パワーハラスメント防止のためのカウンセラーの視点
こんな人に読んでいただきたい
・経営者、人事・総務担当者
・職場や社員のハラスメント体質を何とかしたい担当者
・ついカッとなってしまう方
執筆者
ハラスメント防止研修 講師 寺田陽子氏
プロフィール
◆外資系航空会社18年勤務後、研修講師、カウンセラーとして独立。航空会社時代は、人事、総務、採用業務、社員教育指導、国際航空券、クレーム対応 などの業務に携わる。
◆メンタルヘルス、組織活性化、キャリアマネジメント、女性活躍推進、コミュニケーション、リーダーシッププログラム、クレーム対応、叱り方、怒りのコントロール法であるアンガーマネジメントを導入した心の健康づくりのための研修等を企業、行政、再就職支援等にて実施。カウンセラー養成講座の指導者、国家資格キャリアコンサルタント育成等にも携わる。
心療内科勤務経験より復職支援、メンタル不調者へのカウンセリングも実施。カウンセリング、コーチングなど、今までに携わったセッション数は3000人を超える。年間登壇数は200本以上。
◆保有資格
・アンガーマネジメント トレーニングプロフェッショナル
・アンガーマネジメントアドバイザー/・キッズインストラクタートレーナー等
・キャリアコンサルティング協会認定 スーパーバイザー
・シニア産業カウンセラー 他
職場のパワーハラスメント防止のために
近年、職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)の問題が社会的に大きな関心を集めています。特に、無意識の思い込みから生じるパワハラは見過ごされがちで、その影響は深刻です。ここでは、カウンセラーの視点から、多数の職場で怒っているパワハラ防止に向けた研修の効果や施策について考察します。
無意識の思い込みとパワーハラスメント
パワハラには、明確な意図を持って行われるものだけでなく、無意識のうちに行われるものもあります。例えば、上司が「指導」のつもりで厳しい言葉を使ったとしても、受け手側にとってはそれが圧力となり、パワハラと感じられることがあります。無意識の思い込みによるパワハラは、コミュニケーションのミスから生じる場合が多く、これを防ぐためには自己認識と相手の立場を理解することが重要です。
アンコンシャスバイアスの影響
無意識の思い込み(アンコンシャスバイアス)は、私たちが知らず知らずのうちに持っている偏見や先入観です。これらは、日常の判断や行動に影響を与え、職場でのパワハラの一因となることがあります。例えば、性別や年齢、出身地などに基づく無意識の偏見が、部下に対する不公平な扱いや不適切な発言を引き起こすことがあります。アンコンシャスバイアスを認識し、克服することがパワハラ防止には不可欠です。
「あたりまえ」「常識だ」という言葉に基づくアンコンシャスバイアスは特に厄介です。これらのバイアスは、特定の行動や価値観が普遍的であると誤解し、異なる意見や背景を持つ人々を否定的に扱う原因となります。例えば、ある上司が「この仕事の進め方は当たり前だ」と考えている場合、その方法に従わない部下に対して不適切な評価や指導を行う可能性があります。
そして自分の「あたりまえ」「常識だ」という価値観は、世の中のスタンダードだと思ってしまうため、疑うことなく相手にも強要してしまいがちなのです。その結果、強要された相手は不快に思い、「ハラスメントではないのか?」という状況になってしまうのです。
もともと関係性が良ければ聞き流れるかもしれませんが、昨今の人間関係は希薄な傾向もあり、上司と部下の信頼関係が築きにくいという課題もある中で、自分の価値観と異なる価値観を一方的に押し付けられると不快感が増してハラスメントではないのか?という事態に至るわけなのです。
かつては「ノミニュケーション」と言われる、仕事が終わってからの飲みの場での上司との交流の中で、仕事の場では言えなかった上司の本音を聞いたり、部下の話を聴いてもらったりで関係を築いていた時代もありましたが、現在は多様な働き方の中で、またコロナ禍の中でそれが難しくなっています。
パワハラ防止法と労働施策総合推進法
