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地球に遊びに行くよ!【ゼロとシャウラのものがたり】

自殺者たちがやってくる星群、レティクル座の王子ゼロと側近シャウラのよもやま話。

皆さん、初めまして。
ぼくはレティクル座の王子のゼロ。どうぞよろしくね。
地球にはお忍びでよく遊びに行くよ。美しい惑星だと思う。
ペッパーハムとクリームチーズのベーグルとさくらんぼ、
パスタとお酒、キャラメルマキアートとキャラメルフラペチーノが大好物。
星屑を加工したミルク味のドロップスを一日中口に含んでいるんだ。
趣味は大縄跳び。読書。側近のシャウラといたずらすること。白墨で落書き、なぞなぞ。
とにかくシャウラと遊んでることが多いな。
地球へも二人でいくし。
この前、シャウラと地球でカルピスっていうジュースを飲んだ。
びっくりするほどおいしかったので大人買いしてしまった。地球は物価が安いな。五本も買っちゃった。
そうそう、遊んでばかりだと思われると不本意だから仕事のお話をするね。
主にきらめきの杖で自殺者の頭をぽんぽん叩いて罪の重さを量ったりするんだけど果てしなく退屈だ。
一日千人がノルマ。
ああ、終業時間までは真面目にやらなきゃいけない。面倒だ。
まあこんな感じ。あらためて、どうぞよろしく!

