【創作小説】見るに耐えない⑦ 蕎麦
八階建てマンションの五階、東の角部屋から数えて三つ目のとある一室。
飾り気のないキッチンに、巻髪を束ねた女が一人佇んでいる。
三つ口あるIHコンロの一つ、鍋の中はふつふつとした小さい気泡が立って、直に沸騰しそうな頃合いである。
女は、大きいトマトを賽の目角に刻むと、食器用の白い深皿へ直接放り込む。沸いた鍋には乾燥された蕎麦を一束。
蕎麦が茹で上がるまでの間、おもむろに取り出したオリーブオイルをトマトの皿に直接注ぐ。
そしてバルサミコ酢、ハーブソルト、黒胡椒、麺つゆを少々。