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テレビレビュー『0.5の男』(2023)自然な空気感と大掛かりな演出



主人公は40歳の引きこもり男

主人公・立花雅治(松田龍平)は、
40歳で実家に引きこもり中の
ネトゲ廃人です。

毎晩、深夜まで
オンラインゲームをしており、
昼に起きて母親が作ってくれた
弁当を食べる生活をしています。

ある日、弁当に母親が書いた
1枚のメモが貼られていました。

「2世帯、はじめます」

実家を建て替えるのを契機に、
妹の家族(4人家族)が
引っ越してくることになったのです。

それまで家から出ずに
好きなように過ごしてきた
雅治の生活はいっきに
変化させられてしまうのでした。

0.5の男、外の世界に出る

タイトルの「0.5」とは、
1世帯に満たない雅治のような
単身者を指しています。

つまり、建て替えた雅治の実家は、
「2.5世帯」なのです。

建て替える前と同様に
深夜遅くまで自室でゲームをして
過ごす雅治でしたが、

妹夫婦が引っ越してきたことで、
昼まで寝ていることができない
状況も生まれてきます。

なんせ、妹夫婦は共働きで忙しく、
中学生の娘、幼稚園の息子がいるので、
その面倒も見なくてはいけません。

2.5世帯に引っ越したのがきっかけで、
妹(臼田あさ美)は、以前の職場に復帰し
バリバリ働くようになったのです。

そうすると、幼稚園への送り迎えが
難しくなってきました。

最初は祖父母がそのカバーをする
役目を追うはずだったのですが、
祖父は腰が悪く、
祖母もケガをしてしまうのです。

そこで白羽の矢が立ったのは、
兄の雅治でした。

しかし、雅治にとっては、
これがものすごく大きな
壁だったのです。

雅治は実家に
引きこもるようになってから、
昼間に家を出ることが
ありませんでした。

家の外で会う人と言えば、
深夜のコンビニで顔を合わせる
外国人の店員だけです。

そんな雅治にとって、
昼間に外へ出ることは
精神的にものすごく困難なこと
だったんですよね。

保育園に迎えに行こうとした
一日目は、
玄関の前で隣の住人に姿を
見られただけで、

苦しくなってしまい、
たちまち家に
引き返してしまうのでした。

そんな彼がどのようにして、
社会へ復帰していくのか、

彼はどうしてこのような
引きこもり生活を
するようになったのか、

物語が進む中で、
明らかになっていきます。

自然な空気感と
大掛かりな演出

本作はとにかく家族構成が秀逸です。

引きこもりの雅治役に
松田龍平は適任ですし、

そんな息子を陰ながら
温かく見守る父母として、
木場勝己、風吹ジュンも
ピッタリでした。

勝気な妹を演じる臼田あさ美も
良かったですし、
その娘・恵麻を演じる
白鳥玉季もすごかったですね。

(この白鳥玉季さん、
 『テセウスの船』でも
 素晴らしい演技をしていたのを、
 よく覚えている)

弟・蓮を演じる加藤矢紘も
自然体の演技に好感を持ちましたし、

夫役の篠原篤も地味ながら、
前に出過ぎない義弟役が
ピッタリでした。

この家族構成で
それぞれの個性が埋もれないのは、
やはり脚本と役者の力によるところが
大きいでしょう。

それに加えて、
本作は『南極料理人』などでも
有名な沖田修一監督が
手掛けたのもあって、
(3~4話は玉澤恭平監督)

映像の作りも素晴らしかったです。

特に驚かされたのは、
2.5世帯という特異な住居の
シチュエーションを

本作では大掛かりなセットを作って、
それを横から見せる演出が
多様されているところです。

普通の映像作品でも、
建物を真っ二つにしたようなセットで、

状況を横からの視点で見せる
といった手法がとられることは
ありますが、

ここまで大胆に
その演出が使われた作品は
これまでに観たことがありません。

(最終回のエンディングで、
 そのセットの全貌が明らかにされる。
 2階建てのすごいセット!)

役者陣の空気感のすばらしさ、
そして、それを引き立てる
演出のおもしろさ、

さらに本作では家族の
「多様性」という今の時代にあった
新しいタイプのドラマが
展開されています。

純粋にエンタメとしておもしろく、
(クスッと笑えるシーンが多い)
テーマ的にも今の時代に
合った作品です。


【作品情報】
2023年放送(全5話)
脚本:牧五百音
   沖田修一
監督:沖田修一
   玉澤恭平
出演:松田龍平
   臼田あさ美
   白鳥玉季
放送局:WOWWOW
配信:U-NEXT、FOD、
   Hulu、TELASA、Netflix

【沖田修一監督の作品】

『南極料理人』
(2009)
『おらおらでひとりいぐも』
(2020)
『さかなのこ』
(2022)

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