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「ゆびさきと恋々」第1話を深読みしてみる

漫画描き道は漫画読み道と表裏一体…ということで、最近読んで一番良かった作品「ゆびさきと恋々」第1話について、あれこれ深読みしながら書いてみます。他の人の感想は読んでないので自分なりに。

▼前回のあらすじ:漫画家なのに、漫画を読むのが苦手だったとついに暴露した歩。何を言ってるんだこいつは…まだそんなレベルなのか。もういっそのこと、この成長の過程を一緒に楽しんでくれ。

よかったら「ゆびさきと恋々」第1話を読みながら、お付き合いください。どんだけ推すんでしょう僕。回し者なのかな?



📖ゆびさきと恋々:試し読み

あらすじ:女子大生の雪は、ある日困っているところを同じ大学の逸臣に助けてもらう。
聴覚障がいがあって耳が聞こえない雪にも動じることなく、自然に接してくる逸臣。
自分に新しい世界を感じさせてくれる逸臣のことを雪は次第に意識し始めて…!?


僕はふだん少女漫画を全然読まない かつ滅多に作品に対して「めちゃくちゃこれ好き!!」とならないタイプなのだけど、そんな人にも刺さる魔力のある作品だった。全体通してセリフは少なめで、しっかり絵で語りかけてくるのが本当に素晴らしいところ…。もはやすっかり魅了されてしまったので、久々に追いかけていきたいと思った作品。第1話といわず第1巻通してとても良かった。


▶︎とにかく素晴らしい絵!
物語が良いのは大前提として、僕が真っ先に惹かれたのは絵。冒頭の、助けてくれた逸臣にお礼するシーンの表情に始まり、雪の「何かを伝えようとする目」が常々もの凄くよく描かれている。もともと絵がお上手なのだろうけど、この漫画においてテーマでもあり超重要な手(ゆびさき)の描写もとても繊細で綺麗で、思わず見入ってしまう。

キャラクターを描く時、しぐさや表情はもちろん大事なのだけど、この漫画では言葉を発さない主人公だからこそ、なお身振り手振りの描写が大事な意味を持つ。セリフを抜きにしても、雪のちょっとした恥ずかしがりや戸惑い、嬉しくてはしゃぐ姿を見てつい応援したくなってしまう。絵だけでそう思わせる強さがある。見習わなくては。。


▶︎キャラクターの設定と効果
聴覚障がいを持ち、音が音じゃない世界を生きる雪と、
バックパッカーとして世界を渡り歩く、トリリンガルの逸臣。ふたりのいる世界観のちがいが、まず対比になっているのかなと思った。

この逸臣のトリリンガル設定は、他の多くの漫画だと"キャラクターをかっこよく見せるための装置"ぐらいのものとしてしか機能しないのだけど、この漫画ではものすごく意味を持つ。逸臣が雪に動じないのは態度でも描かれているけども、手話もひとつの言語だとすると、トリリンガルで勉強熱心であろう彼は物怖じせず手話も覚えてくれる、越境してきてくれる人なのではないか…とこの設定だけでそんな気配が感じられる。

それがよく現れているのが、終盤に雪が逸臣に思い切って連絡先を教えてくれませんかと聞くシーン。彼の返答がこれ。

「いいよって 手話でどうやんの?」

これ、ただ言葉で「いいよ」と言うのと、手話で「いいよ」と示してくれるのとではメチャクチャ大きな違いがある。絵的にも、めっちゃくちゃ違う。手話で答えるシーンにすることで、普段何を考えているかわからない彼の根にある暖かい人柄が表現できるし、絵的にも心が通じあう(向かい合って同じ手話をしている)グッと印象深いシーンになっている。

他にもいいシーンいっぱいあるのだが、果てしないので割愛。

▶︎ページ配分
全53P(タイトルページ含む)ある中で、ページ配分は大きく分けてこの4シチュエーションと少なめ。だいぶゆったりとしたページの使い方をしているなぁ。
・電車の中で出会う雪と逸臣
・大学で友人に報告
・逸臣のバイト先の店に行ってみる
・ふたりで一緒に帰る
ラストの見せ場である一緒に帰るシーンだけで20ページ近くも使っている。なんということでしょう…この丁寧さだからこそゆっくりと、じんわりと感情の揺れ動きが伝わってくるのだなーと納得。


▶︎これから楽しみなところ
「ゆびさきと恋々」というタイトルからするに、手話(とかメールを打つとかも含む)だったり手のスキンシップで交流を深めていく話なのかな。ふたりの世界がどう混ざり合っていくのか楽しみだし、雪のいる世界の描写がどんなものになっていくのかも、個人的に気になる点。「聲の形」の描き方との違いとか。

逸臣がいい感じに何考えてるかわからないところも、続きが気になる要素のひとつ。


▶︎なんで好きになったんだろう?
まず絵に惹かれたのが大きいけど、もしかしたら僕も昔人と喋れない時期が長くあったから、雪になにか共感するものがあるのかも。あとは雪がとにかく魅力的な、応援したくなるキャラクターとして描かれているのも大きい。やっぱ主人公大事なのだな。。

世間でおもしろいとされている作品が自分に響くかどうかは、全く別の話。自分のアンテナが何に引っかかるのか探るのも、この第1話読み歩きの醍醐味のひとつだと思う。今回みたいに一番胸にくる作品がまさか少女漫画だとは思わなかったし…!どこにツボがあるのか、引き続き探っていきたい。



もの凄く今さら感があるのだが、正直、やっっっと漫画を"読むこと"が好きになれてとても嬉しい…。好きという気持ちって自然発生的なもので、自分や誰かに強要されたりして生まれるものではないから。

描くのは好きでも、読むのは好きと言い切れないところがずっとあった。教科書を読むような気持ち──とまでは行かなくても、それに少し近いような気持ちで読んでいた。それが好きに変わった今、これから漫画を読む時に頭に入ってくるものが全然違ってくるだろうし、描く時に考えることも、引き出しもきっと変わってくるだろう。それが本当に楽しみだ。


おまけ:他にも良かった漫画

今日のおまけ部分では、他にもよかった漫画をさらっと紹介します。

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