#116【育爺日記Eps.24】あらたなる「時の守護者」
2024年10月19日、土曜日、時刻は朝8時30分。
「お父さーん、パン、焼けたよぉー。」
珍しく、起きてこない父に、階下から声をかける。
「あぁ、今、行くよ・・・。」
”ん?なんか元気なくね・・・?。”
自室から降りて来て、食卓についた父は、どことなくションボリと、コーンスープをすすり、パンをかじる。
「ん?なんか元気ないね?どっか痛い所でもあるん?」
「ん・・・いや、別にないさ。」
「どうしたの?言ってみ?」
「ん・・・あのね・・・、俺の腕時計・・・止まっちゃったんだ・・・。」
”なんですとっ?!”
「どれ・・・見せてみ?」
父は、止まった腕時計を腕から外した。確かに、5時20分で止まっている。もう10年位前の「オリエント」製だ。2万円位かな?こりゃ・・・。
”電池交換すれば、まだ動くんじゃね?”
「俺の腕時計が止まったって事はさ・・・俺も、もう・・・長くないって事だよな・・・。」
「え・・・・・・・。」
「ま、別にさ、もうさ、腕時計なんかなくてもいいんだけどさ。この家、いい時計が沢山あって、俺の部屋にも、いい掛け時計がある。施設にも大きな時計があるし。後、何年生きるかわからないお先短い俺には、腕時計なんか、”もう、いらない。” そう言われた気がするんだ・・・。」
そう言って父は、益々、ガッカリと肩を落とし、ホットソイをすする。
「・・・・・・・・。」
こいつは・・・
忌々しき緊急事態である。
「腕時計なんか、もういらない。」というのは、父にとっては、「お前なんか、もうこの世にはいらない。」と、そう引導渡されたのと変わらない。
「電池交換すればいい。」とか、そういう「チャチャッとやっつければいい案件」ではない。父にとって腕時計は、「父の時」を護る守護者だ。
その”守護者”が不在のままでは、父のメンタルは、どんどん下がってしまうだろう。案外、こういう些細な事が、認知症への取っ掛かりになるのかも知れない・・・。
「大丈夫だよ。お父さん。だったら、”新しい腕時計”を買いに行こうっ!!」
「え?!あ、新しい腕時計?俺が?!だ、だって・・・。俺、もう後何年生きるかわからないし・・・。今更、腕時計なんか買ってもさ・・・。もったいないよ・・・。」
「何言ってるん?いつも身に付けているものがなければ、不便でしょ?そういう”装備品”って、大事だよ。後、何年生きるか、わからないからこそ、大事なんじゃないの?」
「そ・・・そうかな・・・。買ってもいいのかな?新しい腕時計・・・。だったらさ、ちょっと良いヤツが欲しいな🩷あるかな?どういうのが、良いかな?」
あるさ~w お父さんに、相応しい腕時計は、ズバリっ!!
✨✨✨ グランドSEIKO ✨✨✨
因みに、定価価格帯は、¥37万4千円位~¥133万1千円位(税込み)
えええええええええ?!😱
そ、そんなするの??? く、車が買えるじゃん・・・💦
そんな高いヤツじゃなくていいよ💦💦💦(父)
「んだなw お父さんの買える価格帯で、気に入ったのを買えばいいよ。」(お父さんの金銭感覚をテストしただけさw 合格!w)
「やったーっ!!! 🩷」
「朝ご飯、食べたらすぐ行くぞ! 10時には出発だ!!」
「よしっ!!✨」
「お金は自分で出すんだよっ!!(お小遣い貯めてるよねぇ?)」
「はい・・・😭」
私は午前中の予定を全てキャンセルし、父を車に乗せて、かつては「東洋一」と呼ばれた巨大ショッピングモールへ向かった。
土・日のショッピングモールの混み様は、ハンパない。
約5,000台を収容できる広大な駐車場では、自分の車を何処に止めたのか?わからなくなってしまう”遭難者”が続出する。しかし、午前中であるならば、まだ、適正な場所に駐車できる可能性が高い。
人混みの中を高齢者を連れて歩くのは、非常にリスキーだ。なので、普段、必要があれば、平日の空いている時間帯に来る。しかし、この案件に関しては、「緊急」を要する。
いつも巡回している「時計屋」さんへ続く最短距離の屋上駐車場に車を止め、父を車から降ろす。お気に入りの野球帽を目深に被り、トレッキングポール2本をしっかりと握りしめ、ビシッとエレベーター前にスタンバイする父。
「お父さん、準備はいいか?!」
「いいぞ。」
「では、時計屋さんへ向けて、参ろう!!」
「うむっ!!!」
本当は、車イスを借りて行った方が、全然楽なんだけどねw ま、そこは「リハビリ」って事で。まぁまぁ、ボチボチ歩いて行けば・・・。
いやいや、速い速いwww
父の歩く速度が、2年前に比べ、確実にupしている。だがしかし、肝心の時計屋に辿り着いた途端、父は、箱根駅伝でゴールした走者並みにグッタリ・・・w
「も、もうもうもう・・・いいよ、お前が選んでくれたらいいよ・・・。俺は、ここで座らせてもらう・・・。」
丁度、時計屋さんの前にあったフロアのソファーに父は、どっかりと腰掛けた。
「承知した。後は任せろっ!!🩷」
実は、私自身も「腕時計」は、だーい好き!!😍
そんな高級な腕時計は買えないけれど、ネットで夜な夜な、各種腕時計をチェックしては、「はぁ・・・こういうの素敵!!」とか「うわぁ~いいなぁ~。🩷」と、ひとり悦に浸っている事もしばしばw
内心は、ヨダれタラタラ、目はギラギラで、店内に突入して行ったwww
何より、今日は、「スポンサー」がいる。
人の金で、自分の良いと思ったものが買えるのって、幸せだよねーっ!!!w
(ウッシャシャシャシャwww)
そして、選んだ腕時計が、こちらっ!! ✨
その上、文字盤を見てわかるように、「ワールドタイム仕様」で、海外に行った際も、現地の電波を自動受信して、時間を合わせてくれるという、優れもの! (父には無用の装備だがw)
シンプルながら、装備充実。とても良い作りだ。この装備なら、お値段もお手頃だろう。老舗SEIKOのこだわりと良心を感じる。
装着した感じは、こんな感じ。⬇️
「これ、どうよ?お父さん・・・。これ、いいぞぉぉぉう?✨✨✨」
おぉぉぉー!! 素敵だ~っ!!
