休眠預金事業の短期アウトカムの指標設定が難しいのでドラッカーさんが言っていることを参考に考えてみた~書籍:非営利組織の「自己評価手法」から学ぶ~
休眠預金事業の評価アドバイザーをするようになって数年経ちました。事前評価・中間評価・事後評価と経験して、毎回難しいなと感じるのが事前評価の事業設計と短期アウトカムの指標設定のところです。
成果をいかに捉えて、それをどうはかるのか?
は、ぱっと答えが出せるものではないなと毎回思います。
この難しさに向き合うヒントをもらえた本に出会えたのでご紹介します。
ピーター・F・ドラッカー著”非営利組織の「自己評価手法」”日本語版です。今回のnoteはこちらを参考にしています。
本書は、1995年に日本では出版されました。コンサルタントや専門家を雇って組織変革などがなかなかできない中小規模の非営利組織が、自己評価をしながら、組織として重要なことを扱うことをしぼりこんでいくための質問がワークシート形式で紹介されています。
経済や経営の分野で著名なドラッカーが、NPOの役割とマネジメントの難しさについて以下のように述べているのですが、そこで成果について触れています。
社会問題解決の担い手として非営利組織は、現代社会に強く求められています。求められてはいますが、活動を広げたり継続していこうとすると、思うように人やお金が集まらず、機会も増やせないといったことの連続です。
そうした時に、使命にひもづく得たい成果をはっきりさせて、それに基づいてリソース配分をしていくことの大切さを言っています。
成果をはっきりさせることは、事業だけでなく、組織運営やファンドレイジングなどにも影響する、非営利組織の経営の根幹なんだろうなと思います。
これまでやってきたことを尊重した指標づくりのために
本書で扱っている自己評価の意味は、「組織の」自己評価プロセスを示すものであって、「プログラム評価」を示すものではありません。そして、評価は原文ではアセスメント(assessment)で、事業方法や組織の運営方法について診断し、その結果を次の運営方法や戦略に反映させるものを意味します。
ですので、本書で言う「評価」は、休眠預金事業の社会的インパクト評価とは異なるものではありますが、実際に実行団体や資金分配団体の短期アウトカムの指標を考える実践には、十分参考になると思います。
どうして十分参考になるかについてお話します。
例えば、「ひとり親支援の指標のひな型はありますか?」と、よく聞かれます。評価は難しくてよくわからないから、はやく正解を教えてくれということだと思います。
実際そうした正解をとりあえず設定した団体さんは、納得感がないので最終的にてきとうな評価活動になってしまってしまいがちなようです。
逆に、「あなたの団体では、これまで何をもって、団体で提供している支援が、当事者のニーズを満たしていると判断されていたのですか?」と質問して、出てきたことを指標化した方が納得感が高く、最後まで評価活動を熱心にしてくださることが多いです。
こうした団体がこれまでやってきたことを尊重した指標づくりをする上で、本書の評価や成果の考え方はとても役立ちます。
使命は何か?
本書では「使命」がとても大切なものとして扱われています。
使命とは「組織が到達すべき最終成果」のことです。
使命や目的や価値が一致している限り、意見の不一致は建設的なものになりますが、使命に目的や価値が一致していなければ、根本的な不一致となり組織を維持することが困難になると本書では述べられています。
NPOでは、使命をビジョンとミッションで語っている団体が多いです。しかし、その先の具体的に何を達成したいのかの成果が明らかになっていないと、そこに向かっていく意欲や雰囲気が高まっていきません。
組織が、最終的に達成したい成果、中間的に達成したい成果、直近に達成したい成果は何かを考えておくことが重要です。
本書では、使命に関して以下の質問が挙げられています。
休眠預金の事業計画書には、社会課題や既存の取組状況を記載する欄があります。そこを読み解いていったり、ヒヤリングなどで情報を補足していくと、これらの質問への回答が浮かび上がってくることが多いです。
顧客は誰か
本書では、受益者や寄付者などを含めて顧客とよび、その意味を以下のように述べています。
本書の顧客は以下の2つに分けられます。
1.【第一の顧客】団体が提供するサービスを受ける人々
2.【支援をしてくれる顧客】ボランティア、寄付者、コミュニティの人々、理事や職員など
休眠預金の事業計画書には「直接的対象グループ」と「最終受益者」の2つの定義と人数を記載する必要があります。
結構この記載内容で議論になることが多いです。つまり、ここで言う第一の顧客については、統一した見解を持ちづらいことなのです。
しかし、統一した見解を持たずに、てきとうにここを流してしまうと、事業設計の元となるニーズを適切に捉えることができなくなってしまいますので、指標づくりに関わる重要な項目だと思います。
また、支援をしてくれる顧客については、休眠預金では組織基盤強化に含まれます。どのように人や資金を増やしていくかに影響しているからです。
顧客のひとりである寄付者に対する姿勢について、本書では以下のように述べられています。
本書では、顧客について以下の質問が挙げられています。
特に大事なのは、「顧客は変化したか?」の質問です。特に、被災地支援など短期間で当事者のニーズが変わっていくような場合は、顧客の変化をどう捉えていくのかが重要になるからです。
顧客の変化は成果にもなりますし、ニーズにもなります。そこを団体さんの思い込みで進めてしまうことが多いのですが、指標づくりのために確認することを含めていくことは、とても大切です。
顧客は何を価値あるものと考えるか?
