おふとんのなかのくに
お布団の中にいると、まるで宇宙を漂っている羊のような気分になるんだ。広いんだよそこは、ほんとうに広いんだ。どこまで進んでも終わりが見えない。ただただ星たちの瞬きが見えるだけさ。
外に出る?外に出る?
君は僕に外に出てこいと言うのかい?太陽がコンクリートを焼き付けている外に出ろと?いやだね。僕はいやだね。
いいじゃないか、君は外で暮らす。僕はお布団の中で暮らすよ。
何も問題なんてないじゃないか。
君は外の方が明るくて広いなんて言うけどさ、お布団の中に潜ったことがほんとうにあるのかい?あるのかい?
ダメだよ、お布団の中に潜って目を閉じたら。目は開けたままじゃなきゃいけない。当たり前だろう。目を閉じていたら何も見えないさ。耳を塞いでいたら何も聞こえないさ。ここは君が暮らしているところと違うのだから。
暗くて何も見えない?
違う、君が明るいことに慣れてしまったんだ。
何もかも見えることに慣れてしまったんだ。
目を凝らしてごらん、見開いてごらん。
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私は布団の中で目を見開いた。しかしそこは、彼の生暖かい匂いと暗闇の世界でしかなかった。星の瞬きなど見えもしなかった。もしかしたら、彼がこのまま私を布団の中に閉じ込めて窒息死させようとしているのではないかとまで考えた。そう思うと、暗いプールの底で溺れているみたいな気持ちになった。日曜日の午後だと言うのに、外は晴れていると言うのに。
なんで私はこんなところで、布団の中で目を開けていなければならないのだろう。考えても仕方がないことだ、大事なのは私が今ここにいると言う事実だ。布団の中でもがく、その暖かな塊がベットの下に落ちた。
あたりをも渡す。首を回す。
部屋の中には彼はいなかった。彼はどこにもいなかった。
ただ、私一人がベットの上に座っているだけだった。
「星なんて見えないじゃん。」
彼がいなくなってから、こんな夢ばかりだ。