(全文無料・2024年) 富士登山🗻: 富士山初めてさんのための完全ガイド+持ち物辛口レビュー
こんにちは、IKKOです🕶️
初めましての方は、初めましてIKKOと申します🕶️
2024年7月14日から15日にかけて富士山登頂アタックをして無事に成功、下山して参りました🎉🙌
今回の記事では、
富士山初めてさん🙋のための、
準備段階から登山・下山まで全てを詳しく解説
していきます。
××××××××××××××××××××××××××××
(基本情報編)
2024年の富士登山ルール変更点 + 実際に経験してみて
(準備編)
パーティ(登山グループ)の構成と決め方 + 富士頂上で見た登頂率が高かったパーティ構成
山小屋宿の決め方 + 実際に経験してみて
持ち物服装リスト + レビュー
各種有益SNS・天気予報サイト + 実際に使ってみて
(登山・下山編: 実体験の記録)
Nonfiction
5号目: 富士山吉田ルート口に降り立つ
6号目: 高山病対策炸裂
7号目: 落ちる太陽と落ちる体温
8号目: 風速20m, 雨量8mmの悪天候
8.5号目: 「山は動かない」
9号目: 勝鬨
富士山頂: そこに人がいる
8号目: 削られる体力
7号目: 雷、か?
6号目: 行く者と去る者
5号目: カップラーメン
(付録)
おわりに
××××××××××××××××××××××××××××
🕶️: 私自身も、初めて富士山を登った身だったので、富士山登頂の瞬間まで幾度も緊張と不安を感じました。
様々な情報媒体で登山家の方が解説しているかと思いますが、富士山初心者目線で初心者のための解説は中々ないかと思われます。
是非、参考にしていただき、安全で楽しい富士登山をお迎えください😌
⭐︎富士山吉田ルートの全トイレ概要とレビューはこちらのnoteにまとめています。
"トイレに関して、取り急ぎ把握しておきたい!!"
という方は、併せてご利用ください。
(基本情報編)
📍2024年の富士登山ルール変更点 + 実際に経験してみて
=======
Q. 前提として、なぜ大幅なルール変更が2024年に導入されたのか?
A. コロナ禍明けの2023年に大幅な登山者の増加があった。
→結果として、登山道の渋滞・遭難による救助・弾丸登山(山小屋宿を取らずに夜間歩き続けて山頂御来光を目指す登山)・汚染問題等が起きてしまった。
弾丸登山に関しては、標高が高い場所にて身体を高度に順応させる時間が取れない+夜間の気温が著しく下がるため、高山病や低体温症のリスクが大幅に上がってしまい危険なのです。
=======
↓2024年吉田ルートに設けられた規制↓
午後4時から午前3時まで、5号目登山口ゲートの封鎖 (山小屋宿泊予定者は午後4時以降も入山可能)
→🕶️: 山小屋がある7号目までは最短でも1時間30分ほどかかるし、宿では17:30頃には夕食+18:30頃には就寝(御来光登山のために早寝)なので、16時以降から出発することは一般的とは言えない。
→🕶️: この時間規制は効果的に感じて、実際に弾丸登山や野宿を試みる登山者は見かけなかった。
1日の登山者数は4,000人[目安: 予約枠3,000人+当日枠1,000人]まで (山小屋宿泊予約者はカウントに入らない)
→🕶️: 基本的に山小屋宿泊者は事前予約をする必要はない。
天候が荒れた等で富士登山をキャンセルする場合は自己判断扱いになりキャンセル料が戻らない可能性が高いため。
→🕶️: 日帰り登山の方は2日前など天候が大体確定してからの予約で大丈夫だと思われる。
当日吉田ルート登山口へはシャトルバスが約1時間に1本到着し、バスの乗車人数は50人ほど。仮に13時間(3〜16時)シャトルバス利用者全員が当日枠手続きしても650人であり、枠自体に余裕がある。通行料2,000円を払わなければならない+配布されるリストバンドを常時付ける必要がある
→🕶️: ライト層の絞り込みが上手く出来ているかなという印象。
お金を払う分、準備相応臨んでくるハイカーが殆どだった。
→🕶️: リストバンドは下山するまで外してはいけない。
バンド自体はフェスなどでする紙のバンドで、寝る時なども気になることはなかった。
(準備編)
📍パーティ(登山グループ)の構成と決め方 + 富士頂上で見た登頂率の高かったパーティ構成
「仲が良ければ、何人でも・誰でもいい!」
「サークルで行くので、幹事に役割含めて任せっきり。」
「ツアーなので、意識したことなかった…」
という方が、富士山初めてさん🙋の中では少なくないのではないでしょうか?