ここでいう価値は、満たされていない要望の充足を指します。先の顧客は誰か?のところで、NPOにとっての顧客が受益者、支援者、理事や職員と挙げられてきました。そうした人たちの満たされていない要望は何か、充足する活動は何かを考えることが、団体の価値創造につながります。
当事者からの支援要請が多くよせられる団体と、そうではない団体の違いは、当事者の要望への充足度の違いだと思います。
多くよせられる団体さんは、無意識的にニーズを捉えていることが多いので、そこを可視化していくことで、多くの職員が意識的にニーズを捉えられるようになるきっかけになります。
と、同時に、職員を募集するとすぐに集まる団体と、そうではない団体もそうです。団体のビジョン実現のためだけが求心力の団体は、すぐに職員が辞めます。個々の職員の要望への充足度(福利厚生や待遇面だけではない、個々の繊細なものも含む)の違いで定着率は異なるのです。
これは職員を顧客として捉えているか、いて当然の存在として捉えているかで大きく対応は異なります。これは職員の求人だけでなく、寄付者についても同様です。
成果は何か?
成果の指標と、これまで挙げてきた使命と顧客は大いに関係することがわかってきました。
まだまだ成果の指標化について抵抗感を持つ人が多いですが、以下の文章で紹介されているように、それは1990年代でも同様だったようです。
効率的な事業運営や資金獲得のためには、事業成果の判定基準である指標化は重要であることがわかります。
次に、具体的な事業成果の指標化の例が3つ挙げられているのでご紹介します。
1.人々の生活向上に関する指標
新規加入会員数や維持率などの量的な指標と、活動状況といった質的な指標の組み合わせで、人々の生活向上度合いを計ろうとしています。
2.地域の子供への定着度合いの指標
図書館などの施設が地域にどれほど定着しているかを計る場合、来館者数やカード発行枚数などの定量的な指標が設定されがちです。もちろんそうした量的な指標も必要ですが、そもそも、事業でねらいとしている対象者に利用してもらっていることや、対象者であるが利用していない人のニーズを確認することなどの質的な指標との組み合わせで可視化しようとしています。
3.昨年よりも「よい」状態であることの指標
当事者への支援や治療をすること自体が大切な活動の場合、昨年よりも今年の方が「よい」状態であることを評価することは難しくなりがちですが、活動の何に価値をおいているかを指標化した例です。
寄付者のための成果
成果を寄付者に知らせることについても以下のように述べられています。現在では定着した考え方ですが、1990年代にこうしたことを言っていることはすごいことだと思います。
成果は何か?への質問として以下の3つが挙げられています。
私は、ここに、「資源をうまく活用しているか?」が入っていることがすごいなと思います。成果をだしていたらそれでいいじゃないかと思いがちですが、限られたリソースの効率性も大切なことだと気づきました。
成果の指標化は出来レースだと思う人へ
教会、図書館、病院の3つの指標化例をご紹介しました。
これを読むと、「よりよくなった」と評価できるように指標を操作していると批判する人もいるかもしれません。
以下のように成果がでないことは組織の存続に関わります。非営利組織にとって成果が出てない=企業にとってサービスや商品が売れない、と同じなのです。
企業であれば売れないとつぶれますが、非営利組織は成果がでなくても続けることはできます。
しかし、どんなに成果があると言い張っても、実際の成果がでていなければ、遅かれ早かれ、そうした組織には人もお金も集まらなくなってきます。
成果もでていないし、人もお金もない組織に所属する意味を見出す人はいません。
成果の指標化を積極的におこなうことは、自団体の存在意義を捉えなおすことにつながります。存在意義を捉えることは、人の共感や熱心な関与を生み出す源泉になります。
出来レースになるから、成果の指標化を避けるのではなく、多くの関係者と組織の使命に沿った成果は何かを話し合っていく環境づくりを推進していくことが非営利組織の成熟や発展につながると本書では述べられているのではないかなと思いました。
さいごに
休眠預金事業の短期アウトカムの指標設定が難しいので、そのヒントを書籍:非営利組織の「自己評価手法」を参考に考えてみました。
わかったのは、「休眠預金事業だから成果をみないといけない」ではなくて「そもそも、非営利組織であれば成果をみていかないといけなかった」でした。
このことを理解してくださる団体さんは、事前評価の終盤あたりで「とても大切なことですね」と言ってくださいます。
そうでない団体さんは、「評価に負荷がかかるので、本業に専念できない」と主張されます。と、同時に「担当者や予算がないのでファンドレイジングができない」とも言われます。
この発言に出会うと、「本業って何を指していらっしゃるんだろう?」とか「担当者と予算さえあればファンドレイジングできると思っているんだ」と思います。
私は、あと何回、評価アドバイザーができるかわかりませんが、理解してくださる団体さんをひとつでも多く増やしていきたいなと思います。