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上林暁とMIDNIGHT PIZZA CLUB

ビールを飲むことでしか得られない美味さがあるように、紙の本を読むことでしか得られない幸福感があると僕は常々思う。

医師国家試験の勉強で機械的に症例問題を分析することでしか活字に触れていなかったため、試験が終わって読書習慣を再開したときの喜びは並々ならぬものであった。

特に、『上林暁傑作小説集 星を撒いた街』『MIDNIGHT PIZZA CLUB 1st BLAZE LANGTANG VALLEY』の2冊では、ひとつ前の記事にも少し書いたが、生きた活字を浴びることの幸せを存分に味わうことができた。

上林暁は昭和の私小説家であり、この小説集『星を撒いた街』は待望の再販でようやく手に入れることができた。これまで随筆集『文と本と旅と』と小説集『孤独先生』で上林暁作品に触れて抱いた印象は、現在とは異なる昭和の文体でありながら情景や心情がありありと想起されて、半分映画のような楽しみ方ができるなということだった。澄んだ朝の空気のように綺麗な手触りの文体や、普段は心の奥底に格納された情愛が引き摺り出されるような描写など、文章の純度が高く、言葉が身体に蓄積されていく感覚がある。小説集『命の家』は買ったまま未だ読んでいないので、この勢いのまま読んでみようと思う。

『MIDNIGHT PIZZA CLUB〜』はこの冬の話題書の筆頭格であり、僕も国家試験の勉強を放り出して読みたいところを我慢して、ようやく読むことができた。とにかく上出さんの文章が面白すぎる。ポッドキャストなどの音声コンテンツで聞く上出さんの、あの若干後ろに重心が乗った軽妙な語り口がそのまま文章にも立ち現れていて文章として仕上がりまくっている。僕が本を読んでいて声を出して笑ったのはこの本が殆ど初めてといっても過言ではない。

上林暁とMIDNIGHT PIZZA CLUB、時代も背景も異なる両者の文章だが、どちらも間違いなく生き生きとした活字で僕の心を満たしてくれた。この感情を書き起こしたい、この体験を文章にしたい、という両者のシンプルな熱量がダイレクトに伝わってきて本当に読み応えがある。だから読書ってやめられない。

この2冊以外にも、国家試験が終わってから貪るようにして読んだ/読んでいる本がたくさんある。国家試験後の僕の活字欲を解消してくれたリスペクトの表明も兼ねて、ここで読書記録としてまとめて紹介する。

●コロナ禍と出会い直す 不要不急の人類学ノート

●ハイパーたいくつ

●地球と書いて〈ほし〉って読むな

●ニューワード ニューワールド 言葉をアップデートし、世界を再定義する

引っ越しを控えて増え続ける本をどうまとめていくかが目下の課題なのだが、今は時間と余裕があるため、ここぞとばかりに活字欲が加速していくところが嬉しい悩みの種ではあるのです。

それではまた。

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