人の上に立つには「嫌われる覚悟」が必要
短大時代の話。
私は軽音楽のサークルに入っていました(唐突)担当はベースでした。陰キャで有名な川原が、まさかのバンドを始めたのです。
元々音楽が真剣に好きで、「短大に進学したら軽音楽部に入ろう」と心に決めていたからです。
私の短大は女子大だったのですが(というか短大は女子大が多い)、一言で言い表すなら、くだらんことでよく揉めました。
「歌ってるだけの奴は楽」
「○○ちゃん全然(演奏が)できてない」
「私はこの曲がやりたいんだ!」
なんてことが日常茶飯事でした。
正直、揉める次元が低すぎると思ってました。第一に、音楽に対する価値観が自分とまるで違う人が多かった。
私は音楽が好きでバンドをやりたがったが、サークル内には「バンドをやってる私が好き」みたいな人が居たからです。
私は別に演奏が下手でも構わない、ちゃんと練習して皆仲良く楽しく演奏できればそれで良かったんですが、その考え方自体合わない人が居ました。要するに、「自分が目立ちたい」という願望を持ってる人が多々居たということです。
そんなサークルに所属して私が2回生に進級した時、顧問から
顧「部長をどうしても立てないといけない。川原さん、やりなさい」
と半ば命令で部長にさせられたのです。当然、私にはサークルの部員が部員だけに荷が重すぎると思い「何故私が!?」と最初拒否しました。すると
顧「よく考えてみ?あの中で他に部長やれそうな人、居ると思う?真剣に音楽やってるって考えたら、もう川原さんしかおらんやろ」
とことごとく私の反抗を論破され、部長をせざるを得なくなったのです。別に私が特別演奏が上手いワケでもないというよりどちらかといえばベースはド下手くそで、サークル内でも人望が熱かったワケでもない。顧問からしてみれば、川原を部長に指名したのは消去法の選択だったのです。
なので私は、サークルを維持させるためにやむなく部長を引き受けました。
それ以後、苦労の連続でした。だらしない部員が多く、部室の練習時間を守らない、高価である機材を大事に扱わない、何より真面目に楽器や歌の練習をしない。部長として、とても腹ただしい日々が続きました。
部長になった当初は笑顔で我慢をしていましたが、とうとう限界が来て、私はサークル内で良い子ちゃん振るのを辞めました。
「ちゃんと練習しろ」
「機材は高価だから大事に扱え」
「交代時間を厳守しろ」
散々口うるさく、キツく当たり散らしました。当然、嫌われました。表立って嫌われたり嫌味を言われたりすることはなかったですが、部員の態度や表情が嫌悪を物語っていました。
そんなサークル内で唯一話が通じる、とても良心的で優しい子がいました。Hちゃん(仮称)という女の子が居ました。その子は吹奏楽部出身(担当はドラム)で、サークル内で演奏技術は抜群でした。自分が経験者で一番上手なのにも関わらず、威張ったり見下したりせず、むしろ終始笑顔で「大丈夫」「いいよ」が口癖の女の子でした。
タイミングの問題もあって、Hちゃんとバンドを組む機会がなかったのですが、同じ部員として音楽の話をタイミングが合えば話してました。
私は彼女のことを、いつも不憫に思っていました。何故ならバンドメンバーが自己中の塊みたいな連中で、サークル内で一番上手な彼女がいつもメンバーのワガママに合わせる、というのが日常茶飯事だったからです。
今思えば、部長としてそのバンドメンバーにHちゃんに対する態度について注意すれば良かった、と後悔しています。しかし当時の私は、サークルを維持することに必死で、他のバンドの揉め事を注意して余計なストレスを溜めたくない気持ちが勝ってしまっていたのです。
そんな日々が続き、2回生の学園祭のライブ(つまり学校生活最後のライブ)が近づいて来た頃の話です。
偶然、部室でHちゃんと二人きりになった時がありました。私達は「もうちょっとで最後のライブやね」みたいな他愛のない話をしていました。そんな時、彼女がボソッと本音を吐露し出したのです。
H「私、本当は川原ちゃんとバンド組みたかった」
私「えっ!?」
私はその言葉に衝撃を受けました。面くらいました。
私「私はベース下手くそだし、Hちゃんみたいな上手い子と(バンド)組むのは釣り合わないよ……それに私性格悪いし、皆に嫌われてるし……」
という私の発言に対し、Hちゃんはこう続けた。
H「いや、技術がどうとかじゃなくてさ……人間的な意味でよ。実際、川原ちゃんはベースだって短大でベース始めた割には上手いと思うし、いつも努力してるやん。私は川原ちゃんが性格悪いなんて思ったことないよ。いつも真剣に練習してる、そっちのバンド(私が組んでいるバンド)が本当はすごく羨ましかった」
私はその本音を聞いて、初めて部長をやっていて良かったと思いました。それと同時に、部長として彼女のことをもっと気にかけて、Hちゃんのバンドメンバーに注意をしなかった自分を情けなく感じました。
そして、陰ながら私の部長としての努力や苦労を理解してくれていたことに、Hちゃんには感謝の気持ちでいっぱいです。
人は時に、非情だと思われても、嫌われる覚悟で意見しなければならない時がある。人の上に立つ立場の人間は、特にそうだと思ってます。
上に立つ人間は、時には相手や周囲のために、嫌われたり憎まれても他人に意見できる覚悟を持たなければならない。それがたまたま私は「サークルの部長」という立場だったが、これは本当に社会共通の理念だと私は実感しています。
あなたのサポートがメンヘラニートの活力となります(๑>◡<๑)