第18話 ビールは食費に含まれません
モラ男との離婚調停は、前にも書いたが、どれくらい続いたのか、はっきり覚えていない。けれど、次の調停までの期間がすごく長かった気がする。
最初のころ、モラ男が実家に帰っての別居生活だった。それは幸せと言っては何だが、会うこともないし、精神的に救われた。
一回目か二回目の調停の時に、別居してても生活費を払う義務がある、みたいな話になった。相談した弁護士さんによると、7万だか8万だか、モラ男が私に払わなければいけないという内容だったはずだ。モラ男もそれでいいと言ったようだ。
調停では一切会うことないようにしていた。だから、どういう顔をしてたのかは知らないけど、それでいいと言ってたと聞いた。
私にしてみたら、心に余裕ができた。それに、一緒に生活してる間、生活費に1万円しか現金でくれなかったし、仕事に行くのは禁止されてた私からしたら、回転寿司で働いたお金は入ってくるし、7万くれるなら、それはラッキーな話だった。
しかし、どういうことなのだ、逆の出来事が起こった。
ある日突然、モラ男が帰ってきたのだ。
別居したら払わなくてはいけないという、その金額を払いたくないから、だったら、一緒に生活すると。
そこからはさらなる地獄の生活が始まった。
モラ男は自分の部屋に鍵をかけ、基本そこから出てくることはない。
出てくることはなくても、仕事に行く時、トイレ行く時、お風呂入る時、モラ男に会わないように生活しなければいけない。
最悪な生活だ。
その頃一緒に生活していたダックスのとっちゃんにはかわいそうなことをした。モラ男が家にいれば気になったはずだ。モラ男がいる間、静かにしてねって、とっちゃんにも窮屈な生活をさせてしまった。
だんだん生活パターンを覚え、同じ家に住んでいても会うことなく生活することができた。
洗濯物は見かけたことがないから、それは実家に持っていってたようだ。モラ男が仕事休みの土日もいなかった気がする。
とにかく、お金を払いたくない、払えないという理由だけで、平日寝るだけに帰ってきてたのだ。
そして何か言いたいことがあると、A4の用紙に、マジックでデカデカと文字が書かれていた。
生活にかかったお金は、レシートを提出するというものだった。食費に関しては使った分支払うというのだ。
言われた通りに、机の上にレシートを置いておくと、A4の用紙に、食費○○円とデカデカとマジックで書かれ、お金が置いてあった。
1円単位できっちりだ。
『細かいやつだな』と思いながらも、それでも、レシートの金額を見てるくらいだろうと思ってた。
しかし、ある時、震えた。
それまでは恐怖で震えていたが、その時は気持ち悪くて震えた。
いつものようにA4の用紙にマジックで『ビールはあなたの嗜好品であり、食費には含まれません』と、ビール代を抜いた金額がデカデカと書かれ、お金が置いてあったのだ。
しっかりとレシートの中身もチェックしてたのだ。
さすがモラ男だ。
この人との結婚生活は短いものだったが、書くことはありすぎる。
私はモラ男との生活を、とくに私は裁判までいきたかったので、いろんな証拠を揃えていた。毎日日記を書き、そのA4の用紙も取っておいた。録音もあった。
けど、自分で新しい生活を始めていくときに、これを持ってたらイライラするし、と思い、捨ててしまったのだ。
これを書いてる今、捨ててしまったことを後悔してる。しかし、何年続いたとか、春だったのか夏だったのかも、いろんなことを忘れてしまったが、言われた言葉は忘れてはいない。