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寄付集めを「やさしく」デザインするための指針

寄付は多くの人の共感や思いによってなされるものです。場合によっては償い、怒り、悲しみといった感情や、自身の過去の心の傷への関わりを伴うこともあります。

それがゆえに、寄付集めは人としてのやさしさを組み込んだ方がいいだろうなと常々思っています。

マンスリーサポーターを◯◯人集めて、年間◯◯◯万円集まる仕組み作りをしたい。

これを最終目的としてしまうと、企業活動における大量生産・大量廃棄の活動と同類になってしまうのではないかなと思っています。

もちろん、数字の目標設定は大事ではあるのですが、どういう人たちに支援されていたいのか、そして、その人たちにどういう状態であって欲しいのかも同じくらい大事な目標です。

数値目標だけだと「寄付集めがつらくて続けられない」状態になってしまいがちです。

やさしさを組み込む作業は、寄付者に対してもそうですが、寄付集めする側も含まれています。寄付集めをすればするほどやさしい気持ちになれる。そうした仕組みづくりをしていきたいものです。

そんなことはきれい事と思われるかもしれませんが、伴走支援をしている中で、これまで寄付者や関係者に喜んでもらうためにどんなことをされてきましたか?とお伺いすると、多くのやさしさや楽しさを含んだ話が出てくる団体さんは、ファンドレイジングがうまくいきます。

そうしたやさしさにアクセスすることが、一見遠回りのようでファンドレイジングの近道なんだろうなと思います。

今回は、書籍:非常識なやさしさをまとうを参考に、寄付集めをやさしくデザインするための指針についてまとめてみました。

著者の田中美咲さんは、社会起業家・ソーシャルデザイナーとして一般社団法人防災ガールや、車いすなどの障がいを持たれている方やリハビリ中の方の外出着などの服をインクルーシブデザインを行い、サスティナブルな方法で提供しているSOLIT株式会社を運営されています。SOLITは世界3大デザイン賞であるiF DESIGN AWARDの最高賞であるゴールドを受賞されています。


NPOのサステナビリティを考えてみる

この本では、これまでの活動でたくさんの失敗と成功をされていく中で行き着いた、大切なことが濃縮されて伝えられています。

服は大量生産・大量廃棄の業界と言われています。その中でSOLITは「必要とする人に、必要とされるものを、必要とする分しかつくらない」を哲学に「インクルーシブデザイン×セミオーダー制×受注生産」をされています。

そこで印象に残ったのが以下の表現でした。

ファッションのサステナビリティをとらえる時に、素材だけを環境によさそうなものに変えるだけでは意味がない。サプライチェーン全体での人権デューデリジェンスをはじめとして適正な生産量とプロダクトの寿命の長期化、そして情緒的な側面としてのプロダクトに対する「愛着」の形成など、構造的かつ多面的に推進しなくてはならない。

非常識なやさしさをまとう P153から抜粋

この考え方を拝借して考えてみます。

NPOのサステナビリティをとらえる時には、困難を抱えている人への支援活動だけに注力するのではなく、支援対象(人、環境や動物等も含む)・職員・ボランティア・理事・代表の権利が守られていること、必要以上のお金を集めようとしないこと、事業が継続したものになっていること、応援してくれる人たちが愛着を持てるようになっていること、こうした多面的に進められている中のひとつとして寄付が位置づけられていることが大切なのではないでしょうか。

もう一つ本書から気になったキーワードは「情緒的な耐久性」です。

素材は当初いわゆる再生ポリエステルやオーガニックコットン、植物由来の素材といった環境負荷の少なさを謳い文句にするものを検討したが、一部を除いては今はできる限り同一素材でリサイクルしやすいものを選択するようにしている。

また、多様な人が長く着たくなるプロダクトにするために着やすさや洗濯しやすさを重視して化学繊維や混合素材を活用することもある。実は環境負荷の低い素材を使うほうがかえって耐久性が落ちたり、リサイクルしづらかったりすることがある。そのうえ、大きなロットでつくらなければコストが上がってしまうことさえあるのだ。

(中略)だから、わたしたちは「世の中にある長く使える素材」を選択し、プロダクトに用いることに決めた。素材耐久性もさることながら、長く使ってもらうために商品の「情緒的な耐久性」も重要視している。

非常識なやさしさをまとう P146から抜粋

寄付募集のメッセージとしての「純粋にいい活動をしています」はいわば「オーガニックコットン100%でつくっています」なのかなと思います。

現代の私たちは、オーガニックコットン100%だからという基準だけでは服は選ばないと同様に、純粋にいい活動しているからという基準だけでは寄付先を選ばないのではないでしょうか。

こうしたことを考えると、寄付集めのデザインを考えていけるといいと思います。

寄付集めのデザインを考えてみる

寄付集めのデザインと聞くと、

「デザイン」って大げさではないですか?

