ファンの写真と振り返るシェルドン・ノイジー ~日本シリーズにもファンにも愛された男~
ヘイト枠? いや、ノイジーを愛していたファンは確かにいた
今季終了を待たずに、誰よりもひっそりと球団を去っていった元・阪神タイガースのシェルドン・ノイジー。同時期入団のミエセスは球団や選手のSNSに写真や動画がアップされて別れを惜しまれていたのに、ノイジーは球団を通じて発表された数行テキストコメントだけでおしまい。お別れの姿も確認できなかった。寂しすぎる最後……。私は、そんなノイジーへの惜別の思いを込めて、記事をしたためたいと思った。
「でも、ノイジーの記事って誰か読んでくれるのかな?」
「それよりなにより、心ない言葉が飛んできたらどうしよう」
そう。ノイジーを応援していた私は目にしていた。X(旧Twitter)にずらっと並ぶノイジーへの心ない言葉を。批判は仕方がない。ファンだって真剣に応援しているんだから、ふがいないプレーには文句のひとつやふたつ言いたくもなる。でも、批判を超えた誹謗中傷、ヘイトのような言葉がいつしか大量に並ぶようになっていたのだ。それで勝手に胸をいためて、比較的穏健派のポストが多い「シェルドン」で検索するようになったほどだ。
「それでも……。これは仕事でもなんでもないnote。誰も読んでくれなくても、自己満足な記録として応援していた選手のことを書いたらええやん!」
ということでやっぱり書くことにした。でも、私のスマホの中には甲子園のレフトの守備につくノイジーの少しピンボケの後ろ姿の写真1枚しかなかった。ノイジーにはもっと素敵な瞬間もあったのに、この写真だけ載せたらなんだか寂しさだけが際立つ記事になってしまいそう……。
そのとき、Xのフォロワーさんたちのことを思い出した。
ずっと休眠状態だったのに、このnoteの立ち上げをきっかけに突如多くの阪神ファンの方々とつながることができたX。もしかしたらXで探したらもっといいノイジーの写真を撮ってる方がいるのでは!?
ちょうど日本シリーズのCMで「日本シリーズに愛された男」というキャッチコピーとともに、昨年のノイジーの3ランの映像が映し出された頃、いちかばちか、こんな投稿をした。
すると、たくさんのフォロワーさんが拡散してくださり、その先の方もまた拡散してくださり、なんと2時間も経たないうちに素敵な写真がたくさん集まったのだ……!ノイジーが嫌いだった人はきっとリポストもイイネもしてくれないはず。ましてや、こんなに素晴らしい写真は撮ることはできないはず。実はノイジーを応援していたり、愛していた人はこんなにもたくさんいたんだ!心がじんわり、あたたかくなった。(もちろん親切で拡散くださった方にも感謝です!)
そんなことで今回は、Xを通じて写真の掲載を申し出てくださった皆さんのプロ顔負けの撮影写真とともに、ノイジーの記事をお届けしたいと思う。あれもこれもと詰め込んだら長文になってしまったので、冒頭の目次から、気になるところだけでも。「ああ、こんなこともあったな」、「このノイジーの写真、かっこええやん!」とノイジー情報のまとめ版としても読んでもらえたらうれしい。
SPECIAL THANKS TO
この記事の素敵な写真を提供くださった皆様
(写真掲載順、Xのアカウント名)
@JR_KD_DD さん、 @riku_photo_1251 さん、@85soramaru23 さん、@celtic0215 さん、 @GaoGao118 さん、@RAMOKADADON さん、@noiakeee さん
真面目すぎるジェントルマンな男のギャップ
ノイジーは一時的に好調な時期はあったものの突き抜けた結果を残せず、チャンスに強いわけではなかった。“助っ人”としての働きを期待していた少なくないファンから「ノイジーよりも若手を起用して育てよ」との声が常にファンから噴出していた。そんなファンの言い分も十分理解できたが、それでも私はノイジーを応援していた。なぜか。寡黙で生真面目、それでいて仲間思いでナイスガイなところ、外国人選手に珍しく地道なチームプレーに徹する姿勢に惹かれていたからだ。そして、いつか爆発してくれることを期待していたから……。 たまに立つお立ち台でのヒーローインタビューでの受け答えもいたって真面目。常に阪神ファンへの感謝の言葉を口にする。何度も同じような質問をされても、何度も丁寧に答える。守備にもプライドを持っていて、守備固めを出されると怒る。 ふがいないバッティングをしたその後に、バットを叩きつけそうになるのをぐっと我慢している場面も何度も見た。たとえ自分が活躍しても浮かれすぎない。うれしい気持ちはチームメイトには見せても相手投手には失礼にあたるから見せないようにしていたそうだ。(そこまで気をつかわなくても……!)自分に厳しい男は気難しい顔をしていることも多く、坂本誠志郎捕手からは「シェルドン、口角上げて!」とアドバイスされるほどだった。 (https://x.gd/m8Q9b)(https://x.gd/x1zM9)より
だから、味方の得点や勝利の瞬間、選手とふざけているとき、ファンサービスの際に、時折見せる笑顔が貴重で輝いていた。「シェルドンが笑っとるやないかい……!」というレアなものを見たときの高揚感。他のファンも同じように感じていたのかもしれない。レアすぎるノリノリ笑顔で踊る下記のノイジーの映像は、ファンの間でもかなり話題になった。このギャップはノイジーの魅力のひとつだった。
ノイジーのナイスガイエピソード
ノイジーのナイスガイエピソードはたくさんある。
あのサトテルにノイジーが○○している……?
