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【オチなし】鶏ハム
俺は同業者に仕事を奪われたのではないかと焦っていた。
しかしこのイカれた時代のせいで、たいして変わらないとは言え
更に堕落した生活に甘んじてしまっていた。
焦れば焦るほど、余計な事を考えてしまって、何も出来ない。
世界が俺レベルに落ちているかと思うと、滑稽で仕方がない
と同時に、とても嫌な気分になるものだと知った。
俺みたいなヤツは少数でいい。
俺の方が正しかったなんて、そんな事があっては
なんであんな苦しみを味わう必要があったのか
誰に問い質せばいいというのか、分からなくなる。
同居人もだいぶ気質が変わってしまった。
長い事、同じ時間を過ごしてきたと言うのに
怠惰な所が
更に俺に似てきてしまって
申し訳ない気持ちにすらなる。
同居人は色々な事をよく知っている。
世界で流行っているシティポップとか
近所の旨い飯屋とか
政治のこととか
最近は、何故か料理をし出すようになった。
作り置きは嫌だ、とか言っていた人間が
大量の鶏ハムを仕込むようになっていた。
俺はその少し塩辛い鶏ハムをつまみながら
いつ来るとも分からない連絡を
待っているのである。