川上郁雄

複数言語環境で成長する子どもたちの研究をしています。オーストラリアに留学し、クィーンズ…

川上郁雄

複数言語環境で成長する子どもたちの研究をしています。オーストラリアに留学し、クィーンズランド州教育省に勤務したとき、娘は現地の小学校に入学し、土曜日には補習校に通いました。そして日本に帰国すると、娘は「帰国子女」と呼ばれました。その経験から、「移動する子ども」学を立ち上げました。

マガジン

  • MY BOOK REVIEWS 「移動する子ども」学

    「移動する子ども」学が生まれるまでの軌跡

  • 移動する子ども/メモランダム

    「移動する子ども」を研究する際に、私が読んだ本や、読みながら考えたことなどをメモしておこうと思います。私の机の上の公開です。「読みながら考え、書きながら考える」をモットーに。

  • 子どもの日本語教育とJSLバンドスケール

    このプログラムは、子どもの日本語教育に関心のある人、これから子どもたちに日本語を教えたいと思う人、また今、子どもたちに日本語を教えている指導者のみなさんに、「子どもの日本語教育実践」とは何かをわかりやすく解説するものです。

最近の記事

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「移動する子ども」学と私ープロフィール

2024年4月、フリーランスになったので、noteを始めました。 複数言語環境で成長する子どもの研究を行なっています。そのきっかけは大学院生の頃、ベトナム難民家族の調査で出会った子どもに、習いたてのベトナム語で話しかけたところ、「そんな言葉、知らない」と言われたことだった。その子の両親も、家庭内ではベトナム語を使っているのに、なぜ知らないと言ったのか。そのことも、その時の少女の気持ちも、理解できなかった。30年以上前のことだった。 その後、オーストラリアの大学へ留学し、さ

    • 目黒区の「功労者」として表彰されました。

      先日(10月1日)、目黒区の「功労者」として表彰を受けました。 その時の写真(②)とともに、目黒区ウェブサイトで公開されています。 https://www.city.meguro.tokyo.jp/soumu/kusei/keikaku/06kuseikourou.html 2008年から、早稲田大学大学院日本語教育研究科(日研)は目黒区との間で、「日本語指導が必要な児童生徒」への日本語教育に関する「協定」を締結しました。その「協定」では「JSLバンドスケール」を導入するこ

      • MY BOOK REVIEWS⑪公共日本語教育学―社会をつくる日本語教育

        このシリーズの11冊目にレビューする書籍は、『公共日本語教育学―社会をつくる日本語教育』(2017、くろしお出版)。  この書籍のタイトルから話を始めよう。「公共日本語教育学」という名称は、私が新しく作ったもので、日本語教育学界では初めてであったと思う。  なぜ日本語教育に「公共」を冠したのか。実は、この本を出す数年前に、東京大学の文化人類学教室の主任教授、山下晋司先生から原稿依頼があった。それは、「公共人類学」をテーマにした本を出すので、「難民」をテーマにした章を書いて

        • 【お知らせ】JSLバンドスケール無料セミナー/実践交流会(10月27日・日曜日)

          JSLバンドスケールのオンラインによる無料セミナーと実践交流会を開きます。 10月27日(日)セミナー:14時から15時まで、実践交流会:15時から16時(日本時間)。これは、2024年度第2回目。 事前申込み制:参加申し込みフォームと、JSLバンドスケールに関する情報は以下からアクセスしてください。 ・JSLバンドスケールって、何?。 https://children-crossing-borders.com/?page_id=2 。 ・JSLバンドスケールをはじ

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        「移動する子ども」学と私ープロフィール

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        • MY BOOK REVIEWS 「移動する子ども」学
          11本
        • 移動する子ども/メモランダム
          5本
        • 子どもの日本語教育とJSLバンドスケール
          7本

