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電通マンぼろぼろ日記

昨年3月頃、何かの本かYahoo! ニュースで紹介されていた本です。

内容紹介を読むと興味深い題材だったので、早速図書館に予約すると、な、なんと、225人予約中の208番でした。資料数2冊で、手に入るまで半年ぐらいかかるなと思っていたら、半年どころか予約準備ができましたと図書館からメールが来たのが昨年12月20日でした。28日まで取り置き期限とのことで、28日に病院に行った帰りにギリギリ入手することができました。
分厚い本かと思っていたら203ページしかなく、一日50ページずつ読み、4日で読み終わりました。
大体紹介本というのは、その人はよかったと思っていてもいざ読んでみると、どこがいいのか分からない本が多いのが常ですが、この本は内容紹介通り、期待を裏切らないなかなかの作品でした。
しかし、仮名、イニシャルにしてあるとはいえ、ここまで書いていいんかい? 読む人が読めば、これはどこのクライアントで、この人物はあの人だなと分かるほど赤裸々に書いてあり、大手出版社では、まず企画段階で通らないでしょう。しかし、読み終えてこの作者の心情、察するものがあり納得しました。
年代的に作者は、今と違って日本経済がまだ高度経済成長期後の上昇気流に乗っていた真っただ中にいた、いわゆる“24時間戦えますか?”の“企業戦士”で、家庭生活を犠牲にして、結果的には妻子と別れるまで働かされ、気がつけば肉体的にも精神的にもボロボロに疲れ切って、討ち死にした世代でしょう。
電通のような名のある一流企業に就職できれば、嫌なことがあってもブランド、プライドがあるから、世間体を気にするあまり辞めるに辞められない。
電通は、知る人ぞ知る“コネ通”と言われるぐらい著名な子弟のコネ入社が多いそうですが、そういう人も紹介してくれた身内、親戚、知人の手前、嫌なことがあっても辞めるに辞められず、結局は追い詰められて〇〇を選ぶ羽目に陥ってしまいます。が、この作者は一流大学出身でもコネ入社でもなく、本人も分からないまま何故か入社できたので、それはそれは天にも昇る思いで頑張ってしまうでしょう。それが、この結末ではなんとも哀しい-----。

この作者は、我々一般人が知り得ない貴重な経験をしたのだから、これを題材にしてこの作品のようなプライバシー侵害で訴えられる危険を冒さないで、小説にすればいいのではないでしょうか。
何年か前にテレビドラマにもなった、『半沢直樹』『下町ロケット』を書いた池井戸潤氏は、銀行マンですし、古くは音楽業界を舞台にした傑作短編小説、『艶歌』を書いた五木寛之氏はコマソン(コマーシャルソング)出身です。同じく電通を題材にした大下英治さんの書いた、『小説電通』なども、読み応えのある長編小説でした。
この作者にとっては、この電通での貴重な経験は大きな財産ですし、墓場まで持っていくにはあまりにももったいない気がします。プロ作家の誰も書けない、それこそ他の追随を許さないとんでもない鉱脈だと思われます。この業界を題材にすれば、池井戸さん同様、いくらでも書けるでしょう。
精神的カタルシス(浄化作用)、リハビリを兼ねて、是非次回作は誰に配慮する心配もなく、思いのたけを自由に書ける小説を期待しています。

最後に、ラストの「あとがき」は、『ひまわり』(ソフィア・ローレン)『シェルブールの雨傘』(カトリーヌ・ドヌーヴ)のような名作映画のラストシーンを観ているようで、涙腺を刺激されました。 
是非、ご一読をお勧めします。

            <了>


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