と思うかもしれません。

しかし、対象者に情報を提供して寄付をお願いする一連の流れには、団体の考えや価値観、目指しているビジョン、体制などが影響してきます。それは無意識かもしれませんが何かしらのデザインがされており、それに多くの人が反応して寄付につながります。

本書ではデザインがいかに私たちに影響を与えているのかについて述べられています。

わたしたちは日々の暮らしの中でさまざまなものを生み出している。それらの範囲はわたしたちが日常的に発する言葉からデザイナーによる文具や家具・家電といったプロダクト、建築物に至るまでさまざまに及ぶ。これらが積み重なり、関係し合うことによって環境・社会が構成されているとも言える。

一方で、わたしたち自身もそうしてつむがれた環境・社会の中で生きている存在だ。つまり、「わたしたちがつくったものによってわたしたちの行動もデザインされている」と考えられるのだ。

(中略)

プロダクトをつくって終わりということはあり得ないことになる。自分たちが生み出したものの社会的責任はその後も続いていくのだ。これは少数の独立したコミュニティの中で生まれたものであろうが、公に公開されたものであろうが本質的な責任は変わらない。

加えて、その影響は短期的なものもあれば、時代を超えて影響を及ぼすものもある。だからこそ、何かをデザインするわたしたちはその責任として倫理と正義に基づき、「誰かを傷つけていないか」や「デザインを生み出すことの意味」を見つめ直す必要があるのではないだろうか。

非常識なやさしさをまとう P175から抜粋

上記の文章には、デザインの①影響力②社会的責任について述べられています。

①デザインの影響力

具体的にSOLITではサステナビリティに対して5つのコンセプトで実施されています。SOLITの服はこのデザインをもとにつくられて販売されるわけです。

1.NO MORE WASTE 不必要なものを生み出さない(P143)
2.LONG-LIFE PRODUCT 商品寿命の長期化(P145)
3.RECYCLING・PEPURPOSING リサイクルと再価値化(P147)
4.HUMAN RIGHTS 人権保護(P148)
5.BEYOND RULES 既存のルールのとらえ直し(P150)

当然、購入する人もこのデザインからなんらかの影響をうけて価値観や生活が変化し、SOLITの服を着ていることによって周りの人に対してもなんらかのメッセージを伝えることになります。

この考え方を借りてNPOのサステナビリティを考えてみると以下が一例として挙げられます。

1.説明がつかない不必要な寄付集めはしない
2.継続的な寄付者によって支えてもらう中長期の事業展開
3.寄付者には社会変化と自己変化をリターンとする
4.だれも無理しない・疲弊しない、寄付者も職員も
5.日本のここがおかしいを常に発信し、変えていく

もし、こうしたコンセプトで寄付集めのデザインをしたとするなら、寄付者はこのデザインに影響をうけるでしょう。

②社会的責任

影響力のあるデザインから生み出されたモノや活動は、人の思考や行動を変化させることから社会的責任があります。

その責任に対する4つの問いかけが本書ではされています。

1.歴史や文化、蓄積された価値観の地続きの中にいることを理解する。
過去になされた寄付のデザインが長年そのままで、現状と乖離していしまっていることがあります。その際に、過去の考え方や施策はすべてよくなかったと破棄するのではなく、何を大切にしていたのだろうか?、当時主流だった寄付の考え方や技術的なことはどんなことだったのか?などを確認して、変えるべきことと変えないことを明確にしていくことが大切です。団体らしさは、変えることと変えずにすることの両方で成り立っています。

2.アウトプットが手を離れて知らない人に伝わっていくことを想像する
寄付のデザインから生み出されたメッセージや制作物は、いったん公開するとそこからひとり歩きしていきます。様々な人に触れることになりますので、思いのよらない解釈をされることもあります。それがゆえに、多様な人を含めたデザインが重要になってきます。

3.自分の中に倫理観を持ち、伝える技術を養う
炎上しないためにエシカルチェックを専門家にお願いしたり、法務的なリスクがないか契約のリーガルチェックを弁護士にお願いする等の第三者に確認を依頼することはよくあります。しかし、それでわかるのは記載の表現上のリスクのみです。そのため、そうした第三者からの指摘を取り入れた総合的な判断基準として倫理観を自分たちで持てることがとても重要になります。

SOLITで使用しているエシカルチェックシートの一部が本書で提供されています。これに沿って毎回、自分たちの発信がどうかを個々が確認して伝え合っていくことで団体の倫理観が養われていきます。

非常識なやさしさをまとう P181から抜粋
※ルッキズムは「外見に基づく差別や偏見」として使用されることが多い概念です

4.多様な視点を持つ人と接する

寄付者や潜在支援者のことを活動をしているNPO側が理解しきることはありません。同様に、寄付者がいくら長期間継続寄付をしたからといって職員や当事者のことを理解しきることもありません。

それでも、分かりあう・理解しあう姿勢を持つことでパートナーシップを高めていけます。

さいごに:寄付集めを「やさしく」デザインするための指針

寄付集めは人の変化に影響するものなので、「どういう人たちに支援されていたいのか」と「その人たちにどういう状態であって欲しいのか」を決めて、そうなるようにデザインをしてくことです。

先に挙げた例である、

1.説明がつかない不必要な寄付集めはしない
2.継続的な寄付者によって支えてもらう中長期の事業展開
3.寄付者には社会変化と自己変化をリターンとする
4.だれも無理しない・疲弊しない、寄付者も職員も
5.日本のここがおかしいを常に発信し、変えていく

をきっかけに検討してみると、団体における寄付集めをやさしくデザインする指針になるのではないでしょうか。

社会を変えていくイメージを持っている団体さんは多くあります。それと同様に寄付集めをやさしくするイメージを持つことができると、それに向かって変化していくはずです。

寄付集めはつらい・・・そう思っている団体さんは、やさしい寄付集めのデザインをしてみてはいかがでしょうか。


今回のnoteを読んで、やさしい寄付集めのデザインの伴走支援を受けたいと思われた方は、公式LINEとホームページからお問い合わせください。

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