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【本紹介】合原一幸, 岡田康志:〈1分子〉生物学―生命システムの新しい理解


□紹介する本

〈1分子〉生物学―生命システムの新しい理解, 2004/9/29
合原一幸(編),岡田康志(編)
岩波書店

□メモ

生物を理解するのは難しい.部品は大体全てわかっている.
でも,それぞれの機能がよくわかっていない.
たとえば,ジャンボジェット機のパーツがわかっていても,それぞれがどんな機能でどんな役割を果たすのか,また,それらはどのように連携(相互作用)して全体としてどう動くのかを理解するのは難しい.
—>これを理解するのに,「1分子」の動きやその機能を調べるのは重要.


3つのテーマを紹介する.
1.細胞の中で物が運ばれるという現象の機構を分子レベルで明らかにする.
2.細胞内での輸送システムの制御をしているものは何か?どのようなものか?
3.左右はどこからくるのか?

(1)キネシンがなぜ走るのか?
そもそもマイクロチューブ,微小管は,細胞同士を繋ぐ軸索や樹状突起の中に,光ファイバーケーブルのごとく,束になって入っている.
微小管はアルファチュブリン,ベータチュブリンと呼ばれる分子が2つアルファとベータでペアになって作られている.アルファ末端とベータ末端があり,アルファで始まる側を「マイナス端」,ベータで終わる側を「プラス端」といい,キネシンは,マイナス端からプラス端へと動く.
細胞内では,中心にマイナス端,周縁にプラス端が向いていて,キネシンは細胞の内側から外側に向かって動く.
キネシンはATPを加水分解して,ADPとリン酸に,リン酸を放出した後に,10msほどしてADPを放出,ヌクレオチドフリー状態(次のATPを待つ状態)になる,ADPを放出するまでの10ms間,キネシンは微小管との結合を乖離する(ブラウン運動が可能になる).
ブラウン運動中,正味の運動は微小管からの静電相互作用に由来したポテンシャルで決定される.
アルファとベータチュブリンは異なるポテンシャルを与えるので,アルファとベータの結合部分がポテンシャルの最小となるようなギザギザの非対称なポテンシャルができる.
そのポテンシャルからの外力で,キネシンは動かされて,正味プラス端へ向かって動いているように見える.

そして,1分子のキネシンは遅いけど,2分子が束化したキネシンは数倍の速さで動ける.
結果として,2分子以上を束化したキネシンが多く生体内では使われている.
大体,秒速10nmとか20nmとかの世界.

(2)システムの分化
キネシンはADPを放出するまでの間,微小管との結合を離すことで動いていた.
他にも派生で,結合部分がモーター型のキネシンとは異なり,曲がった微小管の側壁にくっつきやすい形のキネシンがある.これは脱重合型キネシンと呼ばれていて,微小管を壊す働きがあるらしい.
このように,生命は1つの分子をマイナーチェンジして他の機能に使うことをたくさんしているらしい.

(3)左右はどこから?
背腹軸と,頭尾軸だけでは左右は決まらない.
右手系か左手系かという,キラリティを定めるから初めてわかる.
(x軸とy軸を決めても左右は決まらず,その向きに対して,どのようにz軸を置くかで初めて,左右が決まると言うこと.)
—>私たちは普段,背腹軸と頭尾軸から左右を判断している.

しかし,なぜ発生過程で,心臓などの臓器が決まった左右位置に配置されるのだろうか?

カルタゲナー症候群=患者の半数で臓器の左右が反転.気管粘膜の鞭毛が動かない.
—> 鞭毛の動きを調べてみた.

鞭毛の動きを調べると,なんと,毎秒10回転という高速で,
右向き(時計回り)にしか回っていないことがわかった.
(つまり,左向きにはなぜか回れない.)

さらに生じた疑問がたくさんある.
なぜ,一方向にしか回らないのか?
なぜ鞭毛の回転運動(時計回り)が,なぜ一方向の流れ(左から右向き,ノード流)ができるのか?
ノード流という物理的な現象から,遺伝子の非対称な発現が生じる機構は何か?

なぜ,カルタゲナー症候群であるように,流れがないときに半数が左右が逆になるのか?
両側左とか両側右になるのは少数なのはなぜか?

□感想

ミクロには電気力学現象,マクロには流体力学が
生命現象にとって深い繋がりがあることがわかる本.
生物にとっての左右の決定メカニズムを発見した研究者の本はとても興味深い.

□注意

本メモは前半のみ.

#読了日
22/09/04

#わたしの本棚

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