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「新しく推しになるかもしれない人に会いに行く」を小説風に書いてみる


友人に見送られて改札に入る。地下鉄に乗ったら二駅先で乗り換えてJRで渋谷まで。そこからすでに私は気後れしていて、行きたくないとすら思っていた。地下鉄のホームへの階段を下りながら、どうにも数年前から渋谷が苦手になっている気がすると考えていた。階段を一段下りる度自分の履いているヒールがコツコツと鳴って、急な気温の上昇に有り合わせで出した服と不釣り合いだなと思った。
渋谷に行く理由が減って、なんとなく疎遠になる。人間関係と一緒だ。それでも去年は渋谷で舞台があったので一定期間だけは通い詰めていた。ホームにつくと電車はすぐに滑り込んできて、適当な車両に乗り込む。渋谷でまともな店を選べる自信がないので、乗換駅で何かを食べよう。もしまだ気が重かったらアルコールも。どうせアルコールを飲むだろうと思ったので先に理由を付けた。

結局、生ビールと国産レモン生搾りサワーを体に入れて渋谷駅のホームに立っていた。『一人飲みセット』なるものにアルコールが二杯付いてきたので、ほとんど不可抗力だ。生ビールと国産レモン生搾りサワーの値段が一番高かった。わたしはそういう女だ。しかし、生搾りサワーはレモンがしっかり絞れていなかったのか、ほとんどキンミヤサワーだった。きっと一番安い酎ハイと同じ味だっただろう。
渋谷駅のホームに降り立っただけで疲弊して、目に付いた階段を下りてしまった。本来ならばハチ公口が正解だが、トイレが空いていたのでトイレに寄って適当な改札を出た。トイレで目を合わせた私は、ファンデーションがよれてまつげが下がっていた。直す気力はなかった。出た改札が西口だったのか北口だったのかはわからない。とにかく、スクランブル交差点へは遠回りだった。スクランブル交差点はKing&Princeの看板の写真を撮る女の子と、外国人と、チラシを配る地下アイドルたちでごった返していた。ある推しの小説にはこの場所が出てくるし、ある推しは初めてスクランブル交差点の人通りを見たとき、すべてがエキストラだと思ったと言っていた。「推しをさらに増やす?本当に?それは果たして正解なのか?」自問自答しながら外国人のカメラの前を頭を下げて通りすぎた。横断歩道を渡って坂を上る。すっかり汗をかいていて、自分が不快なにおいを発していないか心配になった。暗い色の服が渋谷のアスファルトに溶けて、私が誰にも見えませんようにと祈った。
Google Mapを確認する。何度か建物の前を通っているので、場所はわかっているつもりでいた。それでも、たくさんの人と外国人の大声に自分が進む道を見失う。やはり遠回りをしてホールについた。様々なイベントを行うホールなので、過去に訪れたことがある。気がした。気がするだけでなかったのかもしれない。その証拠に何度も入口を確認し、恐る恐る階段を下りた。
入場が進んでいないのか開演五分前にして長い列になっていた。慣れない会場で最後尾も見つからず、ようやく聞こえたスタッフの「最後尾こちらです」に促され列に並ぶ。開演前に入場できたのに、ドリンクの受け取りに手間取って冒頭二分を見逃した。推しになるかもしれない人は三組目だ。焦らなくていい。そう思っても気持ちは焦るのか、暗闇で段差に足を取られ転びかけた。

いわゆる見切れ席でほとんど顔が見えない。こういうことがあるのかと勉強になった。見えたうなじが白く綺麗で、男の人が「うなじが好き」という気持ちが少しわかった気がした。MCコーナーでは立ち位置が替わりようやく顔が見える。誰よりよく動いて誰よりよく笑って、贔屓目を差し引いても一番活躍していた。その猫背すら愛しく思った。推すか。一人が可愛くて現場に足を運んだが、しっかり全員可愛かった。これは箱推しか。とりあえず、半分くらいは在宅オタクでいようと守れるかわからない誓いを立てた。


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まだnoteでは新たな推しを公表するつもりはないので、一部表現を濁しています。(なぜ)
う〜〜〜〜〜ん、可愛かったです。負けです。
でも、在宅の予定です。本当に。本当に。


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#ほろ酔い文学 #小説 #推し #渋谷

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うめさわ(にごらない)
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