第2話 その差はなんですか
一年に一度くらいは実家に帰るのがあたりまえだと思ってた。
旦那は仕事でしばらくいないから、わんこのぼっちゃんとふたり旅。
18時間の船旅は、何度かやってみたけど、ぼっちゃんにはかわいそうなことだから、遠すぎて途中くじけそうになったけど、車で帰った。
19歳で実家を離れ、22歳で一度目の結婚。(その話はまた今度)
18年間住んでた家は、年々自分の知らない他人の家に変わっていった。
「疲れたでしょう〜、ゆっくりしなさい〜」
「お茶でも飲んで、ほら」
「ぼっちゃん良い子にしてたの〜えらいねぇ〜」
嬉しそうな両親の顔を見たら、10時間一人で運転して大変だったけど、帰ってきて良かったと思えた。
平日なのに、なんで父親はいるんだ?って気はしたけど、遠くに住む可愛い娘が久しぶりに帰ってくるんだから、仕事休んだのか?くらいの、私って大事にされてるなぁ、それくらいにしか思わなかった。
寝たきりのばあちゃんにも挨拶する。
ばあちゃんはラスボスだ。(その話もあとで書かなければと思う)
母親に頼まれたお土産を広げて見せる。
母親は世間体を気にする見栄っ張りだから、土産は同じものを何個も買ってくるように言われる。
そして、ご近所さんに持って行くように言われる。
「あらぁ〜遠くから大変だったわねぇ〜、いつもいつも、お父様とお母様にはお世話になってるのよ〜」
そんなこと言いながら、うちの実家のシェルティとは比較できないくらい、国産牛肉大好きなおぼっちゃまゴールデンレトリバーをナデナデしてる。
「こちらこそ親がお世話になりありがとうございます〜」
とりあえず、話することなんてないし、苦痛な何分間かを笑顔でやりすごし、会話にならない「ど〜も〜、はい〜、では〜」みたいな感じで玄関のドアを閉めて家に逃げ帰る。
次がまた厄介だ。
隣には伯母がいる。父親の姉だが、これが仲が悪い。そこにばあちゃん問題を抱えた母親も絡んでくるから、とにかく複雑だった。
子供の頃は庭が繋がってて、いつも庭から直接遊びにいけたのに、いつの間にか塀ができてしまった。だから、玄関からピンポンしなきゃいけない。庭からいける方法もあるけど、母親が玄関から行きなさいっていう。すごく嫌だ。
私はおばちゃんが好きだ。
独特の感性の持ち主で、私が小さい頃から可愛がってくれた。お小遣いもくれる。
小学校の先生をしてたおばちゃんは、折り紙でいろんなものを作る。
帰るたびにハマって作ってるものが変わる。
くす玉みたいなやつ、鶴、うさぎ、箸入れ、爪楊枝入れ、ほおずきみたいなやつ
これ貰ってもなぁ〜とは思うけど、おばちゃんが喜んでくれるから、私は嬉しそうになんでも貰う。いとこのねーちゃんも参加して、これ飲みなさい、これ食べなさいって、緑茶がでてきたり、紅茶がでてきたり、大福、クッキー、忙しい。
おばちゃんは早口でいろんなこと喋ってる、いとこも話す、ほんと、忙しい。私が帰ってきて喜んでくれてるんだな〜って嬉しく思った。
それなのに、いきなり、帰りなさい、って言う。
「あんたんとこの父さんめんどくさいから、ほれ、迎えにくるから!帰りなさい!」
「何日かゆっくりしてくんでしょ?また遊びにおいでね、庭からおいで、庭から」
おばちゃんはそう言った。
家に戻ると、あきらかに母親の機嫌が悪い。
「おばちゃんなんか言ってた?」
「え〜、べつに〜、これくれたよ〜」
「またこんなの」って顔が鬼か!
はぁ。なんか心臓キュってなる。
おばちゃんが言ってたことを、そのまま母親に伝えてたら、どうなってたんだろ、鬼通り越えて何になってたんだろ。
なんとか話題を切り替えて、母親の機嫌をとり、夕食の準備。
すき焼きらしい。
珍しい、私が帰った時は普通のご飯なのに。
そう、夕飯がすき焼きか出前寿司の時は、あいつが帰ってくる。
あいつとは3つ離れた姉だ。
私が小4あたりから口を聞いてない姉だ。(その話も後に書かなければいけない)
姉は高校時代の友達と会うから遅くなるらしい、だから先に食べてようと、すき焼きが始まった。
会話のない父親と母親の空気をなんとかしようと、いろんな話題で盛り上げた。
食欲旺盛な私はパクパク食べた。
「ちょっと、お肉そんなに食べないでよ、お姉ちゃんの分取っといてよ」
ん?
耳を疑った。
フェリーで4時間、青森から10時間走り続け、久しぶりに帰ってきた私に言ってるのか?
たかだか1時間半電車に乗って帰ってきただけの姉に、肉を残せと?
無くなるほど食べてないわ!
姉妹でその差はなんなんだよ!