結論、私IKKOとしては登頂率に大きく影響する要素だと思っています。
=======
---------
まず、基本的なパーティ構成を説明します。
主な役割は以下
リーダー役(必須)
サブリーダー役(場合により必須)
メンバー
---------
・リーダー役(必須):
絶対に必要です。
なんとなくではなく、パーティの中での最終決定権はハッキリさせておいた方が良いです。
「oooさんは、富士登頂経験があるし、普段から登山しているので、今回はoooさんをリーダーにしよう!」
という具合に、富士登頂経験があることを優先に組むべきだと個人的には思います。
というのも、パーティ全体の歩行スピードや、天気の判断、下山・登山の判断は、複雑かつ迅速な判断を求められます。
絶対的な決定権を持つ人間をパーティ内に置かなければ、パーティ全体の行動が遅れて遭難してしまう確率も上がってしまうからです。
・サブリーダー役(必須):
4人以上のパーティでは、必要となります。
4人以上という理由は、
パーティの人数が大人数になる
リーダー役の負担を減らす
偶数+大人数パーティでの対立意見を処理する
という点があげられます。
*サブリーダーも可能であれば、リーダーを補佐するという意味でも富士登山経験者(登頂を必須としない)が良いと思います。
特に、
最後の "偶数+大人数パーティでの対立意見を処理する"という点においては、グループ内の分裂が生じやすい偶数という状況下においてバランスを取る役割に徹する必要があります。
パーティの人数に関しては、富士登山の中で実際に経験した興味深いデータがあるので詳しく後述させていただきます。
・メンバー
パーティによって、大きく変動すると思います。
0人のパーティもあれば、20人などの大きいパーティもあるでしょう。
基本的には、富士登山が初めてな方や登山初心者さんがここに入ります。
メンバーの方は基本的に、パーティの中央部に入ります。
元山岳部部長blogさんが掲載されていた画像が分かりやすいので、ご覧ください。
私もこの順番がベストだと、個人的に思います。
Q.
なぜ1番体力が弱いメンバーが先頭の後ろか?
A.
基本的に1番体力が弱いメンバーにペースや休憩のタイミングを合わせるため。先頭のサブリーダーがこのメンバーを状態を随時把握するため
Q.
なぜ体力が強いメンバーが後列になるのか?
A.