        記事

          [イベントのお知らせ]第8回ふくふくイベントのお知らせ<終了しました>

          第8回 オンライン ふくふくイベントのお知らせ <終了しました:世界各地からたくさんの方にご参加いただき、ありがとうございました!> テーマ:その日本語教育、何のため? 誰のため?―アイルランドに暮らし、子育てについて思うこと−。 主催:複言語・複文化子育てネットワーク。 2024年10月6日(日)16:00〜 17:30(日本時間)/参加費無料/zoomによる語りの場。 ゲ ス ト ス ピーカー : 玉 緒 さ ん。 何 の た め に日 本 語 を 使 う の か

          [イベントのお知らせ]第8回ふくふくイベントのお知らせ<終了しました>

          MY BOOK REVIEWS⑩日本語を学ぶ/複言語で育つ―子どものことばを考えるワークブック

           このシリーズの10冊目にレビューする書籍は、『日本語を学ぶ/複言語で育つ―子どものことばを考えるワークブック』(2014、くろしお出版)。  この書籍は、川上郁雄・尾関史・太田裕子共著の本である。2024年3月に第3刷目に入った。刊行して10年目で3刷というペースは決して早くはないだろうが、増刷する際に出版社の担当者が「今ようやく時代がこの本に追いついた感じですね」とメールに送ってくれた。では、時代を先取りしたような本書の内容とねらいは、どんなものだったのか。この本のペー

          MY BOOK REVIEWS⑩日本語を学ぶ/複言語で育つ―子どものことばを考えるワークブック

          「移動する子ども」研究室HPが開設されました!

          「移動する子ども」研究室のHP(ホームページ)を作りました!「移動する子ども」に関する研究情報やイベント、オンライン研修会など、発信します。このnoteと合わせて、気楽にアクセスしてみてください。 世界各地で、複数言語環境で育つ子どもの「ことばの学び」「ことばの教育」について関心のある人と繋がりたいと願っています!研究に関する無料コンサルテーションも、あります。ヨロシク。 川上郁雄「移動する子ども」研究室 サイトURL   https://children-crossin

          「移動する子ども」研究室HPが開設されました!

          「移動する子ども」/メモランダム⑤

           前回に続き、今井むつみ・秋田喜美著『言語の本質―ことばはどう生まれ、進化したか』(2023、中公新書)を読む。今回は、第6章のタイトルは、「子どもの言語習得2―アブダクション推論篇」。ただし、以下は本書の要約ではない。私の研究に参考になるところのメモである。詳細を知りたい方は、本書を実際に読まれることを薦める。  まず確認するのは、「基本的にすべてのことばは抽象的である」(p.176)。なぜなら、「それぞれの単語の意味は、それぞれの言語固有の体系の中で、どのような基準でど

          「移動する子ども」/メモランダム⑤

          「移動する子ども」/メモランダム④

           前回に続き、今井むつみ・秋田喜美著『言語の本質―ことばはどう生まれ、進化したか』(2023、中公新書)を読む。今回は、第5章「言語の進化」のメモを書いておく。ただし、以下は本書の要約ではない。私の研究に参考になるところのメモである。詳細を知りたい方は、本書を実際に読まれることを薦める。  第5章で考えられている課題は以下のようなことである。 「人間がコミュニケーションの道具としてそれぞれの意志や感情を他者に伝え、コミュニティの合意を形成するために大切な言語に用いられる記

          「移動する子ども」/メモランダム④

          「移動する子ども」/メモランダム③

           前回に続き、今井むつみ・秋田喜美著『言語の本質―ことばはどう生まれ、進化したか』(2023、中公新書)を読む。今回は、第4章「子どもの言語習得1―オノマトペ篇」のメモを書いておく。ただし、以下は本書の要約ではない。私の研究に参考になるところのメモである。詳細を知りたい方は、本書を実際に読まれることを薦める。 子どもが小さいほどオノマトペを多用する  大人は子どもと話すときオノマトペを多用するのか。著者は、実験をする。  2歳、3歳の子どもと親、19組に協力してもらい、

