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【読書感想】三島由紀夫の潮騒


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三島式「ダフニスとクロエ」だと
佐伯彰一が解説していた。

言わば現代版ロミジュリのような、
ど古典を当時風にアレンジしてるきらいがあるらしく、確かに話は王道で、複雑怪奇な展開は微塵もなく、少々肩透かしをくらうくらいすんなりとハッピーエンドで終わる。

それは何処の馬の骨かもしれない小説家が書けば、良く出来た小品に過ぎないが、
三島が書いたとなれば話は違う。

小説家のキャリア序盤のLGBTQよりかGHQのほうが馴染みがある昭和の只中に、
ゲイをカミングアウトした人間が、
こってこての純愛小説を発表する世間の驚きは、
想像に易くない。

その違和感は、
思えば神島を舞台にした写実過ぎる風景描写からもう匂い立っていたのだとのちに気付く。

新治と初江という主人公とヒロインの名前にも、やってる感がありありと浮かぶ。
これはもう太郎と花子ばりの記号化ではないか。

では何故、
三島はやったのか?

素人推理するに、
今までのレッテルを引き剥がし、
底力を世に示したかった自己顕示欲が、
三島を潮騒に唆したのではないか?
と言うのが一つ。

PILの時のジョン・ライドンのような、
或いは、
プログレバンドがビートルズをカバーするような、
オリラジがしゃべくり漫才をするような。

邪道しか出来ないのでなく、
王道を示す事で、
敢えての邪道だと示すような。

そんな気持ちがあったとしても、
不思議ではない。

あとは、
単に書きたかっただけ。
という、身も蓋もない天才の思いつき説。

マッチョな思想や、
小難しい論理に辟易して、
少女趣味的一端を発散したか、
29歳という年齢から青春を振り返ったのか。

死人に口なしだが、
どこかの三島由紀夫論本には、
語られているのだろうか?

とは言え、
潮騒の中にも、
ご大層に有り難がりたくなる文体や、
スーッと脳にイメージが入ってくる鮮やかな描写が随所に止めどなく散らばっており、
何処の馬の骨とも知れない小説家には、
決して真似できない三島節を感じる事ができる。

男性の上半身の描写させたら、
右に出るものはいないと思う。

仮面の告白と不道徳教育講座しか読んでないので、
他の作品も読もう。

金閣寺とかにはなかなか手が伸びない……

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