【書評】増補 日本美術を見る眼 東と西の出会い
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★コメント★
高階秀爾の本読了3冊目。
気張って読もうと手をつけたわけではなく、本屋の文庫棚で見かけ、高階秀爾なので間違いはないものと判断して買い、高階秀爾なので面白いだろうと躊躇せず積まずに一息に読み通した1冊。高階秀爾の文章は表現も論理も非常に明瞭なので、読んでいて心地いい。そして、取り上げている主題の良さが読後に「間違いのない」教養として残る。
内容は、国立西洋美術館(nmwa)・東京国立博物館(トーハク)・東京国立近代美術館(MoMAT)・京都国立近代美術館(MoMAK)の常設展に何度も足を運ぶような人なら、あるいはNHK日曜美術館を欠かさず視るような美術ファンなら、よく見聞きするパワーワードあるいは「標準的」な言説の多くが、この本できちんとその出自や文脈が確かめられる。巻末で高階秀爾は「試論」という言い方をしているが、初版刊行後30年経った現在、ここで書かれた内容は今や近代美術における「標準的」な言説と捉えて差し支えないのではなかろうか。美術に関する専門教育を受けていないので確たることは言えないけれど。
今の美術教育がどのようなものか全く知らないが、音楽専攻を除く芸大・美大生なら、細かな各自の専門以前にこの本の内容程度はみな教養として知っている(いわんや教員をや)、という理解で良いのだろうか。
タイトルからは想像していなかったが、日本の近代美術の成立や発展(=紆余曲折)にまつわる多くの事柄やそこに関わる多様な人物についての知識や理解が得られた(=「日本の近代美術史」を学べた)ことも、良かった。例えば、ちょうど今MoMAT「重要文化財の秘密」展で《鮭》が出展されている高橋由一のことなど。
内容として100点満点で150点と大満足だが、欲を言えば、掲載図版一覧(あるいは言及作品一覧)と人物索引があると、嬉しかった。一度読み通したあとは、「読み物」から「資料」に変わるので。今後、ふとしたきっかけで、この本で目にした作品や人物の記述をパッと確かめたくなることが、容易に想定される。
以 上