日本では、2020年6月に施行された「労働施策総合推進法」により、企業はパワハラ防止のための措置を講じることが義務付けられました。この法律に基づき、企業は職場でのパワハラを防止するためのポリシーを策定し、周知徹底を図るとともに、具体的な対策を実施することが求められています。これにより、労働者は安心して働く環境が整備されつつありますが、実際の運用にはまだ課題が残されています。定期的、また管理職だけではなく全社員に対してのハラスメント教育が求められます。
パワハラ防止研修の効果
パワハラ防止のための研修は、社員全員がパワハラの定義や影響について理解を深める重要な機会です。研修を通じて、以下のような効果が期待できます:
1.意識改革:パワハラの定義や事例を学ぶことで、無意識のうちに行っていた行動がパワハラに該当することに気づく機会が増えます。
2.アンコンシャスバイアスの認識:自身の無意識の思い込み、偏見に気づき、それを克服するための具体的な方法を学びます。
3.コミュニケーションスキルの向上:効果的なコミュニケーション技術を学び、相手の気持ちを尊重する態度が醸成されます。
4.相談体制の強化:パワハラが発生した際の相談窓口や対応方法を周知し、被害者が安心して相談できる環境を整備します。
5.正しいハラスメントの理解:ハラスメント研修では上司側だけではなく部下側にも理解してもらうことで、指導されていることと、ハラスメント行為の認識が出来てきます。正しい理解がされていない部下は、なんでもパワハラだと訴えてくることになり、上司は結果的にそれが面倒で部下の指導に消極的になってしまいます。
アンガーマネジメントのパワハラ防止効果
「怒りの感情は連鎖する」と言われたら、あなたはどう思うでしょうか?
怒りの感情は力の強い人から弱い人へ、立場の強い人から弱い人へと向かいます。まるで水が高いところから低いところへ流れるように、怒りの感情は行き先を探します。
なんとなく虫の居所が悪くて怒ってしまった、その人のせいじゃないのについ文句を言ってしまった、相手が悪いわけじゃないのに不適切な八つ当たりをしてしまった…等々。私たちは知らず知らずのうちに怒りの連鎖の中に囚われています。
ご存じでしょうか、怒り方は、自分の感情の表現のクセなのです。
アンガーマネジメントを身に着ける目的は、自分の感情のクセ(特に怒りの感情の傾向)に気づき、怒りに振り回されない自分になることです。
またアンガーマネジメント診断を用いれば、客観的な自分の怒りの傾向を知ることができ、上手に対処する方法を身につけることにができます。自身の怒りの傾向を知ること、周りの怒りの傾向を知ることはお互いの人間関係や人生の質が間違いなく向上します。
この研修では、ビジネスマンの立場から、様々なケースをご紹介しながら、怒りの感情をうまくコントロールし、ハラスメントの防止、仕事の生産性向上、職場の風土改革、ストレスの軽減等につながることによって、日々の仕事の効率をアップすることが出来るアンガーマネジメントのスキルを学んでいただきます。
「ついカッとなって」しまう瞬間は誰にでもありますが、これがパワハラに繋がることを防ぐためには、アンガーマネジメントが有効です。アンガーマネジメントとは、怒りの感情を適切にコントロールする技術です。具体的には以下のような方法があります。
自己認識:自分の怒りのパターンを理解し、怒りの引き金となる状況や思考を把握します。こちらは研修と「アンガーマネジメント診断」を用いることでご自身の怒りの「強度」「頻度」「攻撃性」「持続性」「どんなことに怒りを感じやすいか」がわかります。
感情のコントロール:深呼吸やタイムアウトなどの方法を用いて、怒りの感情を冷静に抑える訓練を行います。
コミュニケーション技術の向上:感情を適切に表現する技術を学び、相手との対話を円滑に進めます。怒りは表面的な感情、その奥には他に伝えたい思いがある・・このことに気づくだけでも今よりも相手との人間関係が向上していきます。
パワーハラスメント防止には、無意識の思い込みに対する自己認識の向上と、具体的な対策の実施が不可欠です。労働施策総合推進法を基にした法的措置や研修、無意識の思い込みに気づいて、アンガーマネジメントの技術を組み合わせることで、職場のパワーハラスメントを防止し、今よりも良好な人間関係を創り上げることが可能になります。
お問合せ
https://www.sunstaff.co.jp/inquiry/human-develop