グループ全体のペーシングは前列が握っているため、後列は常に合わせていくという状態になる。
また、メンバーが多いほどパーティ全体が見えにくくなる+足場も見えにくくなるため負荷がかかりやすいため。
リーダーは常に全体を把握し、随時指示を出したいため最後列にいるのがベター。
=======
基本的なパーティ構成を把握していただいたところで、実際にどのように構成したかは以下。
パーティ: 2人 (個人パーティ: Mr. AとIKKO)
Mr. A (リーダー)
→ 富士登頂経験1回 (吉田ルート)
→ 登山頻度: 月1
→ 2,500m超級の登山経験: あり
→ 現在の身体活動量: 低
→ 役割: 全体判断・ペーシングIKKO🕶️ (サブリーダー)
→ 富士登山初
→ 登山頻度: 月1あるかないか
→ 2,500m超級の登山経験: なし
→ 現在の身体活動量: 高
→ 役割: 天気の把握
💡元々、4人グループがあり、その中で富士山に登りたい2人。
💡主に、IKKO🕶️が富士山登頂してみたい意欲が発端。
💡基本的に役割は決めたが、2人で随時話し合って決めていくスタンス。
💡歩き順も前後交代。互いに先頭になった瞬間にペースが早くなりがちだったので後列がコントロールしていた。
個人的に、この構成はかなり成功していたと思っています。
・言いたいこと言える、言われる
・苦楽を共にした経験あり
・信頼を置ける
以上が揃えば、2人での少人数パーティも可能かと思います。
実は、スタート地点では様々な人数のパーティを見たのですが、富士山頂では2人のパーティが圧倒的に多かった印象でした。
↓私自身が感じた、パーティ人数と影響なのですが…(個人的な見解です)↓
[MAX]
大半
まあまあ
ちらほら
稀
[MIN]
1人 (富士山頂での割合: ちらほら)
→🕶️: 男性がほとんど。黙々と登山していてスピードも早かった。トレランで来ている人も多そうで6号目で引き返す人も多く見受けられた。2人 (富士山頂での割合: 大半)
→🕶️: かなり見た構成。外国人登山者から日本人登山者まで。
個人パーティのため休憩やペースなどは自分達で調整していた。3人 (富士山頂での割合: ちらほら)
→🕶️: 思ったほどあまり見なかった構成。登山経験者が少数精鋭で集まったパーティが多く、男女混成も多かった印象。4人 (富士山頂での割合: 稀=1組のみ)
→🕶️: 登山口では多く見たが、頂上では見なかった。8号目あたりで著しい悪天候になり、下山をするパーティのほとんどが4人組であった。5人 (富士山頂での割合: ちらほら)
→🕶️: 大学のサークルや会社の同僚、学校の部活?のパーティらしきグループが多かった。圧倒的リーダー感のある人が1人必ずいた印象。6人〜8人 (富士山頂での割合: まあまあ)
→🕶️: のサークルや会社の同僚、学校の部活?のパーティらしきグループが多かったが、ここにツアー団体も入ってくる。基本的には富士山ガイドさんがグループにいた印象。9〜20人 (富士山頂での割合: *稀)
→🕶️: これは午前3〜6時に悪天候になったため、ガイドさんが下山判断をして多くのグループが下山を選んだためだと思われる。
旅行会社運営の日本人向けツアーは大体がこなボリュームになると思うので、晴天時はプロのガイドさんがいることで登頂率が大幅に上がると予想される。
*逆に言えば、旅行パッケージががっちり決められているので臨機応変な登山スケジュールの変更が効きにくい。21人〜 (富士山頂での割合: *稀)
→🕶️: 9〜20人の場合と状況は同じ。
海外旅行者(特にアジア圏)の団体ツアーパーティは、この人数規模を構成する。
24年7月14〜15日の場合は
という状況が一変し続ける状態であったため、
今回、パーティに求められることとして
・的確な情報収集
・迅速な情報分析
・パーティとして方向性の話し合い
・全体の意思決定と着手
特に、最後の2項目をいかに早く・適切に出来るかどうかが肝でした。
何故、4人のパーティの登頂率が低かったか?に関して私自身の考えを記すと、この最後の2項目が難しかったのではないかと思われます。
4人は偶数であるため、意見が対立した際に(2 × 2)で分かれることが可能です。
山ではパーティ全体で行動するため、意見が対立することを避けるようになります。
