【映画感想文】いずれみんな「老ナルキソス」となる
映画館にチラシがあって、観ようかなと思っているうちに上映が終わってしまうことはよくある。
ネットで情報を得るよりも、チラシを見かけるほうが気になるものなんだけど、時間が経つと忘れてしまうことがしばしば。
『老ナルキソス』もそういうふうにして忘れてしまった。やっぱりタイミングって難しい。上映中にSNSで見かけたりすると、じゃ、いくかってなるんだけど。
あと配信あるかな〜なんて待ってみたりもして、そうするとどんどん記憶が奥の方へ追いやられていきますよね。
U-NEXTで配信を見つけ、有料か〜、でもポイント溜まってるし、観てみるか、と気軽な気持ちで観始めたら、これはかなりのものだった。
(ちなみにアマプラでもありました)
喜寿(77歳)を迎えようとしている童話作家の山崎は、美しい売り専ボーイのレオを買う。そして、SMプレイを求めるのだが、叩かれたとき、意識を失う。
こういうエピソードは聞いたことがあって、というか、とある売り専の子曰く「プレイ中におじいちゃんが死んじゃって大騒ぎになった」ことがあるという。まあ、「働いている店でそんなことがあった」とのことなので、実体験ではないらしいけど。
ご家族もびっくりだよなあ。
そんなこんなで山崎とレオはつながりができるわけだけど、この山崎、自分の若さと才能が枯れていったことで非常にナーバスな状態。しかも、。若い頃、醜いおっさんに打たれることで快感を得てきたというのに、自分がもう美しくないのが納得いかないわけです。そしてガンにより男性機能が失われる。
レオの方も、ウリをやりつつ同棲中の彼氏とパートナーシップ制度で婚姻しないかと持ちかけられているものの、なんとなく話を先送りしていたのだけど、ついに家族に紹介され、彼氏のほうもけっこう先走り気味で里親制度のパンフをもらってきたり。
そんなときに、山崎はレオと養子縁組をしようと考え、二人は山崎の元カレの住むところへ旅に出かける。
いや、かなりゲイものの映画を観てきたんですが、「老いと後悔」「若さと不安」が交差するこの作品(山崎は厳格な父親を憎み、レオは幼い頃父を亡くし父の愛情を知らないという対比も素晴らしい)。どっちにも、そうだよな〜と感情移入できるという。
ぼくが若くもなく、老けつつあるからかもしれないけれど。
ネタバレをしてしまうと、山崎はさまざまな思惑に敗れ、破壊衝動に駆られるのだが、そのとき彼を救済したのが、若く美しかった自分、てところが憎らしい。自分しか愛せなかった人が、かつての自分に救われる。これって安直だろうか? 真実な気がする。かつての恋人に縛られたときに幻視する、男たちが愛し合う場面。歳をとった人々は、かならず美しい時代がかつてあったのだ。
レオはまた、恋人と家族になることを選ぶ。
山崎は新作を書き上げる。
誰もが、もしその人がたった一人であっても、何も残すことなく、消滅することはない。