🌟

自殺者たちの頭をぽんぽん、星の杖で叩いていたら、シャウラが綺麗な、ぼくのお気に入りの切子硝子につめたい紅茶を淹れて持ってきてくれた。
「執務、お疲れ様です。王子、頑張っていてえらい!今日はニルギリをお持ちました。それから、ちょっとにやにやしてしまう吉報がありますよ」
「シャウラもお疲れ様。吉報ってなあに?紅茶、ありがとう。香り高いね、いただきます」
「どうぞどうぞ。実は、星間飛行のできる方舟を用意出来ました。いつも王子の力を借りてばかりでしたから」
「わあ、ほんとう?どんないろ?おおきい?」
ぼくはまえのめりになって、にこにこした。右手に持った罪をはかるきらめきの星の杖をてばなして、もう執務のことなんてどうでも良くなった。ニルギリを一息で飲み干す。
「王子の好きな黒いかっこいい方舟ですよ。塗装、並びにプログラミングを頑張ったのはわたくしです」
「わあい、シャウラ、だいすき!ありがとう!地球に行こうよ」
「では、お夕飯は地球で食べましょうか。それまで、執務頑張ってください」
「えー、もうやる気ないよ」
「そんなことをいわずに」
おでこをぐりぐりつっつかれた。
「がんばりたくない」
「うーん、千人、裁かれましたものね。ノルマは達成。まあいいか。また明日から頑張ることを約束してくださいね」
「うん、うん!方舟見に行こう」
元気よく執務机からおりる。
「こっちですよ、王子」
シャウラに手をひかれて、逆方向に行きかけたぼくをよいしょと抱える。
「シャウラはいつもこんな高い目線で世界を見ているんだなあ、すごい」
「王子もきっとおおきくなりますよ」
「方舟、ぼくが操縦桿とってもいい?」
「自動的に地球にたどり着くように、ルートもインプットしてありますので王子の手を煩わせることは無いかと」
「でも、操縦してみたいよ」
「それならば、これもわたくしがプログラムしたものですが、シミュレーターがありますので、それで練習してからにしましょう。それから、他の惑星や星に行きたくなったら、その都度行き先を変えられるようにしておきました。王子は些か危なっかしいので、練習、頑張りましょう。わたくしが手取り足取り腰取り指導します。ほらほら、そんなしゅんとしないで。今日はおやつもあります。クッキーとミルクレープを作ったので一緒に食べましょうか。方舟には冷蔵庫もあるんですよ。それを食べていたら、地球なんてすぐです」
方舟があるという地下への階段をシャウラに抱えられながらすすんでいたら、方舟が見えてきた。ラメがぎらぎらした、真っ黒なかっこいい方舟だ。ぼくはシャウラの腕の中でばたばた暴れた。
「すっごーい!!かっこよすぎる!」
「はいはい、おろしますね」
「これ、シャウラが塗装したって言ってた……なるほど、どこから見ても百点満点、最高にかっこいい!大変だったでしょ。ありがとう!」
「王子がよろこぶことならなんでもやりますよ」
「スーパー側近」
「それほどでも」
「早速乗ろうよ」
「はい、それでは」
シャウラが手にしていたリモコンが微かな電子音をたてた。方舟の入口がゆっくり開いていく。
「わー!こういうのもシャウラが手懸けたんでしょ?」
「そうですよ、すごいでしょう」
「さすがー!!うれしい!ありがとう!!」
「えっへん。その一言が聞きたくて、わたくしは頑張ってしまったのです。では王子、お先にどうぞ。足元に気をつけて」
「わあ、おもったよりずっとずっとひろい!!冷蔵庫あけてもいい?」
「わたくしがやりますからソファに座って」
「んー、わかった」
なんと、ミルクレープがホールで現れた。ぼくは拍手をしてシャウラを称えた。
「おいしそう!いっぱい食べる!」
「二人で食べちゃいましょう。ほかの側近たちには秘密ですよ。これはふたりだけのものです」
「クッキーも、とってもおいしそう」
「めちゃくちゃいいバターが手に入ったので、効かせてみました」
ミルクレープを、シルバーをひらめかせて見事に切り分けてくれた。星の形のクッキーとすみれの砂糖菓子をあしらっている。
「とってもかわいい」
「王子のぶんです。どうぞ召し上がれ」
じっと動かずにシャウラの手先に注視する。
「……どうしました?王子」
「一緒にいただきますがしたくて、待ってるの」
シャウラがおでこをくっつけてくる。
「本当に、王子は優しい。わたくしはただの側近に過ぎないのですよ」
「シャウラは特別だもん」
「わたくしを特別だと言ってくださる王子には何でもしたくなっちゃいますね、さて、発進させましょうか」
ホログラムがうきあがる。ゲームのコントローラーのような装置に「Earth……Blue water planet」とよびかけている。
「さあ、おやつを食べましょう。いただきます」
「いただきます!……うん!とっても美味しいよ!バニラシードがこんなにたくさん。いいかおり!」
「我ながらなかなかの出来です」
「もっとシャウラは偉そうでもいいのに」
「わたくしは、王子のことを誰よりも知った上で、この立場にいられる。そのことを、心の底から幸せに思ってるんですよ」
「たしかに、側近というより友達扱いというか、僕はそんな感じに思ってる」
「光栄です。素敵な関係ですね、王子、これからもよろしくおねがいします。末永くおそばに置いて下さい」
「もちろん、こちらから頼む立場だよ。よろしくね、大好きだよ、シャウラ」
「わたくしもです」
甘えて寄りかかると、髪の毛をくしゃくしゃにされた。
「あらら、おやおや失礼、あまりの愛らしさにやりすぎてしまいました。小鳥の巣のようです。御髪を整えますね」
足元ちかくに置いてあった箱を、足でずりずり、引き摺って近くに寄せて、その中から櫛を取り出し、やさしく髪をといていく。シャウラのこういうちょっと雑なところが好きなんだよなあと思っていたら一瞬で元通りになった。
「うん!最高に可愛い!完璧です。手鏡を持ってください」
「……シャウラはなんでも出来てずるい」
「わたくしには自殺者をさばくきらめきの杖は扱えませんよ。空間制御だってからっきしです。人によって、得意なことと、苦手なことがありますよね 。だから拗ねないことです。現に、わたくしからみて王子はたくさんすてきなものをもっていますよ」
