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歪な感情
体全体がひねり曲がって、折れ砕けているのと同様。
感情は深く黒く渦巻いている。
彼を見ていることは一種の舞台作品を見ているみたいだ。
もがき苦しんでいる。
その真っ赤に染まった目。
今にも内臓を吐いてしまいそうな口。
逆立った髪の毛。
あなたはあなたのままでいいんだよなんてわかりきったことだけれども、まだそんなことばをいわれたことのないあなたのためにいまここでいおう。あなたはあなたのままでいいんだよ。
彼は私の方を見た。
正確に言えば彼の内側に存在する何かが私という存在を知覚した。
崩れ落ちてしまいそうな沈黙が走る。
私は両手に汗をかきながら、白いスカートを強く握っている。
彼は、その肉体と精神が怪物となりかけている彼は、
二、三歩こちらへ歩き出すと、私の手を食べた。
白いショートケーキ見たいな味だ。
雪を食べているみたいだ。
私の腕から透明な血が流れる。
冷たい、そして痙攣。
彼はそのまま私を食べる。
腕の大部分を食べきってしまった時。
私は地面に膝をついた。
白い部屋の中。
空気中には粒子すらも浮かんでいないかのような沈黙。
彼はその大きな目でまだ私を見つめている。
わたしには彼を抱きしめることはできない。
そしてそんなことをしてもなにも意味がないことを知っている。
求めているものを手に入れるには時間が少なすぎた。
そもそも求めているものなどなに一つとしてなかった。
感情はうねりをあげてわたしと彼の間を泳ぐ。
ここでは言葉は形をなさない。
風と同じだ。
わたしは涙を流す。
彼はその涙をじょうろの中に入れる。
それは、優しさの表現なのかなにかのメタファーなのか。
じょうろの中に水溜まりができる。
きっとおたまじゃくしが泳いでる。
じょうろをなにもない場所で蒔いた。
私は腕を抑えながら彼に近づく。
灰となって消えかけてしまいそうな彼に。
そして優しく頬を撫でる。
砂にまみれてザラザラなその肌を。
そして、崩れゆくその感情を舌で舐めた。
作者コメント:宇宙葬って不思議やな
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