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NIKE新キャンペーンを基に考える「ブランドメッセージ」の意義

職業上、国内外の広告賞受賞事例を数多く分析してきた自分が、NIKEの新キャンペーンを基に、「ブランドメッセージの意義」に関して簡単に言及したいと思います。

NIKE - DREAM CRAZY

9月5日水曜日にNIKEの新キャンペーンが公開され、アメリカで炎上し、物議を醸しました。

こちらが動画になります。

内容としては、NFLフットボーラーのコリン・キャパニックのナレーションに合わせて、様々な人種、性別によるスポーツの映像が展開されるというものです。

カッコいい動画で、伝えているメッセージも素敵で勇気を与えてくれます。ではなぜ炎上しているのか?

それを紐解くには:

①過去2年間のアメリカ内における人種問題の変遷
②アメリカ国民にとってキャパニックがどういった人物か
③企業が展開するブランドメッセージの意味

について理解しなければなりません。


コリン・キャパニックとは

みなさまは下記の写真を見たことはありますか?

2016年NFLシーズン中に、黒人をはじめとした有色人種に対する差別や警察の暴力に抗議するため、キャパニックは試合前の国歌斉唱中に起立することを拒否しました。前代未聞です。

彼は代わりに片膝を立てる #Taking A Kneeというムーブメントを巻き起こし、一躍マイノリティーの英雄になりました。

当時(今も)は有色人種に対する扱いが社会問題となっており、こういった行動は瞬く間にSNSで拡散をされ、国を巻き込んだ議論へと発展されました。

この騒動の影響もあり、アメリカの世論は大きく分裂した結果、トランプ政権の誕生などを経て今の世の中があります。

NFLはトランプ大統領からとんでもなく批判をされ、政府の圧力に屈し、2018年5月にはリーグが国歌斉唱中にひざまずく行為を全面禁止に。

キャパニックは事実上、解雇され今はどのチームにも所属しておりません。

彼は有色人種から英雄視される一方で、アメリカファーストを唱える人たちからは反愛国者として見られているのが実情です。


NIKEが彼を起用することの問題点

そして2018年、NIKEが彼を起用しキャッチコピーを新たに打ち出しました。
“Believe in something, even if it means sacrificing everything
(何かを信じろ。たとえそれが全てを犠牲にするとしても)”。

自分の人生を犠牲にし、勇気ある行動を取ったキャパニックだからこそ、
強い説得力がある素敵なメッセージだと思います。

では何が問題なのか?


それはこれがあくまで「金儲け」のためだからです。


2015年ごろより、世界的な広告賞を受賞する事例は「ソーシャルグッド」が占め始めていました。

障害者の救済、女性の地位向上、貧困解消。

人類が持つ課題を、企業がキャンペーンに組み込み、ブランドメッセージやPR手法を通じて問題の解決を図り、結果としてブランド好意度の向上を目指す。

しかし、全ては「金儲け」のためです。

そこで今回のNIKEの件。
カナダ人俳優のPatrick J Adamsは下記の投稿をしました。

簡単に解説すると、
「この大企業は労働組合化されていない労働者をいまだに使っている。NIKEは活動家ではなく、これはあくまでもPR。社会活動を利益に変えていることを忘れてはいけない。」

こういった言及がなされるのは、東南アジアなどではNIKEが労働者を低賃金で働かせ、搾取をしているという報道が背景にあります。

このような批判が共感を集めており、NIKEのバッシングに繋がっています。
ようするに偽善をやめろっていうことですね。

では企業はこういったPRをしないほうがいいのか?


僕は「どんどんやったほうがいい、それが企業利益のためであっても」を主張します。


資本主義社会に生きている限り、企業が利益を出さないと社会が破綻をしてしまいますので。

そして影響力のある企業がソーシャルグッド、社会活動に言及をしないと
国民は振り向きません。現に今回の騒動でキャパニックを改めて知った人も多いはずです。


偽善であっても、やる必要はあります。そうしないと社会問題解決の糸口を見つけることすら難しいと思います。


ちなみに今回のキャンペーンで、NIKEの売り上げは数日間で31%上昇しました。マーケティング上手いなぁとつくづく思います。


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