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ソキアンのナーガ
「色っぽいナーガ。これは、わたしの大切な宝のような布。カンボジアの絣の柄には、生命力とそのエネルギーの象徴としてのナーガを描くことが多い。IKTTの代表的な絣の柄の中にもナーガーは使われる。この色っぽいナーガとわたしが呼ぶ布も、IKTTの代表格。この布の織手はIKTTの第三世代、三人の子供がいるお母さん。10年ほど前に彼女が結婚を決意したとき、布が色っぽいナーガになった。そして、今では彼女の得意の柄になり、風格のあるナーガに変わった。」2012年 森本喜久男FBより
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森本喜久男FBより
森本さんの好きな模様がある。それが「ナーガ」模様の布。森本さんはソキアンの作るナーガの布がお気に入りで、数枚ほどストックしていた。お客様が来た時に見せていた布の中には、いつもこれが入っていた。
「岩本さん、ソキアンのアレ持ってきて」
そしてその布を手渡すと、とても丁寧にその布を広げ話し始める。
「これはうちのNO1のデザイナー、ソキアンが作った布。僕はこの布が大好きでね。面白い話があるんだ。ソキアンがあるときこのナーガの布を仕上げてきた。僕はそれを見て「色っぽい布」だと思った。実はこの布を作っている時に彼女は結婚を決意していたんだ。」
2016年末、ソキアンはまた新しくナーガの布の制作に取り掛かっていた。括り台を森本さんの所に持って行っては色々と相談していたようだった。森本さんもこの布の完成を心待ちにいていた。
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2017年6月、私たちは日本の福岡にいた。女性伝統工芸士展というイベントが開催されIKTTが招待されたからだ。IKTTからはソキアンとワンニーが日本へ行き、ソキアンが織り、ワンニーが括りを披露した。ソキアンが織るのはもちろん自分で括ったナーガだ。IKTTの展示ブースに来た森本さんはソキアンが織るナーガの布を見て、とても嬉しそうに、そして完成を楽しみにしていた。
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しかし、森本さんはこの時すでに車椅子を使っていて、実は講演会が始まるその寸前まで、IKTTブースの裏に準備されたベッドで横になっていた。とてもしんどそうで、何回も深呼吸をしていたのを覚えている。正直に言えばこの時は、講演会が出来るような状態ではなかった。無理しないように何度も言ったが、講演会の時間になると「行こう」と言って、車椅子を押され満員の会場に向かった。伝統の森でもそうだった。しんどくてベッドに横になっていても、お客様が来るといつも通り、楽しそうに話していた。
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森本さんは完成したナーガの布を見ることなく2017年7月3日早朝に逝ってしまった。ソキアンのナーガが織り上がったのは、その3日後だった。
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完成したソキアンのナーガ
ソキアンはどんな気持ちでこの布を作っていたのだろう。森本さんは完成した布を見たら何を思っただろう。
この布が完成した時、ソキアンは森本さんに見せたかった、とても残念だとこぼしていた。
そして、それから5年後の2022年、彼女はまた同じ言葉を言うことになった。その作品の話しは、また今度。
ー後日談2023年ー
ソキアンにナーガを制作していた当時のことを覚えているか聞いてみた。
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第一子となる長女のペアを妊娠していた頃、ナーガの布を括っていたそうだ。その布が仕上がった際に森本さんは、
「ちょっとこのナーガは太ってないか?きっと食べ過ぎたんだね。」
と、笑っていたそう。その時の思い出をとても楽しそうに話してくれたソキアン、話し終わるとしばしこの布をじっと見つめていた。
何を思っているのか聞きたい気持ちを封じ込めた。当時の思い出でも振り返っていたのだろう。その代わりに静かに写真をバシャバシャ撮らせてもらいましたが(笑)
ソキアンに、またナーガの布を作ってもらおうかな。だいぶ風格のでたナーガになるのかな。その際にはオーダーお待ちしております笑