第21話 全身に地図
最初の離婚の時に、精神的に蕁麻疹がでた私は、疲れが溜まったりすると、たまにでるようになった。
26歳で初めて働いた夜の店は、その頃55歳くらいになるママと、女の子が私の他に5人くらいいた。
チーママ的存在の先輩は、明るくて、面倒見が良くて、人を使うのが上手な人だった。昔ヤンキーだったんだろうなって感じの、その人に何か頼まれたら断れなかった。
その下の先輩は、見るからに怖くて、威圧的な人だった。
私が入店して半年くらいした頃、チーママ的先輩が辞めた。それからは嫌な時代が少し続いた。威圧的な先輩と二人きりになるのがとても苦痛だった。
何をするにも態度がデカくて、タバコ吸いながら「あんたさ〜」なんて話しかけられたものなら、絶対いい話じゃないと思ったし、とにかく睨んでくるから怖かった。
お客さんに対しても、威圧的で、それでもファンが少しいたのは、たまに弱い姿を見せたからなのか、本当に数人だけ、その先輩のお客さんがいた。
たまに飲みに付き合いなさいと、店が終わってから、その先輩の行く店に連れて行かれた。なかなか地獄の時間だった。
お酒の飲み方がひどくて、そこの店の店員が彼氏だったのか、元カレだったのか、とにかく喧嘩みたいのがよく始まった。
けど、必ず最後は泣いてたから、威圧的な態度を常にしてるけど、気持ちは弱いんだなと思った。
その先輩が辞める時も飲みに誘われて、酔っ払った先輩は、私に抱きつき「あんたのことは大嫌いだったけど、大嫌いだったわけでもない」と言われた。
なんとなく、和解した感じはあったが、二度と会いたくない人だと思った。
その後、会うことはなかった。
威圧的な先輩がいなくなってからは、私はチーママ的な存在になったのだが、ママは、うちの店にチーママはいない、女の子は皆平等だと言っていた。平等だと言いながら、私の負担は大きかった。
お客さんを呼ぶように言われるから、お願いして来てもらっても、私の仕事はお客さんと呼ぶことであって、あとは、そのお客さんには新人とか、別の子を席につけて、私は他のフリーで来たお客さんの相手とか、売上が足りないお客さんの席に行くように言われた。
私が呼んだお客さんは、なんでお前が席につかないんだと怒って、その後頼んでも「どうせ席につかないんでしょ」と、来る回数が減った。
そりゃそうだ。
私はビールが好きだった。というか、ウイスキーが苦手だった。水割りが苦手だった。ボトルが入ってなんぼの売上だから、基本はウイスキーを飲まなくてはいけない。売上のために、ウイスキーを烏龍茶で割った。私はそれがさらに嫌いだった。
なので、どうしてもあそこのボトルを空けろという指示の時は、ロックで飲んだ。ロックの方が飲めた。
もちろん、酔っ払う。だから帰りによくママに文句言った。
「辞めてやる」って鍵を投げつけて帰ったこともある。
ママに逆らったのはあんたくらいだと良く言われたが、ママが私に良くしてくれてたことはわかっていたから頑張った。
ママは必ず気に入らない子を作る人だった。その子の文句を永遠聞かされたけど、私が辞めてからも5人くらい、話を聞いたが、毎回人は変わっても言ってることは同じだった。
女の子も悪いが、毎回同じことで文句言ってるママもなんだかなぁと思った。
私のことも同じように言ってたんだろうな、ってのがよくわかった。
私は、熱があまりでない、喉だけ痛いような風邪をよくひいた。口の中にはいつも口内炎がたくさんできてた。筋状の口内炎はどんでもなく痛かった。そういえば、最近は全然口内炎ができない。あの苦しみがないのがこんなに幸せなのかと、疲れとストレスは恐ろしいものだ。
ママは、店をやってると風邪なんてひくことがない、風邪をひくのは気合が足りないと言う人だった。
ある時、珍しく熱が出た。休みたいと伝えたが、休ませてもらえなかった。店に着くと少しして、体中が痒くなった。今まで見たことないくらい、ポツポツと蕁麻疹が出始めた。
するとママは心配して、これを飲みなさいと薬を渡された。蕁麻疹にきく薬だったんだと思う。けど、飲んだ後に瓶を見て心配になった。8年以上前の薬だった。
薬が効くこともなく、蕁麻疹はひどくなっていった。そこで初めてママが「救急病院にいきなさい」と言った。
心の中で、もっと早く言ってくれと思ったが、やっと病院に行くことができた。救急病院は混んでて、いつ呼ばれるかわからない。身体中が痒い。トイレに行ってみてみたら、全身に世界地図ができてるかんじだった。写真撮りたいくらい見事だった。
待合室に戻ってからも、痒くて痒くて仕方ない、少しして看護婦さんが保冷剤みたいの持ってきてくれた。
1時間くらい待たされただろうか、女の先生で「よくこの状態で耐えたね」と言われた。いやいや、耐えたねっていうか、耐えるしかなかったじゃないか。。。
すぐ点滴してくれて生き返った。
一応ママに電話して説明した。
「今日は店は暇だし、休んでいいから、帰ってゆっくりしなさい」と言われた。
言われなくても店行かないわ、と思った。もっと早く病院行けたら、あんなに苦しい思いしなかったのに。