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【断髪小説】断髪、なかったことに。(3)水瀬 美花と彼女の強制断髪(ハサミ、バリカン、カミソリ)

割引あり

昨日の断髪で起こった課題を整理しよう。
まず、どのくらい過去に遡れるのか?
これは細かく時間を遡り試してみる必要がある。
そして、澪(みお)の言っていた違和感。
過去の記憶は戻って無いまでも、違和感として記憶の片隅には残っている感じだった。
これは多角的な視点から調査する必要がありそうだ。

今は4時間目の授業中だから、昼休みになったら試してみよう。




授業が終わり、教室で昼食を取る。
僕の弁当箱は二段式でいつもご飯とおかずに分けられている。
今日のお弁当は、一段目はふりかけがかけられたご飯。
二段目は、唐揚げに卵焼き。プチトマトにレタス。
ウィンナーにきんぴらごぼうだ。
まずは野菜から手をつけて、唐揚げをほおばる。

「……あれ?唐揚げが……?」
「もーらいっ!」
と、澪が僕の唐揚げを盗み食いしている。
もぐもぐと幸せそうな表情を浮かべながら容赦なく食べている。
「悠夜(ゆうや)のお弁当はいつも美味しいねぇ〜!
ママに感謝だよぉ〜!」
「人のもの食べておいて、何を言っているんだ」
「まぁ〜、良いじゃないのさぁ〜私達の仲なんだからさ!」
「お前なぁ〜」
「それはそうと、今日はいい子を連れてきたよ〜」
澪の後ろに隠れていた結城(ゆうき)さんが姿を現す。
黒くて長い髪の毛が一緒に揺れて、垂れた髪をかきあげる。
ヤバい……可愛い!
「おはよう。時雨(しぐれ)君」
「あ……あぁ、おはよう結城(ゆうき)さん」
「なんか、君たち初々しいねぇ〜、新婚さんみたいだねぇ〜。
うんうん〜、君たちが仲良くなってくれて、あたしゃ〜嬉しいよぉ〜」
僕と結城さんが一瞬目が合い、そしてサッとお互い目を逸らす。

「やめてよ澪。
そんなんじゃ……」
頬を赤らめながら結城さんは言う。
うん、可愛い。
腰まで伸びたサラサラロングヘアーが眩しい!いつも遠くから眺めてただけなのに、こんな近くで見れるなんてなぁ。能力様様だ!
「さぁ〜て、私たちもここ座っていい〜?お弁当一緒にしようぜ〜」
澪が強引に近くの3つの机をくっつけた。
「時雨君、お邪魔します」
椅子に座る際に、長い髪が肩から垂れて、それをかきあげる。
そんなちょっとした仕草を見るだけでも胸が高鳴る。

「そういえばさー、C組の水瀬 美花(みずせ みか)って子が黒髪のセミロングの子なんだけどさー、バッサリとイメチェンしたらしいよ〜?」

「お!どんな髪型にしたの?」
「悠夜ぁ〜、食いつくねぇ〜!
そういえば天音さ〜、悠夜てぇ〜、はんはふふきあんだおね〜」
僕は咄嗟に澪の口を封じた。
「おい!澪……お前それは言うなって」
「あぁ〜。ごめんごめん。そうだったね〜。
なんでもないよ天音〜」
「うう〜ん……。気になるんですけど」
「ほほぉ〜〜。天音は悠夜の事が気になるのかぁ〜〜?」
「ち……違うよ!そういう事じゃなくて〜、今の話がってことだよ〜」
「ふふ〜〜ん。分かってる、分かってるって〜、悠夜とお昼一緒にしよって行った時、天音乗り気だったもんねぇ〜」
「ちょっとぉ〜〜〜!澪〜!
……時雨君、その、違うんです。そういうつもりじぁ〜……。」
「分かってるよ、結城さん。
結城さんが僕になんて興味持つわけないことぐらい……」
「……そんな……こと……ない……けど」
「え?」
「ううん、なんでもない。
それで、澪。その子、どんな髪型にしたの?」
「それがね〜、ハンサムショート?って言うのかな〜?男子みたいな髪型で、中分けにしてて〜、中はツーブロック?にしちゃってさ〜。
王子様が現れたぁ〜〜〜!!って女子達が騒いでるらしいよ〜」



「それはまた、大胆なイメチェンだね」
「そうだよね〜、びっくりしちゃって〜。
それで悠夜が女子のハンサムショート好きだったなぁ〜って思い出して伝えてあげたわけよ〜」
「……」
「時雨……君。そういう髪型が好きなんだ……」
結城さんが長い髪を手で掴み、手櫛を通す。
「悠夜はねぇ〜、ショート女子も好きだし〜、天音みたいなサラサラロングヘアーの女子も好きなんだよね〜。でしょ?」
「う……うん。まぁね」
どうも、髪に関する話を人とするのは苦手だ。
胸が好き。お尻が好き。とかだったら簡単に言えたのだろうけど、髪が好きって言うのは気が引ける。
だけど、そう思っている事は人に悟られたくないし、恥ずかしく思うし引かれてしまったらどうしようっていっつも思う。
澪には幼馴染だから不可抗力的に知れてしまったけれど、結城さんに言うのはどんな反応されるのか……怖い。

ん。待てよ。
でも今ならやり直せるのか。
結城さんに言ったらどんな反応するのか知るチャンスでもあるな。
それと一つ試してみたいことがあったんだ。
いつもは「時よ、戻れ!」と口にすることで過去へ戻れたんだが、セリフなしで戻れるのか?これも試してみよう。

僕は心の中で「時よ、戻れ!」と叫んだ。




次の瞬間、僕は弁当箱を開けている時間に戻っていた。
実験は成功のようだ。どうやら口に出さなくても心で唱えたら過去に戻せるらしい。
そう考えると僕は実に恥ずかしいセリフを口にしていたんだと気づき、ちょっと恥ずかしくなった。
まぁでも、そのセリフを覚えている人はいないわけだから別にいいのだけれど。

確かさっきは唐揚げを澪に奪われたな。
そろそろ澪が来る。後ろに気配を感じた。
その時、澪の手より早く唐揚げを頬張る。
今回は唐揚げを食べることに成功した!
まぁ、どうでもいいのだけれど。
「ちょっと〜、悠夜ぁ〜!それ、私の唐揚げ〜〜〜!!」
「いや、違うから!」
とツッコミを入れたところで澪と結城さんが登場した。
一連の流れを前回同様に行なった後、C組の水瀬さんの話題になる。

「そういえばさー、C組の水瀬 美花(みずせ みか)って子が黒髪のセミロングの子なんだけどさー、バッサリとイメチェンしたらしいよ〜?」
「お!どんな髪型にしたの?」
水瀬さんのイメチェン……直接、見てみるか。

——この時はまだ、僕が水瀬さんに対してあんな感じに断髪をするなんて、思いもしなかった。

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