結果として、保守的な意見を優先=(下山するという)リスクヘッジを優先するようになるわけです。
また、悪天候下では雷などが発生した際に緊急で山小屋に避難させてもらうことも想定されます。
その時に、2〜3人の少人数パーティであれば全員の安全確保できる可能性が高いが、人数が増える毎に全員の安全確保が難しくなっていきます。
上記の理由から、今回の条件下では2人組の登頂割合が高くなったのではないかと想定出来るわけです。
📍山小屋宿の決め方 + 実際に経験してみて
富士山吉田ルートにおける山小屋一覧は以下。
空室状況一覧から各山小屋のHPに飛んで、予約を取ることが出来ます。
この一覧には載っていないのですが、富士山頂の山小屋 "頂上富士館"さんでも宿泊が可能なようです👀
私たちの場合は、24年7月14〜15日の7号目トモエ館さんの予約分を1ヶ月前の6月14日に取りました。
正直、予約時期遅かったと思います。
その他の日程は、満室だったので予約が取れた時は「奇跡だ🙌」とパーティ内で喜んでいました。
5月の予約開始時に予約が出来るのが1番良いのですが、もし逃してしまったとしてもキャンセルなどでちらほら部屋が空く可能性もあるので、諦めずに随時チェックをオススメします。
今回お世話になった7号目トモエ館さんは全室個室であるため、次の日の作戦なども部屋で練ることが出来ました。
*広めの二段ベッドでそれぞれの部屋が区切られている+カーテンと木の仕切りなので音は聞こえます
山小屋を決める上で、1番気にした方が良い点は高度です。
例えば、7号目と言っても1番低い高度の "花子屋"さんから1番高い高度の "東洋館"さんまでは、高度差が約250mほどあります。
高度が、
100m上がる毎に、気温が0.6度下がり
100m上がる毎に、気圧が10hPa下がり
100m上がる毎に、酸素濃度が1%下がります。
また睡眠時では、以下のようなデータがあります。
同じ富士山の山小屋と言えど、どの標高にある山小屋に泊まるかが睡眠に関わり、次の日のコンディションも大きく変わってくるわけです。
結果として、富士山初めてさん🙋は、7号目中間までの山小屋での宿泊をおすすめします。
8号目以上では、夜間に高山病になってしまうリスクが上がってしまうためです。
📍持ち物・服装リスト + 下山後レビュー
[評価: 高]
★★★★★: 絶対にいる
★★★★☆: あったら嬉しい
★★★☆☆: どちらでもよい
★★☆☆☆: なくてもよい
★☆☆☆☆: 邪魔なだけ
[評価: 低]
・唾付き帽子
・ニット帽
・手袋
インナータンクトップ
インナー長袖
ゴアテックスの防水ジャケット
ワークマンジャケット
防水パンツ
モンベルダウン
厚手の靴下 (smart wool)
登山シューズ
下着
バッグパック(防水)
小型サコッシュ(防水)
南京錠
金剛杖
サングラス
膝サポーター
手拭い
ヘッドライト
たこ糸
アルミ防寒シート
小型日焼け止め
タオル (速乾)
トイレットペーパー芯なし
ナノタオル (ファイントラック)
ビニール袋
TPUバッグ袋 (無印良品)
アイマスク
耳栓
小銭100玉たくさん
絆創膏大きめ(メディカルセット)
保険証のコピー
サンダル
リップクリーム
ノーズテープ
携帯浄水器
方位磁針
スマホバッテリー
携帯電話
自撮り棒
マップポーチ (防水)
財布
一眼カメラ
歯ブラシセット (山用)
ドライシャンプー
ヘアワックス
マスク・防塵マスク
目薬
葛根湯 整腸剤
冷えピタ
ホッカイロ
携帯トイレ
水 (500ml x 4 or 5)
ポケカ
エネルギー (ヨーグレット)
エネルギー (塩羊羹: 和菓子)
エネルギー (こんにゃくゼリー)
エネルギー (チーカマ)
エネルギー (バナナ)
エネルギー (蜂蜜レモンスライス)
📍各種有益SNS・天気予報サイト + 実際に使ってみて
*富士山総合サイト:
https://www.fujisan-climb.jp/index.html
(天気予報)
*てんきとくらす
https://tenkura.n-kishou.co.jp/tk/kanko/kad.html?code=22150001&type=15
→🕶️:
