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キングダムを例に見る戦略と戦術の違い

割引あり

ここ数年、本業や副業で、プロダクトを中心に事業戦略を立てる仕事に取り組んでいます。

戦略を練るうえで私が特に重視しているのは、携わる組織やプロダクトの状況を見極め、将来目指す世界や事業目標の達成に向けて、限られたリソースを考慮しながら最善の方向性を導き出すことです。

私はいわゆる戦略コンサルタントや生粋の戦略家とは異なり、戦略を立てるだけではなく、その戦略をどのように実現するか戦術を考え、実行することも好きなタイプです。そのため、日々戦略と戦術を行き来しながら仕事をしています。(意外と珍しいタイプのようです。)

そんな戦略と戦術の両方を経験してきた私の視点から、今日は『キングダム』を例に、プロダクトを軸にした事業開発の観点で、戦略と戦術の違いについて書いてみたいと思います。


戦略とは何か

戦略とは、「目標達成に向けた資源配分方針」であって、目標達成に向けた最も取り組むべき課題に対してそれを解決するための最適な指針とリソースをどう差配するかを描くのが戦略の役割です。

この「指針」という概念にはさまざまな解釈がありますが、私が特に共感しているのは『ストーリーとしての競争戦略』で述べられている「戦略の本質は違いを作り、繋げること」という考え方です。自社や自プロダクトが置かれている環境を見据え、外部環境に対応しながら差別化できる要素を生み出し、それらを有機的に結びつけることが、優れた指針であると考えています。

戦術とは何か

一方、戦術は戦略に基づいて目的を達成するための具体的な行動計画を指します。戦術は戦略の一部として位置づけられ、その実行に焦点を当てます。

戦略が大きく変更されることは少ないのに対し、戦術は組織の状況や利用可能なリソース、予算などに応じて柔軟に対応する必要があります。状況の変化や実行したアクションの結果を見極めながら、戦術を調整し、最終的な目標達成を目指します。

戦略と戦術は主従

このように戦略と戦術は主従関係にあり、どちらか一方が欠けてしまうと成立しません。それぞれの意味や役割が異なるため、「戦略と戦術のどちらが優れているか」といった議論は本質的ではありません。

近年では何かと「戦略」という言葉が冠される傾向がありますが、個人的には「それは戦術では?」と感じることが少なくありません。

戦略だけを描いて具体的な戦術がなければ、それは「絵に描いた餅」にすぎません。一方で、戦術だけが計画されていて戦略が欠けている場合、進むべき方向性がずれてしまうことが多々あります。

『キングダム』を例に見る戦略と戦術

『キングダム』を題材にした経営論を目にすることが多くありますが、戦略と戦術の違いを学ぶ教材としても優れていると感じたため、今回例として取り上げます。なお、最新のエピソードを題材にしているため、まだ読んでいない方は、読み終えてから戻ってきてください。

秦国が韓国を攻め込む際の戦略と戦術を図解してみました(細かな戦術は多岐にわたりますが、ここでは概要のみを示します)。

戦略と戦術の違い(図解)

戦略家の仕事は道筋を描くこと

秦王・嬴政が掲げる「中華統一」という目標は、組織における達成したいビジョンに相当します。この大目標を実現するためには数々の課題がありますが、当面の最大課題は、李牧との戦いにおける連敗を受けた「秦国を立て直すことができるか?」という点でした。

昌平君はこの課題に対し、「秦国を立て直す」ための戦略として、3つの矢(戸籍の作成、軍の再編成、韓を滅ぼし兵力を確保する)を提案しました。※政の昌平君を鼓舞する言葉も印象的でした。

このように、実現したい目標である中華統一というビジョンに対し、最大の課題を解決するための道筋を描く。これが戦略家の仕事と言えます。

戦術を担う現場の将軍たち

「戦略として描いた戸籍作成や韓をどう滅ぼすか」について、昌平君は大筋の指示を出しますが、どう戦術として実行するかは昌文君や李氏、騰将軍や信に委ねています。

本編においても韓国をどう滅ぼすかについて昌平君は「お前たちを信じる」と細かな指示は出しませんでした。
騰将軍の配下隆国は「そこは俺らに丸投げかよ」とキレていましたが、騰は「現場の我らも知恵を出せ」と収めますが、まさにここが戦術のフェーズになります。

つまり戦術において大事なことは、「どう実現するか、どの手段で実行するか、それが最も速いのか、コストとして最適なのか」などその領域における様々な要素を考慮したうえで最善手を導き出すことになります。

戦略に基づいた戦術であれば、どう実行するかは現場の裁量でしかありません。極端な話、戦略を実現できればどう実行しても良いわけです。

タイムスパンの違い

また、戦略と戦術にはタイムスパンの違いもあります。戦略は基本的に変更されることが少なく、大局的な視点を求められます。一方、戦術は現場の状況に応じて臨機応変に対応し、短期的なスパンで調整が行われます。

ここまで『キングダム』を例に、戦略と戦術の違いについて説明しました。次章では、実際の事業開発において起こりうる課題とその解決策について述べていきます。

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