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音楽レビュー『JAPANESE GIRL』矢野顕子(1976)自身のルーツを活かして和洋折衷


前々から気になっていたアルバム

矢野顕子のアルバムは
以前から聴きたい
と思っていたのですが、

なかなか機会がなく、
ずっと先延ばしになっていました。

最初に聴くなら、
YMO が参加した'80年代の作品
と思っていて、

サブスクで探したところ、
その時はまだ配信されて
いなかったんですね。

▼最近、解禁になった

そんなわけで、最初に聴いたのが、
このファーストアルバムでした。

聴いたことはなくても、
有名な作品なので、
いろいろと逸話は以前から
聴いていたアルバムです。

A面はアメリカで録音され、
リトル・フィートが参加しています。

リトル・フィート:
アメリカのロックバンド。
'69年結成。
桑田佳祐が強く影響を
受けたバンドでもある。

なんですが、矢野の
あまりにも素晴らしい
パフォーマンスに圧倒され、

バンドのリーダー、
ローウェル・ジョージは

レコーディング後に
「力不足でした。ギャラはいりません」
と言ったそうです。

B面は東京で録音され、
細野晴臣、林立夫、
(ティンパンアレー系のメンバー)

あがた森魚、かしぶち哲郎、
鈴木慶一など、

はちみつぱい系のメンバーが
参加しています。
(のちのムーンライダーズ)

誰にも真似できない
強烈な個性がある

とにかくバックの演奏者が
豪華なアルバムですが、
当時21歳の矢野のパフォーマンスも
それに引けをとりません。

ピアノの音色、歌声は
彼女特有の「個」が確立されており、

リトル・フィートの
ローウェル・ジョージが
感服したのも頷けます。

YMO の最初の
ワールドツアー('79年)にも
サポートメンバーとして
同行した彼女ですが、

メンバーの話によると、
YMO の楽曲と同等か、
それ以上にウケたのが、
彼女の楽曲だったと言います。

YMO の楽曲は現地の人にも
伝わるはずの英語で歌ったにも
関わらず、

「なんのことを歌っていたの?」
と聴かれるほどでした。

(英語の拙さもあったかもしれないが、
 SFチックな歌詞が余計に
 伝わらなかったのかもしれない)

一方で矢野の楽曲は
すべて日本語の歌でした。

にもかかわらず、
矢野の歌の良さは外人にも
通じたのです。

歌に限らず、
会話でもこういうことは
ありますね。

時には整然とした標準語よりも、
飾りのない地元の言葉が
通じることがあります。

矢野顕子の音楽性には
そんなものを感じますね。

このアルバムでは、
彼女の故郷である青森の民謡が
モチーフになっている楽曲が
いくつかあります。

録音されたのが
ロサンゼルスであろうと、
ライブの場所がロンドンであろうと、

彼女の音楽性には、
それにおもねることがない
独自の個性があるんですよね。

こんなに若い時代から
そうだったというのが、
何よりもすごいことだと思います。

自身のルーツを
活かして和洋折衷

ここからは1曲ずつの
解説に入りいましょう。

レコードのA面にあたる
①~⑤はアメリカでの録音、
⑥~⑩は東京での録音です。

①重いベースラインと
軽やかなピアノが印象的で、
ファンクっぽい曲でもあります。

②和風のメロディーラインを
使った楽曲です。

ギターの音の伸び方が和楽器的で、
尺八の音も聴こえますが、
この演奏はローウェル・ジョージに
よるものなんだそうです。

和的なリズムとファンクの融合が
おもしろい楽曲になっています。

③静かなイントロから
はじめの歌声でいっきに掴む感じが
たまらない楽曲です。

間奏のブルージーなギターもいいですね。

④津軽民謡をベースにした楽曲で、
リズムのパターンは
レゲエになっています。
迫るようなコーラスもおもしろいです。

⑤青森の民謡をベースにした楽曲で、
こちらはファンクのビートが
ミックスされています。

間奏の勇ましいピアノも聴きどころです。

⑥せつない感じの歌声が郷愁を誘います。
シンセの音色がこれまた和風な色合いで
いいアクセントになっていました。

⑦和楽器を活用した楽曲になっています。
能楽のような合いの手もおもしろいですね。
浮遊感のある歌声とストリングスの
組み合わせが絶妙でした。

⑧軽やかなストリングス、
小気味いいピチカートと、
(弦を弾いて弾く奏法)
乱れ咲くような琴の音色が印象的です。

⑨藤山一郎の楽曲のカバーです。
リズミカルなテンポと
軽やかなボーカルの相性がいいですね。

⑩⑤の別バージョンです。
和太鼓とバケツの音を組み合わせた
リズムトラックがおもしろいです。
シンセの音色が重厚な感じでした。

「らっせーらー」の掛け声が
お祭り感満載です。

(各楽曲の解説はここまで)

全体的に和的な要素と
ファンクやジャズを
組み合わせたような
独特な音楽性で、

音質の面でも楽曲によって、
残響が強めの楽曲(①)があったり、
使い分けがされているのが
おもしろいです。

聴き込めば聴き込むほどに
味わい深い作品に
感じられる気がします。


【作品情報】
リリース:1976年
アーティスト:矢野顕子
レーベル:日本フォノグラム

【アーティストについて】
’73年、バンド・ザリバを結成。
デビュー後、すぐに解散。
’76年、ソロデビュー。

【同じアーティストの作品】

『いろはにこんぺいとう』
(1977)
『ト・キ・メ・キ』
(1978)
『音楽はおくりもの』
(2021)

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