少し下にスクロールすると、"登山指数と上空の気温・風"が登山中もとても頼りにしていた。
5号目付近の天気と8号目付近の天気を載せてくれている。
*富士登山オフィシャルサイト
https://www.fujisan-climb.jp/#weather_data
→🕶️: "雨雲の動き"、"風速・気温"、"雷ナウキャスト"は随時確認。
天気予報に関しては、実際に方位磁針を取り出して風向きや雲の流れる方角を目視して確認したりもしました。
現場の天気を把握する際は、以下の点を意識してみてください👀
SNS
X (旧Twitter)
@mushphoto
→🕶️: 山頂勤務の方で、毎日山頂の様子(天気)を伝えてくれます。
登山中も随時確認していました。
@eruption_jp
→🕶️: 富士山は活火山です。いつ噴火してもおかしくないということです。
@fujisanInfoC
→🕶️: 富士山吉田口5号目のインフォメーションセンター。
毎日の入山規制などを確認できます。
主に、登山前に確認していました。
@imafuji3776
→🕶️: 各登山道の気象観測情報がとても役立つ。
登山中に何度助けられたか分かりません。
山頂までのルートで、天気がどのようになっているか把握して、パーティ内の話し合いに生かしていました。
@bunn2000
→🕶️: 富士山ガイドの方で、登山者目線からの登山情報が得られます。
添えられる写真で、富士登山当日までのモチベーションアップにも良さそう。
Nonfiction
5号目: 富士山吉田ルート口に降り立つ
前日までの天気予報では、雷雨。
絶望していた。
「スバルラインすら通過できないかもしれない。」
マイカー規制中のスバルラインを抜けられるかどうかは、シャトルバスに身を委ねるしかない。
午前朝9時、新宿駅バスタから富士急行シャトルバスに乗り込んだ。
バスの窓から注ぎ込むオレンジの光。
ふと、目を開ける。
夢心地か、景色が霞んでいる。
ただ、たしかに今スバルラインを通過している事実を噛み締めた。
富士山5号目は、ほのかな風。
初夏の甘酸っぱい匂いがする。
「45分ばかし、ゆっくりストレッチしながら高度に順応させよう。」
前日までの絶望が、麻薬か。
初めて富士山の地を踏み締めた感動を、何倍にも感じていた。
6号目: 高山病対策炸裂
登山口で、リストバンドを手に入れた。
このリストバンドが、入山料支払った証らしい。
国籍関係なく、全員している。
フェスのような一体感さえ感じるのは、何故だろうか。
雲と歩く。
雲はイルカのようだ。
なんて人懐っこいんだろうか。
遠くにいるなと思っていたのに、気付けばすぐ近くに来ている。
身体に纏わりついてくる。
でも嫌な気持ちにならないのは、何故だろうか。
なんという非日常感。
はやる気持ちに、追う身体。
追う身体に、働く足。
「このペースだと身体に負担がかかる。亀のスピードでいこう。」
" (220 - 年齢) x 0.75 = 適切な脈拍 "
なるほど。
適切な脈拍を保つには、楽しく会話できるくらいのスピードがちょうど良いのか。
スピードを落とすと、見える景色もさらに広がった。
すぅー、と深呼吸をしてみる。
ふぅー、と吐き出してみる。
身体の中に生まれたての酸素が満ち足りていくのを感じた。
7号目: 落ちる太陽と落ちる体温
午後13時に登山を開始して、2時間と少し。
今日お世話になる山小屋(7号目トモエ館)に到着した。
ここまでの道は整備されていて歩きやすい。
なんだか楽しいハイキングだ。
「この山小屋のクリームパンがとにかく美味しいの!」
20人ほどメンバーを引き連れた、どこぞの社長さんが教えてくれた。
「この子のクリームパンはあるの?1つこの子にもね!」
クリームパンを分けてもらった。完売スレスレの駆け込みであった。
「チャイと一緒に食べるのが、通なんだよ。」
富士登山初めてにして、背伸びしてみた。
やはり高いところからの景色は格別だ。
少しでも高く、人は景色を望む。
気付けば、陽が傾いてきた。
気温も下がってきている。
夜はフリースを着て寝ると、温かくて良いらしい。
「まだ着なくて大丈夫かな。」
そう思いながら、チャイをくいっと飲み干した。
8号目: 風速20m、雨量8mmの悪天候
いまは、深夜23時30分。
不思議と眠くない。
