ある五線譜が読めない男の話
全全半全全全半というものがある。
これは鍵盤を見れば視覚的に理解できるが、基本的な西洋音階の音の並びだ。黒鍵がないところは半だ。俺はこれを理解するのにほとんど半年ほどかかってしまった。
でもその半年間ほどの間でもほとんど毎週末ステージに上がり、少しはスタンダードも覚えた。だが今でも五線譜は読めない。
どうやってそんなやつがウッドベースを弾いていたのか?簡単だ。俺が読める譜面を作ればいい。
幸いにもその部室のみんなで使っていたジャズのスタンダード集には全ての小節にコードが書いてあった。そう、コードだ。音符が読めないなら徹底的にCDを聴き込んでメロディーを覚え、コードの構成音を書き出し、さらにその並べ替えで一小節で4つのウッドベースが鳴らすべき音を全て書き出せばいい。
だから今でも我ながらよくやってたもんだと思うが、自分が「これならば確実に出せる」という音で、どこを押さえたらどの音がするかを全て俯瞰図面に書き出し、番号を振った。だから俺が自分用に書いた譜面はほとんど乱数表のようなもので、誰にも読めなかっただろう。たぶん今の俺でも曲名を伏せられたら何の譜面なのか分からない。ベースには弦が四本あり、細い方から順にGDAEというチューニングだ。チューニングにも純正律や平均律、変則など色々あるが、面倒なのでやめておこう。だからもしA弦でCを鳴らそうと思い俺が譜面を書くと「A3」となる。こんなものが16小節ならば64も並んでいるのだ。
正直もう二度とあんなクソ譜面は書きたくない。五線譜が読めるようになりたい。これはそれだけの話。