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【読書感想】たけまる文庫 怪の巻




物語の文章を、一字一句疑ってかかる事は、
反対にその物語を信じて読む事に等しいのではないか?

結局作者の掌の中でいいように転がされる道化だ。
どれだけ先を予測して寸前までよみ切ったとしても、最後の数行で容易く車線変更してしまう。

思うようなラストにならないし、
そもそもミステリに思うようなラストなど望んではいない。

「思惑が外れる方が、
外れれば外れるほど面白いなんて、
おかしな話だなぁ。
当たれば当たるほどいい、占いとは正反対だ」

賢いふりして馬鹿みたいに転がされる事が、
実はミステリを楽しむ一番の方法かもしれない。

と馬鹿話はこのくらいにして、
本書はホラー7篇、ミステリ2篇の短篇集。

個人的には、
・再開
・嫉妬
・患者
・猟奇小説家
の4つが面白かった。

短篇集だから当然とはいえどれも2.30ページほどの短い話で、
とくにホラー話は、
結構膨らみそうな展開なのに、
あっさり最後の数行でとってつけたようにオトす。

ミルクボーイのコーンフレークのネタを、
1分くらいで、
駒場 : オトンが言うには、頭蓋骨ちゃうか
内海 : 絶対ちゃうやろ、もうええわ
とオトすような話。

狐につままれたような妙な読み応えに、
言いようのない引っ掛かりがあって、
ホラー話なんだからそれはそうなんですが、
その怪しさとはまた性質が違う、
なんかどこか手を抜かれているような、
ターゲットを子供にしぼった物語のような違和感。

なんだろうなとそのまま7篇読み終えて、
解題でその違和感の正体に気づいた。

思い返せば、
1発目の猫の話で気づけたかもしれない。

ホラー7篇に隠された裏テーマの正体を。

こういう趣向とかユーモアは楽しい。


あとがきにもあるが全編通して、
現実?虚構?どっち?
と白黒つかないままどちらとも取れる終わり方をする話が多い。

虚構は虚構のまま、
物語はその追及を許さず終息する。

江戸川乱歩なんかの世界観。

叙述トリックが巧みで、
患者なんかは、精神病院の設定を活かした信頼できない語り手モノで、
再開なんかも結局そう。

「だいたい主人公がバチくそ狂ってるんだよなぁ」

猟奇小説家は、
最近読んだウロボロスの偽書にそっくりで、
まぁミステリの王道設定なんでしょうが、
小説の模倣殺人が起きて、
小説家の元に警察が来てって話だけど、
オチのひっくり返しは2.3発斜め。


物語は初めから読み進めなければならず、
少ない情報を頼りに、
状況を想像し、未来を予測する。

そこでプロファイルされた人物像や設定が、
(特にミステリは)
最後まで正しかったことなんて殆どない。

思い込みを作り込み、それに漬け込んで、
いかにひっくり返すのが肝だからだ。

そんな当たり前を徹底するのは、
生半可なストーリーテラーではつとまらない。

我孫子武丸にはそれが十分すぎるほど務まる。
たけまるはつとまる。

つまらない話はこのくらいにしておきます。


……はて、頭からこの文章を読み返してみたら変だ。
「」で書かれてるセリフみたいな所は、
僕の記憶では書いた覚えがない。

それ以外のところは一字一句僕が書いた確信があるが、「」の文章だけは全く記憶にない。

「一体誰なんだろう?」
と考えても無駄なのかもしれない。

白黒つかない灰色の中で、
頬をつねってみるが、
痛みはしっかりと存在を証明する。

窓の外は明るくなっていた。

SNSに投稿を終えると、
僕は「布団を」頭までくるま「り、深く目を閉じた。

あれ、今ってどっちなのかなぁ………

あぁ怖い怖い
何が怖いって
文章が怖い

#読書感想 #小説

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