夕方の18時には布団に入って、そこから眠れず3時間。
時折、胸のドクドクが響く。
寝ると呼吸が浅くなるという事実が、自分の本能を刺激する。
「ここで寝てはいけない。」
そう誰かに言われている気がした。
寝れないというのが、こんなにも辛いか。
3時間、何考えていたか。
その後の2時間を気持ちよく熟睡してしまったお陰で、そんなことどうでもよくなってしまった。
ヘッドライトを点ける。
辺りは真っ暗。
風が少し強くなったか。
先行く、外国人登山者。
身構える、日本人登山者。
岩肌が眠気を突き刺す。
自然は容赦ない。
言い訳など聞かず、ひたすら人間を試してくる。
風が強くなる。
次第に、上からヘッドライトの列が蛇行してくる。
「8号目はダメだ!風が強すぎて歩けたもんじゃない。あんなの死ぬぞ。」
悔しさが滲み出る。
その口から吐き捨てる言葉。
彼らを敬意を持って見送る。
登山道を下山するということがどういうことか。
厳しく、辛く、悔しい道が続くだろう。
悲しみの雨が降り注いできた。
1mm
1.1mm
1.2mm
下山者が増える。雨量が増す。
一つ一つの山小屋に着くたびに、天気予報を確認する。
方位磁針を左の掌に乗せる。
「下山するか、ここでステイするか、登るか。」
パーティで確認する。
Mr.Aを信頼する。
IKKOを信頼する。
信頼しているからこそ、本音で言い合う。
"命と命のやり取り"とはカッコよく言ったものである。
8.5号目: 「山は動かない」
"山頂の風速25m、雷注意報が2時間後から発令予想"
無理だ。
このペースのまま山頂まで登ると、雷雲の中で怯え、いずれは何処ぞに飛ばされてしまうだろう。
今は朝の4時。
運良く避難させてもらう。
本来であれば、宿泊先以外の山小屋に避難などあり得ないことである。
いや、山小屋の方々に言わせてみれば、運悪く我々が来てしまう。
山は全て自己責任なのである。
今まで出会った全ての山小屋の人々は、朗らかでどこか達観していた。
ただ1つ、皆が口を揃えていうのは、
「山は動かない」
何故、我々は山頂を目指すのか?
何故、今日でなければ行けないのか?
雨が窓を叩きつける。
風が "去れ" と諭してくる。
天気図をじっと見つめる。
失敗は許されない。
どのタイミングで雷雲が抜けるか、風が弱まるタイミングがないのか。
頭をフル回転させる。
失敗とは、この状況下で言えば「死」に等しいのではないか。
朝9時から11時の間で、風が弱まるタイミングがある。
ここが最初で最後のアタック可能なタイミングだ。
まるで、虎視眈々と獲物を狙う狼の如く、時計を見つめる。
午前6時20分。
8.5号目を後にした。
9号目: 勝鬨
狼煙を上げる。
今が攻めどき。
今しかないのである。
背水の陣。
当然、水などない。
後ろにあるのは、転落という結末である。
酸素がかなり薄くなってきたようだ。
先を急ぐパーティが多い。
兎のようにぴょんぴょん進んでは、休んでを繰り返している。
我々は亀だろうか。
依然として、脈拍をベースとしてゆったりとしたペースで着実に前を向く。
結末は、正しく「うさぎとカメ」
我々は、道端の地蔵に挨拶しながら、ノソノソと。
9号目を通過する。
御来光である。
少しの安堵感が立ちのめる。
天気図を攻略した我々は、心なしか目力が増す。
右手に持つ金剛杖を空にかざす。
「勝鬨じゃ。」
日本の頂はすぐそこである。
富士山頂: そこに人がいる
日本の頂が、一瞬だけ門戸を開けた。
日本で生まれた者として、見ておきたかった、感じておきたかった。
それぞれが、それぞれの富士登山。
登頂した人へも、下山をした人へも、全てに敬意を。
トラクターが一台、通りかかった。
何やら工事をするのだろうか。
人は動く。
どこでも、いつでも。
人を動かす。
大地は、人を動かし続ける。
時に吸収して、時に生み出す。
風が強くなってきた。
「そろそろ去りなさい。気をつけて。」
そう言われている気がした。
8号目: 削られる体力
細かい砂が身体を滑らす。
どこまでも続く、赤い道を下っていく。
時折、立ち止まってみる。
面白い形をした岩石と、靴の中に入った石を取り除くために。
どれくらい下ったのだろうか。
シャトルランをしているだけなのだろうか。
雲海にどれだけ近づいてきたかで、己の所在地を探る。
7号目: 雷、か?