中でも私が印象に残っているのは、あの佐藤輝明選手へのアドバイスだ。ベンチ内で佐藤選手に何やら熱心に語りかけている。バッティング?守備?何についてかは不明だが、とにかく身振り手振りを加えて「こうやった方がいいよ……!」と真剣に訴えかけているのだ。その頃、ノイジーも決して調子が良かったとはいえない時期だったと思う。普通なら「いや、このオレが言うのもな……」とはばかられるところを、自分がどう思われるかよりも「テルのためになるのならば」との思いからの行動だろう。佐藤選手にとって本当に役に立ったのか、ありがた迷惑だったのかはわからないけれど、生真面目でまっすぐなノイジーならではの行動は私の胸には響いた。自分も調子が良くないのに仲間にアドバイスするなんて、なかなかできない。(嫌みじゃないよ)
数々のノイジー伝説
ノイジーは在籍した2年間トータルでは突出した数字は残せなかったが、記憶に残るプレーや出来事はたくさん残してくれた。
なんといっても日本シリーズ最終戦での値千金の3ランホームラン。あの一発が阪神に38年振りの日本一を引き寄せたといっても過言ではない。しかも試合終了の瞬間のオリックス・杉本選手のフライをキャッチ。これまでくすぶっていたことも多かったのに、いきなり歴史的な日の主役をかっさらった。2024年度SMBCの日本シリーズのCMにも「日本シリーズに愛された男」というキャッチコピーとともにあのホームランの動画が流れたように、これからも日本シリーズや阪神の歴史を語る上で何度もノイジーの姿を拝むことになるだろう。
個人的には、その前夜の第6戦に今やメジャーのワールドチャンピオンの一員、山本由伸投手から打ったソロホームランも印象に残っている。山本投手に抑えこまれていた阪神打線の中、一人気を吐いたのがあのノイジーだったのだ。そのとき、私は甲子園にいた。パブリックビューイングで京セラドームの試合を観戦していたのだ。甲子園の観客でさえ沈黙する試合展開の中、目の覚めるような一発!隣に座っていたお兄さんがものすごい勢いでリュックから何かを取り出し、バッと広げ立ち上がった。ノイジーの応援タオルだ!「おぉぉぉー!」私たち家族は指さして叫んだ。お兄さんも「まさか!」という顔でタオルを掲げ叫ぶ。あの日、結局負けてしまったけれどノイジーのおかげでお兄さんや周囲の阪神ファンたちと歓喜を味わうことができた。お兄さんがリュックにノイジーのタオルをこっそりとしまい込んでいたように、人知れずノイジーの活躍を祈っていた人は少なからずいたと思う。確信は持てていなかっただけで。その思いに応えるかのようにあの日、次の日と確実にノイジーは日本シリーズ男になった。私もノイジーの活躍をずっと祈るように願っていたひとりとして、この上なく報われた瞬間だった。
いぶし銀的なプレーも多かった。2024年4月のDeNA戦、満塁のチャンスで二度も四球を選んで押し出し2得点をあげた。9回の押し出し四球を選んだ場面では阪神ベンチの仲間に向かって雄叫びをあげた。外国人野手はとにかく“打ちたい”選手が多い。その中で二度も大切な場面で押し出しを選ぶという究極のチームプレー。これが決勝点となり、ヒーローインタビューにも選ばれた。
実はSNSトレンドの常連だった
ノイジー伝説は他にもある。出られる選手がいなくなっての「代走ノイジー」や、わざとゆっくり捕球するように見せて強肩で2塁を刺す「ノイジーの捕殺」、「ノイジーの肩」、相手の悪送球の間に記録した「ノイジーの盗塁」、ファンが期待していない思わぬときに活躍する「ノイジーの意地」といった言葉はたびたびXを賑わすことが多かった。日頃は批判的なコメントの方が多かったが、その分、時々「あのノイジーが!」とファンが沸いた。なんだかんだ、みんなノイジーが気になっていた。心の奥底では応援していた人も多かったのではないかと思う。
2024年は6月にファームに落ちて以降、二度と1軍でプレーすることはなかった。それでも、リュックになぜか大山悠輔選手のマスコットキーホルダーを付けて鳴尾浜球場に現れたり、子どもたちとの触れ合いイベントでは子ども目線でおどけて楽しませたり、ファンのサインの求めに応じたり。最後まで「阪神タイガースの一員」であろうとしてくれていたと思う。肝心の成績が上がらず1軍に上がってこれなかったこと、メジャー時代に本職だった内野での守備が一度も試合で見られなかったことが今でも残念でならない。