          「移動する子ども」/メモランダム③

          [エッセイ]オリンピックと「移動する子ども」

           2024パリ・オリンピックで早稲田大学の在校生や卒業生が多数活躍した。早稲田大学のHPで、その活躍が詳しく紹介されている。 早稲田大学HP: https://www.waseda.jp/inst/athletic/news/2024/07/30/44570/  その一人が、早稲田大学柔道部副将のホ・ミミ選手(スポーツ科学部4年、日本名・池田海実)。柔道女子の57キロ級で韓国代表として戦い、銀メダルを獲得した。田中愛治早稲田大学総長は、その他の選手も含め、その素晴らしい活

          [エッセイ]オリンピックと「移動する子ども」

          「移動する子ども」/メモランダム②

           前回に続き、今井むつみ・秋田喜美著『言語の本質―ことばはどう生まれ、進化したか』(2023、中公新書)を読む。今回は、第2章と第3章のメモを書いておく。ただし、以下は本書の要約ではない。私の研究に参考になるところのメモである。詳細を知りたい方は、本書を実際に読まれることを薦める。 「幼少期より複数言語環境で成長する子ども」に関心のある私にとって、本書の第2章で、オノマトペと、赤ちゃんが言語をどう認識するかという議論が興味深かった。 オノマトペのアイコン性  著者らはチ

          「移動する子ども」/メモランダム②

          「移動する子ども」/メモランダム①

           私は、「幼少期より複数言語環境で成長する子ども」について研究している。ここでは、その中で、読んだ本のことや、わかったことや考えたことを(忘れないように笑)メモしておこうと思う。題して、「移動する子ども」メモランダム。私の机の上の公開です。「読みながら考え、書きながら考える」をモットーに。 最初のテーマは、「幼児はどのように言語を習得していくのか」。  さて、今井むつみ・秋田喜美著『言語の本質―ことばはどう生まれ、進化したか』(2023、中公新書)を読んでみた。表紙に、「

          「移動する子ども」/メモランダム①

          「特集 子どもと日本語教育―専門家の養成・研修のあり方を実践から考える」

          『早稲田日本語教育学』は、早稲田大学大学院日本語教育研究科(以下、日研)の紀要ですが、2021年に刊行された第30号の特集は、「子どもと日本語教育―専門家の養成・研修のあり方を実践から考える」でした。  この特集には、川上郁雄・石井恵理子・池上摩希子の鼎談「子どもと日本語教育―専門家の養成・研修を実践から振り返る」のほか、12本の「実践報告」が掲載されています。そのすべては、以下のURLから無料で閲覧できます。 https://waseda.app.box.com/s/u

          「特集 子どもと日本語教育―専門家の養成・研修のあり方を実践から考える」

          私のイチ推しの本:『M』

          岩城けい著 『M』(2023、集英社) 豪州メルボルン在住の日本人作家、岩城けいさんの小説『M』。タイトルのMには、「エム」とカタカナのルビがついている。つまり、この小説の題名は「エム」と読む。「移動する子ども」研究をする私のイチ推しの本である。  どのような内容の小説か。本の帯文には、次のような文章がついている。 「父の転勤にともない12歳でオーストラリアに移住し、現地の大学生となった安藤真人。憧れていたはずの演劇の道ではなく就職を選ぼうとしたところ、マリオネットを制作

          私のイチ推しの本:『M』

          MY BOOK REVIEWS⑨「移動する子ども」という記憶と力―ことばとアイデンティティ

             このシリーズの9冊目にレビューする書籍は、川上郁雄編著『「移動する子ども」という記憶と力―ことばとアイデンティティ』(2013、くろしお出版)。  この書籍は、私の「移動する子ども」研究において、ターニング・ポイントとなる書籍でもあった。それは、なぜか。  本書の「序」は「思想としての「移動する子ども」」と題した。少し引用してみよう。 「本書は、幼少期より複数言語環境で成長した子どものことばとアインデンティティをどう捉え、どのように育んでいくのかをテーマにした書で

          MY BOOK REVIEWS⑨「移動する子ども」という記憶と力―ことばとアイデンティティ