
"孤育て実感"は地域性より接点の差【2021年調査】数字で見えた「ママ達の心の声」Vol.3
対象に認識されない子育て支援は誰のためにあるのか。
コロナ禍で大きく制限された子育てや子育て支援の実態調査から、これからの子育て支援を考えるきっかけにしていただければ幸いです。
昨年度携わらせていただいたNPO法人育ちあいサポートブーケさんの「コロナ禍の子育て実態調査」、最終回のVol.3は、報告会で紹介できなかった分析結果と所感です。
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なお、すべての調査結果は文末のリンク先よりご覧いただけます。
※引用データの出典元:「コロナ禍における親の”孤育ち”実態および子育て支援に対するニーズの変化」調査報告書
※調査対象【兵庫県全域の3歳未満の子どもを育てている保護者】447名
※紹介する調査の回答者は母親が95.7%だったことから「ママ達の」と題しています。
※調査期間は2021年9月22日~11月30日です。
※写真はイメージで調査内容とは関係ありません。
⑪「子育てで日頃悩んでいること」1位~5位
1位「近所に子どもの遊び友達がいない」36.5%
2位「仕事や自分のやりたいことが十分にできない」36.0%
3位「子どもが十分に栄養がとれているか心配である」35.3%
4位「子どもの病気や発育・発達が気にかかる」34.2%
5位「子どとの接し方に自信が持てない」24.6%
「話し相手や相談相手がいない」24.6%
コロナ禍の子育てにおける日頃の悩みで最も多かった「近所に遊び友達がいない」。
これは、コロナ禍で近くに居ても互いに出会えなかったのか、少子地域なのか、定かではありません。
しかし、いずれにしても、同じくらいの子を持つ親同士が知り合う機会は必然的に少なくなり、仲間を得ることで二次的に得られる社会との接点は少なくなります。
こうした孤育てを育みやすい環境は、少子化が進めばますます増えていくのではないでしょうか。
また「特に悩んでいない」と答えたのは16.8%で、8割以上の保護者は何らかの悩みを抱えている実態が明らかになっています。
子育ての悩みはあるものとして、それを相談したり解決の糸口を見つけられる環境を「いかなる環境下でも作り、保護者との接点を維持するために努力すること」が、子育て支援に求められていると思います。

⑫「無職のママ」が孤立しやすい
就業別(就業中、育休中、無職)のクロス分析では、次の5項目で無職の保護者に「あてはまる」回答が多いという結果が得られています。
■子どもが十分に栄養がとれているか心配である
■話し相手や相談相手がいない
■自分の子育てについて周りの見る目が気になる
■ワンオペ育児になっている
■アプリやオンラインの子育て支援サービス(育児記録・予防接種スケジュール)を利用したことがある
逆に、就業中の保護者は下記3項目で「あてはまらない」という回答が有意に多い結果となっています。
■話し相手や相談相手がいない
■自分の子育てについて周りの見る目が気になる
■ワンオペ育児になっている
また、アプリやオンラインの子育て支援サービス(育児記録・予防接種スケジュール)を利用したことのある保護者は、就業中・育休中の保護者は1~2割の利用に対し、無職の保護者では4割以上が利用していました。
「社会との繋がりを得にくい無職の保護者の方が、悩みを抱えやすく孤立しやすい」という実態。
これはおそらくコロナ禍前から、多くの子育て支援現場や支援者が感じていたことだと思いますが、調査分析により明確な差が示された意義は大きいと感じました。

⑬人口密度の高い地域と低い地域では「支援ニーズに違い」も「子育ての悩み」に違いは少ない
調査では、地域による保護者ニーズの差異を検討するため、人口密度が高い「阪神南地域」と、低い「但馬・丹波・淡路・北播磨地域」に分けてクロス分析を行っています(同程度の人数が得られることを考慮して群が設定されています)。
この地域別クロス分析では、就業別クロス分析ほど回答に有意差が得られていません。つまり…
「コロナ禍において、保護者が抱える子育てに関する悩みは、人口密度による地域性の影響はほぼ見られない」
ことを示す結果になっています。
逆に、地域別クロス分析で差が見られたものは、次のような項目です。
【人口密度の高い地域に多い傾向が見られた7項目】
■近くに頼れる親戚や知人がいない
■自分が病気になると子どもの面倒をみる人がいない
■多胎児(双子、三つ子など)の子どもがいる
■離れて暮らす親族やママ友・パパ友とはオンラインで交流をはかるようにしている
■アプリなどオンラインの子育て支援サービス(育児記録)を利用したことがある
■親子が安心して集まれる身近な場所や機会を増やしてほしい
■認可保育所をもっと整備して子どもの受け入れを増やしてほしい
【人口密度の低い地域に多い傾向が見られた2項目】
■急な残業が入ってしまう
■母乳ケアや相談にのってもらえる専門家の訪問を希望したい

これだけ多くの質問項目がある中で、地域別クロス分析では上記10項目しか差が見られなかったことは意外でした。
人口密度が多く感染者も多かった地域の方が、より親子の孤立は深まり、人口密度の低い地域との間に差が見られるのではないか…と個人的に予想していたためです。
しかし、予想を覆す結果が得られたこと、そして就業別クロス分析では多くの差が見られたことから、「社会との接点の有無」が、保護者の悩みや親子の孤立に大きく影響することが明確に示されています。