しかも”SEIKO”じゃん!!!😍
父の世代は、憧れの腕時計と言えば、「SEIKO」か「シチズン」なのだw
ショーケースから出してもらった腕時計を、父は、誰に教わる事もなく、そっと手に取って、スチャと自分の腕にはめてみせた。(お?!やるな!w)
父の太い腕に、大きな文字盤とチタンの「いぶし銀」がよく映える。
「どう?!似合うか?!大丈夫かな?こんな良い時計・・・。」
みなぎるぅー!!!😍
って、感じかなw
本当に、久しぶりに・・・。何十年ぶりだろうか・・・。
今朝、あれだけシュンとしていた父の顔に、みるみる生気が甦る。
まさしく、「時の守護者」が父の腕に降臨した様なw
何よりも、それが決め手となって、購入を決めた。
「じゃ、お金、払ってね。セール特価¥47,740円(税込み)だから。🩷」
「あ、はい・・・。えぇ~と、財布ね・・・。貯金、持って来たから大丈夫!」
お会計も父が自分でちゃんと紙幣を数え、小銭までピッタリ出すことが出来た。(これもリハビリだ。合格w)
バンド調整をしてもらうと、「このまま、して帰りたいんだが、いいかな?」と店員さんに言い、箱と保証書だけを頂いて、無事に帰路についた。
「また見ちゃった!🩷(新しい腕時計)」
「あそう。さっきも見たばっかだから、変わらないでしょ・・・。」
「いや、変わったよ!!5分、進んだもん。うふふ🩷」
「そっかぁ、そいつぁ良かったねぇ・・・。」
ハンドルを切りながら、ルームミラー越しに、後部座席を覗く。父は、まるで小学生の男の子の様にはしゃいでいた。
「ねね、今、何時か、聞いて聞いて!! 🩷」
「(またかよ・・・)今、何時なのお父さん?」
「今ねー、1時15分でーす!! うふふ🩷 また見ちゃったよ。俺www」
「いや、俺、すごーく嬉しくってさw これじゃぁ、小学生の男の子みたいだよな?アハハハw」
”わかってんじゃねーか・・・。”
「ホラホラ!! また、5分、ちゃんと進んだよ!! 今、1時20ぷーん!! また見ちゃった🩷うふふ🩷」
”大丈夫か?みなぎり過ぎて、幼児返りしてないかぁー?”
「新しい時計、いいなぁ~✨Ilsa子に選んでもらった時計、俺、大事にするよぉう! 毎日、この時計を見ながら、もう少し、頑張って生きなきゃ・・・。」
”ったく・・・そういう事、案外、チョロッと言うよね・・・。”
こたびのミッションは、無事にコンプリートしたようだ。
「じゃ、お父さん、家まで、何分かかるか?時計、見ててね。」
「よしきたっ!!😍 今ね、お店出てから、15分経ってるよぉ~🩷」
”見当障害は、まだ大丈夫そうだな・・・。合格!!”
結局、家まで、父の「はしゃいだカウントダウン」で帰って来た。
介護とは、戦略だ。
その人が「守っている事」は、その人を「護っているもの」である場合が多い。そこを見極めて、適宜、適切な対応を取ることが大切だと思う。
まぁこれは、「介護案件」でなくとも、相手が「認知症」であっても、そうでなくても、「人が大事にしてるものは、大事にしてあげたいよね。」という事に通じると思う。
こうして日夜、「タイガー&ドラゴン」の戦いは続くw
長文におつきあいいただき、ありがとうございました。
【 育爺日記 】マガジンにておまとめ中。⬇️⬇️⬇️