マガジンのカバー画像

小説・短編集

27
運営しているクリエイター

2015年11月の記事一覧

想失

 事務室に鍵をかけ、オフィスをでる。外にでると、肌を刺すような冷気が身を包んだ。

 今日も終電帰りだ。会社に入って三年。入社当初以来、終電以外で帰った記憶が数える程しかない。私はマフラーを巻き直し、疲れきった体を引きずりながら駅へと向かう。

 こんなに夜遅くでも街には多くの人がいる。私と同じように会社帰り風の人、お酒が入り、大声をあげながら数人で連れ立って歩く人。雑踏の中、私はひとり、うつむき

もっとみる

喜寿

 老人は、若い世代から疎まれるものである。

 そんなことを、年をとるにつれて、身を持って体感することが多くなった。

 若い時分はいろいろなことができた。身の回りのことなど出来て当然。新しいことでも独学で学び、どんどん挑戦していった。退職して老後を迎えても、しばらくはそんな生活が送れていたように思う。それが当たり前だった。

 しかし、齢(よわい)七十を過ぎてから、だんだんと衰えを感じるようにな

もっとみる

迷子のテーマパーク

 紅葉は、夜の冷えた気温と昼の暖かい気温の差が激しいほどきれいに色づく。

 パークのあちこちに配置されたモミジの木をぼんやりと見ながら、理科の先生がこの前話していたことをぼんやりと思い出していた。

 今日は中学校の修学旅行二日目。旅行のメインイベントとも言える夢の国をうたったテーマパークでの自由行動。木下明美は一人、お城の正面にある花壇の前に佇んでいた。

 時刻は夕方。すでにテーマパークから

もっとみる

とりっく おあ とりーと

 からだがなんだかうごかない。なんで手や足をうごかそうとしてもうごけないんだろう? だれかに上からおさえつけられてるみたいだ。だれかボクの上にのってるの? あれ? 上をみようとしたのに、くびもうごかない。どうしたのかな。

 今日は月曜日だから、えいごのじゅくにいって、はろうぃーんのじゅぎょうをして、うちにかえろうとしたんだ。しんごうがあおだったから、どうろをわたろうとしたんだけど・・・そうだ。そ

もっとみる