⑭64.7%「訪問してもらえてありがたかった」が1位に
自治体から派遣された助産師さんや民生委員さんなどが、新生児のいる家庭を訪問する事業。
「コロナ禍前は歓迎されにくくなっていたが、コロナ禍では歓迎されることが多くなった印象がある…」という現場の声を反映する結果が得られています。
2位以下は次の通りです。
2位「すべての母子に必要な制度だと思う60.0%
3位「絵本や子育て支援の情報をもらえてよかった」39.6%
4位「相談したいことがある時に来てほしい」27.3%
5位「ハガキなど紙面の申し込みが面倒」16.8%
6位「話はしたいが感染対策で会うのに抵抗がある」13.9%
訪問支援については、「自分には必要ないと感じるが支援が必要な親子を見過ごすことになるといけないので、全員必須で訪問した方が良い」という記述もある一方、4位以下にあるように、保護者のニーズに寄り添った方法での運用を望む声もあります。
また、「オンライン対応にしてほしい」と回答したのは僅か4.9%でした。
申し込み方法など運用についての改善要望はあっても、「対面で話す支援」へのニーズは高いことがわかります。
訪問員の調査結果でも、「訪問の必要性は高まっている」との回答が78.6%と非常に高く、保護者も支援する訪問員も「家庭訪問の意義は共有している」ことがわかります。
しかし、引っ越しなどタイミングによっては、訪問支援から漏れ来てもらえなかったという経験談は、何度か耳にしたことがあります。
この調査でも同様の記述があったほか、複数回の訪問を望む声や、訪問員の支援のあり方に疑問を呈す声も見られ、時代背景とともに変わる価値観を理解した上での支援が求められているように感じました。
自治体だからこそ可能な全戸訪問を、保護者ニーズと齟齬のない支援につなげるためには、支援する側にも手厚く横断的な組織体制が必要であることは言うまでもありません。支援者の調査結果でも、組織の連携や人材確保を求める声があります。

⑮これから出産する妊婦さんへ勧めたいことは?
1位「あかちゃんが産まれたら出かけられない所へ遊びに行く」46.1%
2位「産前に産後に育児の相談ができる人を見つけておく」37.1%
3位「いざという時に頼れる人やサービスを見つけておく」35.3%
4位「家の片づけや掃除をしておく」24.2%
5位「家族にも育児休暇を取るようお願いする」18.6%
2位、3位はまさに、乳幼児を育てる当事者から未来の保護者へ、説得力のあるメッセージです。裏を返せば、回答している保護者自身が必要だと感じていることでもあります。
しかし、妊娠中に2位3位を意識して備えられる妊婦さんが、果たしてどのくらいいるでしょうか。
こうしたことが必要だと教えてもらえる機会は豊富にあるでしょうか。
孤育ての芽は産前から育まれているのが現状だと思うのです。

【まとめ】ママの声なき声を拾う支援を
この調査はコロナ禍における子育ての実態調査でしたが、コロナ禍前からの「孤育て実態」をあぶり出すことも目的の一つでした。
「社会や人との繋がりが得られにくくなる状況で、子育て支援ニーズは高まる」こと、「保護者のニーズを積極的に拾う支援側の体制がまだまだ不足している」ことなど、この調査で明らかになったママ達の「声なき声」は大変説得力があります。
Vol.1、2でも触れたように、支援を必要とする当事者が「静か」だから「ニーズがない」というのは大きな間違いであり、「どうしてるかな」と案ずるだけの支援は、残念ながら支援になれません。
こうした現実をしっかり受け止め、子育て支援のあり方も、社会や支援を届ける人の変化に対応できる機敏さを有していく必要があるのではないでしょうか。

私自身、ドイツの産後ケアシステム(産後に助産師が10回まで無料で家庭訪問してくれる制度)を知るまで、自分が通り過ぎた日本の子育て支援の仕組みを評価することができませんでした。
しかし、子育て支援現場で何年も変わらぬママの孤独に触れてきた経験から、ドイツと比較した時に日本の子育て支援はこれでいいのかな?と思わずにはいられませんでした。
また、日本より感染状況の進んでいたドイツですが、コロナ禍で産後の訪問支援は継続されており、社会として子育て支援の捉え方に大きな差があるのを痛感しました。
ドイツと同じシステムを導入するのは容易でないと思いますが、日本にも、昨年ご紹介したように助産師による産前産後の継続ケアを実現している自治体があります。
また、民間のホームスタート事業(4回無料の訪問ボランティア事業)をバックアップする自治体もあります。兵庫県では残念ながら、ホームスタートが導入されている自治体はありません。
「孤育て環境、親の孤育ち環境の改善」は、未来をどう育むかという課題です。
コロナ禍に対する備えは十分でなかったかもしれませんが、次に同じような状況が訪れた時に対応できないままでは、必死に変化に適応して頑張る日本のママ達は、いつまでも報われません。
こうした調査結果が様々に活かされ、誰もが無料で受けられる子育て支援が、今よりもっと保護者のニーズに寄り添って積極的に改善されていくことを、心から願ってやみません。
最後までお読みいただきありがとうございました:)
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【調査テーマ】コロナ禍における親の「孤育ち」実態および子育て支援に対するニーズの変化
【実施団体】NPO法人育ちあいサポートブーケ
【助成元】NPO法人 モバイル・コミュニケーション・ファンド
※写真はイメージで調査とは関係ありません。