【書評】石膏デッサンの100年:石膏像から学ぶ美術教育史
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もしこの本のテーマに触れるのが初めてなら、事後でいいので併せて目を通すと、高い相乗効果が得られる。
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某所で紹介されており、ユニークで面白そうだったので、読んでみた。
感想は、良かった。面白かった。為にもなった。
頭から読み、最後まで飽きることなく読み通せた。
基本学術書のフォーマットで書かれており、その時点でパスする人は多いかもしれない。しかし本書で扱われている事物は実にユニークなものが多く、その時点で充分面白い。使用される専門用語/背景知識も大抵は本書中でそれなりに丁寧に説明されているので、辞書事典を引く必要はなくズンズン読み進められる。少しでも興味があるようなら、とりあえず手にとって「序」だけでも読まれることをお勧めする。
個人的ポリシーだが、そして学術書に限ったことではないが、門外漢から見てレトリックで誤魔化してるように感じられる記述が鼻についたら、その本は読むのをやめることにしている(もちろんノンフィクションの場合のこと)。しかし本書には(読後記憶の限り)そのような箇所は見当たらなかったので、その点については安心して良い。ただし、記述が相当慎重だったり傍証的な実例で膨らんでいる箇所はあり、読書としては時折少しまどろっこしくはあった。しかしそれは学術書の(宿)命であり「仕様」であると考える。逆にそのような学術的なスタイルで「石膏ガチャ(カプセルトイ)」や「石膏ボーイズ」などがマジメに語られたりもするので、そこにギャップ的なおかしみが見い出せ、かえって読書が進むような面もあった。
本書を通底する論考の枠組み/論調は、日本における美術の近代化/あるいは近代化を契機とした「美術」の概念の成立とその制度化の批判なので、ポストモダニズム批評(と私は理解解釈した)にある程度馴染みがあれば、読みやすい。逆に馴染みがなければ、この本を通じてそれを「体感」するのも良いと思う。
版元HPで本書は以下のように紹介されているが、
個人的手応えとしては、むしろ普段美術との関わりの薄い人ほど、この本を読むことで付随的に(=エピソードベースで)得られる知識が多く、有意義な読書となる可能性が高いと思う。
私は専門としてはアートとは無縁だが、展覧会は好きで会場キャプションや図録の中のテキストも好んで目を通す。その程度で、この本に臨んでみて、美術に関する非常に多くの事柄を活き活きと頭に刻むことができた。正直この本を読んで得られた「豆知識」の類は多すぎて、ここでは書くことは諦めた。
本書は直接的には石膏像および石膏デッサンを論考の対象としているが、試みられているのは、それを媒介とした日本の多元的でねじ曲がっている近現代美術の成立と発展の歴史語りである。歴史とくに近現代史は、周辺的な事物からこそ全体像や本質的な変遷を推し量り語りやすい側面があるものなのかもしれない。
余談だが、つい先日閉幕した東京国立近代美術館「重要文化財の秘密」展と本書は、スコープ・キーワード・コンセプトが多分に重なっている。例えば日本の近代美術の成立と東京藝術大学の創立、その切り離せない関係など。お陰で、その点でも個人的に予期せぬ相乗効果で高い収穫と満足が得られた。
以 上