世界にも深く深く耽溺した。
公式サイトがあり、キャラクターの育成ができた(気がする)のも魅力だ。
それで、放課と同時に家路を急ぎ、パソコン端末と向き合ったものである。
どんなやりこみ要素があったものか定かではないが、とにかくのめりこんだ。
そして、報われた。
たゆまぬ努力の報酬として輝くカードが郵送されたのである。
白面八岐大蛇サイ。強敵の統晶大権現イエヤスに立ち向かい、死闘する勇者。
彼を手にしたときの多幸感を思い出しては、いまも頬が緩む。
サイの物語「七天の覇者」に続く「大魔王と八つの柱駒」にも心血を注いだ。
そしてまた報酬が届いた。主人公の大魔王アークのスーパー・ミラージュ・レア。
曜変天目顔負けの表面加工が施され、光を反射して極彩色に輝くのである。
熱い吐息を漏らしながら抱きかかえ、日夜厭きることなく愛玩した。
デュエマと神羅万象チョコにはカタカナと光輝の美学を刻み込まれた。
それで、デュエマの漫画が収載されているコロコロコミックにも向かっていく。
するとどうだい——結果は良好。
盤面で転がり、展開する勇姿たちを指で弾く、爆丸に嵌まった。
えげつないほど必殺技の名前がかっこいいベイブレードに傾倒した。
天馬爆飛翔!
子どもの頃はコミック版ベイブレードのセリフ全てを暗誦したものである。
宇宙から飛来する重厚な駒が大写しになったスクリーンを皆が呆然と見上げ、
「あれが…ネメシス」と恐れ慄いている場面は、いまだに覚えている。
気のせいでなければ、さっきからタカラトミー社のリンクを多く貼っている。
神羅万象チョコだけバンダイ社。我が幼年期はタカラトミーとともに。
少し長じて中学に進むと、レベルファイブ社の作品に熱をあげた。
『イナズマイレブン』はもちろんのこと、一番は『ダンボール戦機』に没我した。
中学時代を一貫して、わたしの青春はあなたとともにありました。
小型ロボットLBX(Little Battler Experience)が段ボールを戦場に戦う物語。
PSPゲームであるだけでなくプラモデル事業、コロコロコミック連載も展開した。
本作は、デュエル・マスターズばりに用語がクールで、アトラクティヴである。
LBXは「アタック・ファンクション」という必殺技をそれぞれ保有し戦闘に臨む。
「ション」で終わっているだけでなにより琴線を掻き鳴らすというのに、
さらに下部にパワーワードを付加するのだから、陶然と惚れ込んでしまった。
黄金色の渦巻きが槍を包み込むグングニル。
高く飛び上がって、相手に鉄槌を振り落とすブレイクゲイザー。
己の敏捷性を高める秘技エスペランザ・モード。
宇宙軌道を周回する衛星から強烈な光束を照射するサテライト・レーザー。
それぞれの機体も皆揃って麗しい名義を所有しており、見逃せない。
(プロト)ゼノン。オーディン。イフリート。アキレス。ゼウス。イカロス。
ミネルヴァ。ルシファー。オーレギオン。ジ・エンペラー。パンドラ。
イプシロン。フェンリル。ナイトメア。ジョーカー。Σオービス。
|文字盤《キーボード》を打つ手に汗を握ってしまうほど、思い出深い。
ゲーム内で動かせるだけでなく、プラモデル等現実のモノとして触れるのも、
ダンボール戦機がわたしを魅了しつづけた要因であろう。
たぶん、上述した機体は9割方プラモデルを制作・所有したはずである。
自分の好みに彩色し、互換性のあるパーツを組み替えるのが愉しかった。
Σオービス閣下に至っては、超合金である(明らかに高騰している…)。
いつぞやの誕辰の祝いの品として、両親から贈られたものだ。
デュエル・マスターズや神羅万象チョコであればカード。
ダンボール戦機であればゲームソフトとプラモデル。
愛好に愛好を重ね、わたしの思考言語はアルティメットに染め上がった。
「無敵バリアー」もいいのだけれど、「ハイパー・シールド」も捨て難い。
後部座席から窓外を眺めながら、LBXを夢想して飛翔させたり、闘わせる。
友人とのじゃれあいにも応用できるし、妄想を膨らませるのにも役立つ。
こうして、なんてことない日常の一挙一動が、流麗に装飾される。
高校に進第すると同時に、ゲームの風疹は急速に下火になった。
デュエル・マスターズは中学初期で没収の憂き目に遭ってから低迷、
神羅万象チョコは「チョコ」ないしウエハースがちょいと厳しく低迷、
爆丸とベイブレードからは周囲の友人がどんどん離陸していき戦意低迷、
そして——ダンボール戦機に注いだ熱量も次第に冷めていった。
3DS向けに発表された新作が購入してもらえなかったという事由も大きいし、
アニメの新シーズンにて、前篇の主人公オーディンが瞬殺されたのも大きい。
それに、折から辞書や書籍をめくる愉しみに開眼したのも無視できない。
次第に成長する読書習慣が、ゲームへの愛着を嫌い廃絶していった節がある。
それでも、アルティメットな光輝に満ちた言語嗜好は引き継がれたようである。
本稿のように、わたしがルビで遊んだり、無暗にカタカナ語を弄んだり、
はたまた果てしなく言葉遊びに汲々としたりする習慣はここに原点がある。
あなたの言葉の原点は、どこでしょう。
ちゃおか、コロコロコミックか、ジャンプか、図鑑か、かいけつゾロリか。
あるいは両親との語らい、友人との遊び、ゲームソフトの言葉かしら。
I.M.O.の蔵書から書物を1冊、ご紹介。 📚 かくれた次元/エドワード・ホール(日高敏隆・佐藤信行訳)