ミエセスとノイジー、オマリーとパチョレック
同時期入団で年齢も近い外国人選手としてミエセスとノイジーはセットで語られることが多かった。この二人、とても対照的だった。TikTok ,InstagramとSNSを駆使し、まるでインフルエンサーのように頻繁に更新したりライブ配信を行っていたミエセスとは対照的に、ノイジーはXとInstagramのアカウントはあるものの、数年間休眠しているような状態でまったく更新なし。「ミエちゃん、主役ちゃうよ」と岡田監督からも突っ込まれたように明るく場を盛り上げるのはミエセスで、ノイジーは自ら目立つようなことはしなかった。それでも、二人のツーショットはたびたび見られた。お互いにいたずらしてみせたり、時々言い合ってみたり。キャラの異なる二人だからこそ、その絡みがなんだか微笑ましかった。気遣いの男・ノイジーもミエセスに対してはまったく気を遣っていないように見えた。
そんな二人の宿命なのかセットで退団となってしまったのだが、その直前に不穏なことが起きた。ファームの練習場で二人が言い合いしている姿がファンによって目撃されたのだ。それを見たファンはSNSでみな「絶対にミエセスが悪い(笑)」。誰も会話を聞いていないのに、冗談まじりで多くのファンはそう書き込んだ。「真面目なノイジー」、「おふざけのミエセス」という対照的な性格をファンが熟知していることが再認識できた瞬間だった。その翌日、退団が発表された。あの言い争いはなんだったんだろう。最後の捨て台詞?最後の真剣なアドバイス?……何にしろ、仲直りしてからお別れできたのかな。今でも気になってしまう。
ミエセスとノイジーを見て個人的に思い出すのは1992~3年頃、ともに阪神で活躍したのオマリーとパチョレックだ。陽気なオマリーは「阪神ファンはイチバンや~!」と言って球場を沸かせたり、お世辞にも上手とはいえない歌声で「六甲おろし」のCDまで発売したりして名実ともに人気者だった。一方パチョレックは紳士で物静かな野球職人、といった雰囲気。やはり私はパチョレックが好きだった。オマリーはその後、ヤクルトに移籍、現役引退後も阪神のコーチなどで活躍した。一方パチョレックはひっそりと引退し米国に帰国した。サンテレビの番組だっただろうか?そんなパチョレックの退団を特集していたのは。エルトン・ジョンの「YOUR SONG」をBGMに夕暮れのグラウンドで静かにランニングするパチョレックが映され、番組はエンディングを迎えた。私は今でも「YOUR SONG」を聴くとパチョレックを思い出す。あんなに活躍したパチョレックでさえその後は目にすることはなかったから、ノイジーのことも目にすることはないのかな……と勝手に想像して寂しくなる。できれば日本で、難しくてもどこかで野球を続けていつかまたひと花を咲かせてほしい。
ノイジーの置き土産
冒頭に書いたように、ノイジーが活躍したときにXで「ノイジー」ではなく「シェルドン」と検索していた私。すると、ノイジーをあたたかく応援する投稿以外ではよく「ヤング・シェルドン」という言葉を見かけた。アメリカドラマのタイトルだった。何度も目にするうちに気になって、Amazon primeで配信していたから見てみた。全然野球とは関係ない風変わりな天才児のお話だったのだが、これがおもしろかったのだ!たくさんシーズンがあるから、まだ見終わっていない。ノイジーがいなかったら出会えていなかったドラマだよ、ありがとう。
そして、なによりもこの記事に掲載されている素晴らしい写真や、写真の掲載を申し出てくれた方々、拡散してくれたフォロワーさんやその先の皆さんの存在と出会わせてくれて、「Xって心ない言葉も溢れるけど、心ある人もたくさんいる」ってことを改めて教えてくれた。
阪神タイガースの38年ぶりという最高の夢とともに置き土産までくれたシェルドン・ノイジー。ありがとう、さようなら。どうかこれから先、幸せな野球人生を。レッツゴー シェルドン!
#SheldonNeuse
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