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【断髪小説】剃髪の刻

香川県に古くからあるお寺。光頭院(こうとういん)。
光頭院では代々女性が住職を務めています。
現住職は私の母親が勤めています。
私は高校1年生の桜井結衣(さくらい ゆい)。
家業を継ぐためには剃髪して修行に入る必要があるんです。
高校1年生といえば、お洒落をして、彼氏も作って、キラキラ女子高生ライフを楽しむべきだと思うんですよ!
だけど、だけどね、髪の毛を剃って坊主頭にしてしまったら・・・彼氏なんてできるわけがないじゃないですか!!!!
だから、私は坊主にはならない!そう決めたんです、決めたんです、ですけど・・・。

私の好きな人、田中 康太(たなか こうた)は、坊主の女性が好きらしいんです。
でもね、風の噂で聞いただけだから、違うって事もあるよね?

だから、だからね、今、学校の放課後に、私はそれを確かめるべく、誰もいない教室で2人きりなんです。

ど、どうやって切り出そう…。そう思っていると、田中君から、話を切り出してくれた。
「なぁ桜井さん、俺も、その、桜井さんに聞きたいことががあるんだけど、先にいいかな?」
「う、うん」
「桜井さんってさ、そのー。いきなりこんな話するのもなんだけど、家って寺なんだよな?」
「うん、そうだよ。うちは光頭院っていうお寺だよ」
「だ、だよな。鈴木に聞いた。
そんで、桜井さんはお寺を継ぐの?」
「うーん。正直迷ってる。
だって、お寺を継ぐには、この髪の毛を坊主にしなければいけないんだよ?」
腰まで伸ばした黒髪のロングヘアーを手で触りながら言った。

「桜井さん、顔整ってるから、坊主似合いそうだけどな」
田中君が真っ直ぐな表情でそう言った。
正直少し嬉しかった。

「だけど、だけど、もし、もしだよ。
坊主頭の女性と、ロングヘアーの女性が告白してきたら、ロングヘアーの子を選ぶよね?」

「うーん、その子による。
って言いたいところだけど、同じ条件だったらって話だよね。
その場合は、やっぱり…坊主頭の女性かな?」

「はえ!?」
あまりの驚きに変な声が出てしまった。
だけど、すぐに冷静になり、詳しく聞いてみた。

「だって、俺。
坊主頭の女性好きだから。ロングヘアーよりショート。ショートより刈り上げ。刈り上げより坊主ヘアが好き。
よく変わってるって言われるんだけど、別に普通じゃね?って思うんだよね。
だから、桜井さんの坊主頭見てみたいなーって思って、聞いてみたんだよね」

「ふぉえ!?」
またしても、変な声が出てしまった。
驚きを隠せないと言うか、意味不明すぎて混乱している。
坊主頭でもいい。じゃなくて、坊主頭が良い!?ってことはだよね?
そんなことありえる?
ってことは、逆に坊主にしたほうが喜ばれるってこと?
え?なにそれ?私、何迷ってたんだろう。
坊主!そう、坊主頭にしなくちゃ!
田中君に坊主頭触ってもらいたい!絶対!!

「そ、そうなんだ。
来月、出家の儀式があるんだけど、その、私、出家するのはずっと迷っていて、でも、でもね、田中君が坊主頭の女性が好きって言うなら、私、坊主にしてみても良いかなーって思ってきた。…なんてね」

田中君は、微笑んで言った。
「その儀式、俺も見たい!」

「え?私が坊主頭になるだけだよ?見てみたいの?」

田中君はコクリと頷いた。

そして私は剃髪する事を決意して、出家の儀式を行い尼として生きて行く事にした。

光頭院儀式の間。
大勢の尼さん達が座ってお経を唱えている。
私も正座をして目を瞑り、合掌しながら儀式が始まるのを待っている。
剃髪の儀式を行う場合は、男子禁制なんだけど、今回は特別に田中君には見学してもらえることとなった。
尼さんの中にポツンと田中君がおり、合掌しながら私の剃髪を心待ちにしてくれている。
なんだか、少し恥ずかしい…。
私の普段人に見せない、恥ずかしい部分を見せるような感覚があり、男子を目の前にスカートの中を覗かれるかのような恥ずかしさを感じていた。
ちょっと照れくさいけど、だけど、初めてが田中君で良かった。

そんな事を考えていると、尼である母が近くで剃髪の儀式の準備のためか、銀色の大きなハサミを手に持って近づいてきた。
「それでは、始めさせて頂きます」
母がそういうと、私の長い髪の毛に手を伸ばし、髪を掴んで少し引っ張る。
根本付近にハサミを忍ばせて、ゆっくりと閉じる。

ジョキッ!!!

お経が響き渡っている中でも一際目立つ断髪音がした。
普段美容室でヘアカットされている時とは全く違った音で、髪の束を一気に断髪したから出る音だとすぐわかった。
聞いたことのない断髪音にちょっと心が乱れたが、すぐに別のことに気を取られた。
あぁ、今根元から髪の毛切られたな。なんて思った途端、後戻りは出来ない。私は尼になるんだ。と急に現実味を帯びてきた。
オシャレのため、普通の生活を送りたいとかの理由から、尼になる事を否定し続けて来たけれど、私はこの儀式が終わったら、もう戻れないんだ。
頭では理解しているつもりだったけど、思ったよりも重い決断だったんだと実感している。
雑念が無数に私の脳内を支配している中、母は、いや住職は私の髪の毛をハサミでバッサリと断髪し続けている。

ジョキッ!

