映画レビュー『ヴィレッジ』(2023)暗いけどこれが現実
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観る人を選ぶ作品ではある
いい作品なんですが、心に余裕がない時には観ない方がいいです。
全体的にトーンが暗めですし、ほぼ最後までそれが続く感じなんですよね。
でも、こういう作品もたまには観ておいた方がいいです。
なぜならば、現実の世界には、このような救いのない話がいくらでもあるからです。
今は普通に暮らしている自分だって、いつ何時、こんな状況にハマってしまう場合があるかもしれないのですから。
そういう現実を一旦、受け止める必要があると思うんですよね。
物語の舞台はとある村落
主人公は一人の青年(横浜流星)です。
彼は母親が抱えた莫大な借金のために、地元のゴミ処理場で昼夜を問わず働いていました。
働いても働いても、借金がなくなりません。
母親は働かずに、新たな借金を作ってくるからです。
職場に行けば、いわれのない暴力にさらされ、夜の仕事は反社がかかわる違法の仕事でした。
延々と救いのない生活を送る中、村に一人の女性が帰ってきました。
帰ってきたのは主人公の幼なじみの女性
彼女(黒木華)は一度、東京に出て仕事をしていたのですが、そこを辞めて地元に帰ってきたんですね。
そして、彼女も地元のゴミ処理場で働くことになりました。
主人公が働くのは、ゴミを処理する現場ですが、彼女の仕事は広報でした。
広報になった彼女は、幼なじみの主人公を施設の案内役に抜擢します。
今では、すさんだ生活を送る暗い彼ですが、子ども時代は明るく、人前で話すのがうまかったことを思い出しての抜擢でした。
最初こそ、その依頼を拒否する主人公でしたが、勇気をもってやってみると、以前の明るい彼に少しずつ戻っていきます。
子ども時代にも仲が良かった二人は、これがきっかけで交際するようになります。
やがて、地元のゴミ処理場がテレビで紹介されることになり、そこでも彼がナビゲーターとして、活躍するのでした。
暗くみじめな生活を送っていた主人公が一躍、地元の英雄となったのです。
と、ここまでは順調に進んでいくのですが、いろいろと問題が起こってくるんですね。
ゴミ処理場には、もう一人の同級生がいて、彼は村長の息子です。
これがたびたび問題を起こしては父親にもみ消してもらう問題児だったのです。
この男は、ひそかにこの女性に思いを寄せているのですが、何かにつけて彼女が主人公をかばうのをおもしろく思っていません。
また、主人公自身も違法な仕事をしていた過去があるので、それが公になるとまずいわけです。
こう書いていても、このあとのストーリー展開は思い出したくないほど、つらいものでしたが、だからといって、「観なければ良かった」とは思いません。
作品として、とても質が高かったからです。
特に、主演の横浜流星の巧みな演じ分けは印象的でした。
最初に出てくる主人公は、いつもの横浜流星とは違う顔に見えるほど、落ちぶれて見えますし、その後の立ち直りの演じ方もすごく自然なんですよね。
細かいことですが、人物の心情によって立ち姿さえも微妙に違っていました。
もともとの横浜流星は姿勢がピッとしている印象だったんですが、前半のすさんだ状況の彼は少し猫背気味で、その後、立ち直ってくると姿勢がよくなっていたんですよね。
こういう細かな演じ分けをそれとなくできるのがすごいです。
また、本作はフィクションではありますが、村のゴミ処理場が作られた背景も、現実世界でもよくあることで、胸が痛む話です(原発でもこういう問題がある)。
もちろん、こういう話に正解・不正解はないとも思うのですが、身近にこういう問題がない人こそ、知っておくべきだと思います。
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