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40歳からは社会に適応的でない人生を

手術の帰りにちょうど帰宅ラッシュの時間にぶち当たってしまい、不自由な身体で無理くりドア付近に入り込んだが、術後に固定した箇所がつっかかって不自然な姿勢になったのを息子が見てくすくす笑っていた。「ヨコでダメならタテにする」と言いながら身体の向きを変えたら見事収まった。
ぎゅうぎゅう詰めで見ず知らずの人とありえないくらい近い。
車内には私と同じ歳くらいの女性も当然何人か確認できる。こんなになってみんな毎日働いてるのだなあ、と思う。

混雑した車内で「通勤して仕事するの、もうムリかも」と息子に言い、極力家の近くで仕事を決めようとあらためて決意。

通勤ラッシュを見て心は簡単に萎えて、がんばって働いている人に比べて自分はダメだなあと
「私は社会不適合者だ。どうぞ社会不適合者の烙印を押してくれ」と心の中で言った。

専業主婦だけど家事をしない母を見て育った私は、自分はそうなりたくないし、専業主婦というものをどこか軽蔑していた。思春期の頃には母に向かって「私はだれかの寄生虫みたいになりたくない!」と言い放ったこともある。 

自分は一人親だし死ぬまで働くものだと思ってきた。絶対、平日にサスペンスドラマを何か食べながら観る人生にはならないだろうと。そういう人生を選ばなかったのだから一生そんな生活には無縁なのだと。
でも、今の私の生活がまさにそうなのだ。

自分の家で好きに過ごし、仕事に行かなくていいというのが快適で、孤独だけど寂しさは感じない。
もちろんこんな生活は長くは続かないだろうが、つかの間の時間をありがたく過ごしている。
暇で暇でしょうがないと自分のこともよく見えるし、何より自分と仲良くなれた気がする。
母親の生き方を毛嫌いして遠ざけているだけでは見えなかったものが見えてきた。


2016年に受けた夢分析の記録の中に、分析家に言われた言葉がそのまま綴られていた。
夢は母からもらったお金をリストを見ながら振り分けているというのが大まかな内容で、現実の当時の私は大量出血で死にかけて、輸血して退院した後もまだ極度の貧血で体調が悪く家で寝ている日が多い状態だった。大学病院への通院はタクシーを使うほど弱っていた。

夢を読み上げた後「今死んだら後悔する。私は半分しか生きていない。本当にやりたいこと(文章を書くこと)をやっていない」と訴えた私に、分析家は夢の内容もふまえ
「もう一度、ふところに戻ってエネルギーを振り分けるってことだと思うんですよ。死んだらお金持ってけないのよ。札幌で育まれたもの、風土とかあると思うんですよ。子どものときに近所のおじさんの家に行ってぬりえしたり、音楽したり……。それってやっぱり人間の原点だから。もちろんすぐそれを仕事に結びつけるってことじゃなくって。人間の原点だと思うんですよ、そういうアート的なこと。ユングも40歳までは社会に適応した人生、40歳以降は社会に適応的じゃない人生ということを言ってますよ。」
と言ったのだった。

その後、体調が回復した私は障がいを抱えた方の話を聞く相談員となり、異動先で出会った同僚に保育士を勧められ資格を取った。そして縁あって新規の保育園で担任を持ち、保育士として働いていた。おかげで生活は安定し、念願の広い家、年に数回の旅行ができ、息子を私立の大学に通わせることもできた。
学生時代学んだ音楽を仕事のなかで、リトミックや劇の伴奏という形で生かすことができた。
一方で、忙しさを理由に文章を書くことには相変わらず手をつけなかった。保育士を一生やっていくのだろうと思っていたらコロナ後遺症になり、保育の仕事ができなくなった。

人は、青年期は社会に適応するためアイデンティティを作り上げていく。
人生の後半、中年以降は自らの死を含めた自己実現に向けてそれぞれの道を歩まなくてはいけない。それまでの価値観が変わるときなのだ。

社会に適応的でないことほど深めていくべきなのかもしれない。


この先いつまでnoteを続けるのかわからないが、病のおかげで文章を書くという本当に望んでいたことができたのだから感謝だ。
今年は、小説を書いて文学賞に応募するという長年の夢も叶えることができた。 
noteで収益が上がっているわけでもないし、文学賞で賞をとったわけでもない。けれど私はこれからも細々とでも書くことを続けていきたい。
今の私を見たら、分析家の先生はきっと「神の采配」と言うだろう。


 「自己実現」はそれができたから一生それでいける、というものではありません。ユングはいつも「自己実現の過程」と言っていました。「個性化」とも言っています。結果ではなくてプロセスだということです。
 人は「その人になる」という過程を一生ずっと歩み続けていくんです。そして自分の歩んでいる道が自己実現に通じているかどうか。それは、歩き始めてみてわかることの方が多いと思います。それでどこをどう軌道修正するかしないか、ひとりひとり、みんな違います。それは自分自身に聞いて決めていかなければ仕方がない。まさに自己実現ですから。

河合隼雄著「こころの子育て」


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