ジョキッ!

ジョキッ!

優しく髪を掴み、そしてゆっくりとハサミを閉じる。

ジョキッ!

その繰り返し。
髪はどんどんと切られていき、木箱に収められていく。
鏡が見えないから、今どんな髪型になっているんだろうか?ざんばら頭の私を見て、田中君はどんな事を思っているだろうか。

ジョキッ!

そんな雑念も、髪を切られるバッサリ音を聞くたびに、和らいでいく。
だいぶ頭もスースーするようになって来たので、いよいよ坊主頭に近づいて来ているのは感じている。

ジョキッ!

ジョキッ!

ジョキッ!

住職がハサミを木箱に納める音がした。少しの沈黙があり、私は無意識に頭を動かそうとするが、そこはぐっと堪えた。
すると、先ほどの木箱の位置から何やら光を感じた。
これは恐らく剃刀だろう。

剃刀を持ったという事は、もう既に坊主頭、までは行かなくても、ベリーショートカット、モンチッチヘアになっているのだろう。

額の中央部から髪を剃刀で剃る感覚がした。

ジョリッ…ジョリッ…ジョリッ…ジョリッ…。

ゆっくりと丁寧に私の前髪を剃刀で剃っているのが音からわかる。

ジョリッ…ジョリッ…ジョリッ…ジョリッ…。

ちょっとずつ、ちょっとずつ髪の毛を剃る。
ハサミで髪の毛を切られた事はあるが、剃刀を使われた事はないので、初めての感覚だった。
だけど、ジョリジョリという音は剃刀による剃髪で間違いないだろう。

坊主頭までは、少し恥ずかしさを感じていたけど、髪を剃られるともう諦めもついて、逆にジョリジョリという剃髪音が心地よく感じてきた。

ジョリッ…ジョリッ…ジョリッ…ジョリッ…。

前髪は恐らく剃り終わり、どんどんと後ろへと剃っていっているようだ。
真ん中から一直線。そしてもみあげ部分から上へまた一直線。
そうやってちょっとずつ位置をずらしながら直実に剃られていく。

ジョリッ…ジョリッ…ジョリッ…ジョリッ…。

「目を開けて」
という住職の声を聞き、私は目を開けた。

どんな髪型になっているのか…?スキンヘッドになっている事はわかるのだけど、鏡を見るまでは何だか現実味がない。
合掌している状態なので、自分の無い髪の毛を、いや頭を触る事はできない。
だけど、微かに頭に涼しさを感じる。

そして儀式が一通り終わり、田中君が近づいて来た。

「桜井、似合ってるよ…その、坊主頭」

私は、え?っていう顔をすると田中君が
「あぁ…そうだよね、桜井、自分の坊主頭まだ見れてないんだよな。
ほら、これ」
そういうと田中君が手鏡をこちらへ向けてくれた。
そこに写っているのは、ツルツルのスキンヘッドの若い女性だった。
一瞬、誰!?って思ったけど、自分の手で頭を撫でて、髪の毛がなく少しジョリジョリした感触で、すぐにそのツルツルのスキンヘッドの女性が自分であることを認めた。
「恥ずかしいな…。でも田中君はこういうヘアスタイルの女性が、その…好きなんでしょ?」
「あぁ…すごい可愛いよ。
あ…ごめん。その…俺…坊主の女性には目がないんだ。
俺キモいよな…でも、その…すっごく良いと思うよ!」

「ありがとう。嬉しい…」
「そういえば、桜井さ、この間何を言おうとしていたの?」

私は、手鏡に映る自分を見つめた。
ツルツルの頭にしたことにより、勇気が湧き上がってきた。今の私なら…言える!
「…田中君…好き!」

ど…どどどどうしよう!坊主頭にした事によって興奮状態だったためか、ついつい本音を言ってしまった!
そ、そもそも坊主頭の女性が好きっていう話は聞いてたけど、坊主頭の私を好き。なんて一言も言ってないし…恥ずかしい。どうしよう!こういう時に髪の毛が無いと…顔を隠せない…。
でも、田中君はゆっくりと微笑んで、こう言った。
「俺も…」
「え!?」
「いや、だから…俺も桜井さんの事、好き…だよ」

こうして私達は付き合う事になり、今では康太君が私の伸びた髪の毛を毎月綺麗に剃髪してくれています。



あとがき

リクエストのあった「お寺の娘が修行に入る為に剃髪する小説」を書きました。
年末の体調不良もあり、ちょっと書くのが遅れてしまいましたが(書き始めたのはすぐでしたけど終わらせられなかった)書き終えました。

余談ですが、無料版は割と表現を柔らかくしていて、有料版は結構ディープな描写が含むものが多いです。(不特定多数の人に見せるのは引ける為、内容により有料にしてたりします)

これかもちょっとした話は無料版で出していきたいなと思ってます。
あと有料版の短編小説も出していきたいと思ってます。
ネタはめちゃくちゃネタ帳に書いてあるので、全部アウトプットしていきたいんですけど、毎週金曜日に出している連載物、今だと下記の髪切り探偵とか1話を書くのに時間がかかってしまってます。有料物には必ず断髪シーンを入れる事にしているので、どうやってそこに話を持っていくかで結構試行錯誤してたりします。

サクッとかける短編小説を金曜日以外に出して、金曜日は長編を連載するような流れで進めていきたいと思ってます。

あと、小説のリクエストも受け付けてますので、こういう小説書いて欲しい!とかあれば、短編小説になりますが、あと時間はかかる可能性がありますが、書かせて頂きます。


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