雲海が近くなってくる。
どうやら、幅の厚い雲だったようだ。
午後15時ごろから山頂付近では雷雨予想。
この雲が上に上がるということなのか。
するりとかわす。
6号目方向は晴天。
どうやら草木も見えてきた。
砂と岩しか見ていなかったので、懐かしい気持ちになる。
山頂ではカップラーメンを食べなかった。
安全に下山したら食べようと誓った。
草木が見え、この旅の終わりが近いことを悟った。
「カップラーメンは醤油味を食べたい。」
そう考えながら、数歩進んでは立ち止まってを繰り返した。
6号目: 行く者と去る者
見慣れた景色である。
行く者と去る者が入り交じる。
しかし、表情から、行くのか去るのかどちらなのかすぐに分かる。
去る者は、山の険しさを経験し、顔が引き締まっている。
恐らく、それぞれ去る者は、何かを得てここを出ようとしているのだろう。
行きで見た、去る者はまるで映画のラストシーンでよく見る"戦争から帰ってきた兵士"のようだった。
我々も今、そう見えているのだろうか?
富士山頂の焼印が入った金剛杖を天に掲げ、ニカっと口角を上げた。
5号目: カップラーメン
ああ、終わりか。
今までに何度、富士山の写真を見たことだろうか。
今までに何度、東海道線の車窓から富士山を眺めただろうか。
今までに何度、東名高速道路の渋滞中チラッと富士山を見ただろうか。
「いつか登頂してみたい山」
から
「登頂したことのある山」
に変わる。
このゲートをくぐった瞬間に、そう変わるのだ。
特に目に見えて何かが変わることはないだろう。
ただ、その事実だけが、何かを変えてくれることは確かだ。
結局、すぐには変わらなかった。
カップラーメン醤油味にお湯を注いだ。
2分30秒、金剛杖を眺めてみる。
焼印で埋め尽くされた木の棒は、ただならぬ威厳を示す。
「あ、登頂されたんですか!おめでとうございます!」
富士山運営関係者の方が声をかけてくれる。
カップラーメンが出来たようだ。
一口啜ってみる。
口いっぱいにあの味が広がった。
三口ほど啜っただろうか。
なんだか、味に飽きてしまった。
(付録)
おわりに
ここまで、お付き合い頂きありがとうございます。
そして、皆様のご武運をお祈り申し上げます。
日本の頂からの景色は、必ずや人生のハイライトを彩る一部となるはずです。
是非、皆様のその目で焼き付けてきてください。
行ってらっしゃいという言葉には、「無事に行って、帰ってきてください。」という意味があり、日本独特の言い回しだと言われています。
声を大にして、皆様に言わせていただきます。いってらっしゃい!!🗻
IKKO
*内容にご満足頂けましたら、チップのご支援のほど宜しくお願い致します!
ここから先は
¥ 300
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?