ご自由にお取りください
中国語で、散歩したりぶらついたりすることを「逛」と書くらしい。狂い進む。すごい字だ。確かに、さしたる目的もなく好き好んで1日10kmも15kmも散歩しているのは狂っているとしか言いようがないかもしれない。
何でそんなことするのと聞かれても、楽しいからとしか言いようがない。街で面白いものを見つけたときの、良い景色を見たときのアドレナリンが洪水のように湧き出してくるあの感覚をまた味わいたくて、ひたすら歩を進めている。本質的にはギャンブル依存症とあまり変わらない気がしている。
街で出くわすとアドレナリンが出るものランキングの上位に、「ご自由にお取りくださいの箱」が挙げられるだろう。1位は「突然大金をくれる富豪」。
住宅街や小さな店が集まる地域の軒先を見ていると、たまにダンボール箱に入った荷物が置いてある。近づいて見てみると、大抵手書きの文字で「ご自由にお取りください」と書いてある。
中身は食器とかが多い。あとは子供が使わなくなったおもちゃとか。今まで見つけた中で印象的だったものをいくつか紹介する。
「グラスの底に顔があったっていいじゃないか」という太郎の言葉で有名なウイスキーのグラス。俺は岡本太郎はあんまり好きじゃないが、グラスは可愛いので未だに家で酒を飲むときに使っている。買おうとすると3000円くらいするらしい。「ご自由にお取りくださいの箱」にはたまにこういう普通に価値のあるものが入っていることがある。
これは埼玉の浦和の住宅街で見つけたもの。そこは埼玉県で一番地価の高い高級住宅街なので、自ずと並ぶ家も立派な邸宅が多い。
その中の家の一つの大きなガレージの前に置かれた箱の中にこれがあった。落ち着いた薄い青色の湯呑みに、金色で「八代亜紀」と書かれている。描かれている花はカキツバタだろうか。八代亜紀と何の関係があるんだ。そもそもこれは本当に八代亜紀が作ったものなのか。持ち帰って調べてみたが、真相は謎のままだ。
池袋の小さな不動産屋の前で発見。今まで見たものの中でダントツで意味がわからない。消しゴムでできたハンバーグプレート。
付け合わせの野菜が取り去られた跡がある。不動産屋の主人がハンバーグの付け合わせマニアで、要らなくなったハンバーグの部分を処分したかったのか、それとも俺より前にハンバーグの付け合わせマニアがこの道を通ったのか。
これらの他にもマニ車や、パリの空気の缶詰(開封済み)など、様々なものを「ご自由にお取りくださいの箱」から拾ったことがあるが、街で出くわすとアドレナリンが出るものランキング第2位であるところの、「大金が入ったご自由にお取りくださいの箱」にはまだ出逢えていない。