「そうかなあ」
「自覚がないところがまたいいんですよね」
「じゃあ何か一つ、ぼくのいいところをおしえて」
「うーん、素直なところ」
「それっていいところなの?」
「良くも悪くも、なのですが……なくしてほしくないですね」
「シャウラのはなしは、時々すごく難しい」
「あはは、まあ今日は方舟でのはじめての遠足なので、楽しい話をしましょうか」
ぼくは行儀よくソファにすわった。
「うん!ぼく、パスタが食べたい。パンチェッタがごろごろ入った、カルボナーラがいいな」
「わたくしはミートボールが乗っかってるナポリタンの気分です」
シャウラのお菓子はとても美味しい。夢中になってなっていると、あっというまにSINJUKUという町にたどり着いた。
「王子、目立たないところに着陸しましたが、ステルスの魔法をかけてくださいませんか」
「はーい!ちちんぷいぷい」
ぼくが方舟に手をかざすと、あっという間に見えなくなった。
「パスタ、食べに行こう。ぼくは事前情報を手に入れていたんだ。デザートのパルフェがたのしみすぎて、昨晩はあまり眠れなかったんだよね」
「いつの間に。そんなにですか?!」
ポケットからフライヤーを取りだして広げてみせる。
「うん!亡者が捌いてくれたお礼にって、くれた。いちごのパルフェだよ。美味しいにきまってる」
かくしてぼくたちは店頭に辿りついた。
「じゃあわたくしはこちらの看板が出てるアールグレイのシフォンケーキを頼みますので、シェアしましょう。絶対美味しいやつですよ、このシフォンケーキ」
「シャウラのお菓子に適うかなあ」
「ここはちゃんとしたお店ですもの、到底敵いません」
「素直に褒められてよ」
するとシャウラが両手で顔をおおった。次の瞬間、ぱっと華やかな芍薬の花のように笑って見せた。シャウラはいないいないばあがうまい。彼なりの照れ隠しだ。
「あはは!」
「さあ、行きましょう」
ドアを開けてくれる。そんなことしなくていいのにとまゆを顰めるとシャウラが笑う。
「つい、いつもの癖が。まあ気にせず入ってください」
「ようこそご帰還下さいました!」
店員さんたちの元気な声があがる。変な店だなと思った。宇宙士官候補生みたいな格好をして、斜めがけの【Moon gate】と書いてあるサコッシュを身につけている。
「……王子、お店選びを失敗したんじゃないですか?」
「そんなことないもん、さあ、座って」
通された席の椅子を引いて、シャウラに座るよう促す。
「ふふ、ありがとうございます。遠慮なく座らせてもらいますね、他の側近たちにやっちゃだめですよ。上へ下への大騒ぎになってしまいます」
「あ、そういえば通達届いてなかった?これからさき、ぼく専属の側近になるんだよ、きみ」
「ええっ?!本当ですか?!」
椅子から落ちそうになっているシャウラを支える。
「うん。すごくうれしそうだね」
「それは嬉しいですよ!!王子はうれしくないんですか?わたくしでは不服ですか?」
「そんなわけないじゃないじゃないか!昨日知って部屋中跳ね回ったし、めちゃめちゃよろこんだよ。ここはお店だから、後でお話しようね」
「わあぁああうれしい」
「何飲む?はい、こちらメニュー表」
「はい!ありがとうございます、お祝いに、シャンパンでものみます?」
「うん!」
店員さん……というか宇宙士官候補生の扮装をした方に少し上等なシャンパンと、パスタを頼んだ。おつまみは、えびのアヒージョとエスカルゴをとりあえずおねがいした。
暫く、今日はカルピスを六本買って帰るよなどと雑談をしていたらすぐに店員さんがやってきた。
「お待たせ致しました、」
そう言ってシャンパンを開けてくださる。ぽん!と小気味よい音が鳴った。最初の一杯は、おとなしく注いでもらう。桜の花のような可愛らしい色だ。軽く頭を下げて、ありがとうございます、いただきますと店員さんにつげた。
「これは、お祝いと絆のお酒。これからも、末永く宜しくお願いします」
「王子……立派になられましたね……ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願い致します」
かちん、とシャンパングラスを重ねた。一口飲んでみる。
「なにこれ、おいしすぎる」
「ドンペリのロゼですからね……美味しくなかったら困ります」
「えびのアヒージョもたべなよ、もうぷりぷり、身が」
「たしかに。これは逸品ですね。ブラウンマッシュルームも美味しいですよ、半分こしましょう」
肝心要のパスタは本当に美味しくて、ぼくはおかわりをした挙句パルフェとシフォンケーキも食べた。
「くるしい」
「王子、食べ過ぎです」
「だって、パスタ大好きなんだもん。カルボナーラも、きみとシェアしたボロネーゼも美味しかったし……ドンペリ、だっけ、このお酒も美味しい。ねえねえ、お城に帰ったら、白墨でお絵かきしてあそぼ!いいよね」
「いいですよ。たのしいですよね、お絵かき」
「おだいを出し合って描こうよ」
「それは楽しそうです」
「しかし、シャウラ呑むなあ。グラスを」
「恐れ入ります」
「どんどん呑んで」
ぼくたちはべろべろになるまで飲み食べ、そろそろレティクル座に帰ろうということになった。ごちそうさまでしたと店員さんに挨拶をしてお店を後にした。シャウラがあらかじめ取り寄せてくれていたカルピスを三本ずつ抱えて、ステルスの魔法を解いて方舟に乗る。
「今度はぼくのお休みの時にゆっくり遊びに来よう」
「はい!それでは発進」
「ほら、お店選び、ちっとも間違えていないじゃないか。美味しかったでしょ」
「はい!意地悪を言ってごめんなさい。次も王子にお店をチョイスしてもらいましょう!」
「ふっふっふっ、実はもう決めてあるんだ。コンセプトカフェなんだけど、これ以上は秘密」
ぼくはなんだか眠くなってきてしまった。ソファにねこころぶと、最愛の側近がやってきて、そっとブランケットをかけてくれた。レティクル座についてシャウラに抱き起こされるまで、ぐっすり眠りこんでしまったのだった。

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