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多くのマーケターが誤解しがちな主要施策の「できること」と「できないこと」のまとめ

(2023年12月11日 追記)
この記事が読まれすぎてついに本になりました! 2024年1月17日出版です。

(追記ここまで)

マーケティングの現場にてたびたび発生する「期待していたほど効果でないじゃん!」という不幸は、いったい何が原因で起こってしまうのでしょう。

その不幸の大半は、「診断と処方の間違い」によるものです。

図にするとこうなります。

マーケティングは医療と同じです。病気(売れない理由)を特定し、その病気の治療に最も適した薬を飲む。ただこれだけ。たったこれだけ。しかしこれが実に難しい。

自身の身体のどこが悪いのか、診断もそっちのけですっ飛ばし、流行りの薬を飲み「ぜんぜん効かない!」と落胆する。もしくは、ちゃんと診断して、せっかく病巣は正確に特定できたのに、飲む薬を間違えて「治らない…」と絶望する。

なんとかこの不幸をなくしたい。それが本noteの趣旨です。

マーケティングの目的は売ること(買っていただくこと)

本noteは、主に「マーケティングコミュニケーション」をテーマとして書きますが、その前に改めて(マーケティングコミュニケーションの上位概念である)マーケティングについて整理しておきます。

マーケティングの目的には実に様々なものがありますが、マーケター1年生にもわかりやすく伝えるならば「売ること」またはお客様に「買っていただくこと」と言えます。

しかし、マーケティングとセールスは違います。

よく、「マーケティングの究極の目的はセールスをなくすことだ」などと言われますが、今日びセールスなくして売れる商品などほとんどありませんから、マーケティングの役割は「できる限りセールスしなくても売れるようにすること」または「できる限りセールスせずとも、お客様が買ってくださる状態をつくること」と表現することができます。

自社がビジネスをする外部環境を分析することも、マーケティングをする上で利活用できる自社の経営資源を分析することも、市場で戦う競合を分析把握することも、顧客が何を求めているのか、何が満たされていないのかをリサーチすることもマーケティングです。

その上で、売れる商品を開発することや、現在の商品を改善することもマーケティングですし、一般消費財ならばできる限り多くのお店に商品を並べてもらう販売経路づくり(チャネル政策)もマーケティングです。

そして、様々な環境・資源分析や、売れる商品開発・改善、チャネル政策とともに大切なのが、「顧客に価値を伝える仕事」、つまりマーケティングコミュニケーションです。

マーケティングコミュニケーションは、主に広告、PR、販売促進の3つから成ります。僕は、AD / PR / SP(Sales Promotion)を「マーコム3点セット」と言っています。

マーケティングコミュニケーションの施策あれこれ

さてこのマーケティングコミュニケーション。実行する「打ち手」には実に様々な施策があります。

伝統的なファネルにマッピングすると、こんな感じで整理できます。

マーケティングコミュニケーションの目的

マーケティングの目的が「できる限りセールスをしなくてもお客様が買ってくださる状態をつくること」であるならば、マーケティングコミュニケーションの目的は何でしょうか。

「伝えること」

そうです。でも、「伝えること」は手段であって目的ではありません。「伝えること」によって顧客にどうなって欲しいのか? それが目的です。

僕は、マーケティングコミュニケーションの目的は、消費者や顧客の意識・認識・態度を変えることによって行動を変えること(買っていただくこと、買い続けていただくこと)と定義しています。

自社の商品を知らない人に知ってもらうこと(認知獲得)、知っているけれど興味が無い人に興味や関心を持ってもらうこと(興味喚起)、興味はあるけれど競合の商品と何が違うのかよくわからない人に自社商品の特徴を理解してもらうこと(理解促進)などが、意識を変えること=意識変容です。

「なんで買わないんですか?」という質問に「あまり好きじゃないからです」と答える人に好きになってもらう(好意度の向上)。知ってるし、興味もあるし、理解もしているけど、買いたいと思っていない人に「買いたい」と思ってもらうこと(購入意向の向上)などが態度変容と言えます。

これら意識・認識(後述します)・態度を変えることによって行動を変えること(買っていただくこと、買い続けていただくこと)がマーケティングコミュニケーションの目的です。

リピート購入(意向)をコミュニケーションだけで向上させることは不可能

しかし、ここで一点、注意が必要です。

さきほど、マーケティングコミュニケーションの目的は、消費者や顧客の意識・認識・態度を変えることによって行動を変えること(買っていただくこと、買い続けていただくこと)と定義しましたが、果たして意識・認識・態度を変えるマーケティングコミュニケーション(だけ)の力で「買っていただくこと」「買い続けていただくこと」を促進することは実現可能なのでしょうか。

売上には「トライアル購入」と「リピート購入」の2種類があります。トライアル購入は顧客にとって1回目の購入で、リピート購入は文字通り2回目以降の購入を指します。よって、すべての売上はトライアル売上か、リピート売上かに必ず分類することができます。

ここで、いつも解説しているC/Pバランス理論(梅澤伸嘉著『消費者ニーズをヒット商品に仕上げる法』(ダイヤモンド社)をおさらいしておきましょう。

ここでいうCは「Concept」で、買う前にその商品を買いたいと思わせる力のこと。Pは「Performance」で、その商品を買ったことに対する満足度を指します。

マーケティングコミュニケーションは、AD / PR / SPの3点セットによって商品の存在や魅力(=Concept)を伝えます。それによって「買う前に買いたいと思わせる力(=Concept力)」を高め、トライアル購入を促すことはできるでしょう。

しかし、肝心の商品力(=Performance力)が低い場合、購入した顧客の満足度は低く、リピート購入意向は低くなります。商品パフォーマンスが低い=顧客不満足=リピート購入意向が低い状態を、「伝えること」が仕事のマーケティングコミュニケーションの力(だけ)で改善・向上させることは不可能です。

このことから、マーケティングコミュニケーションの目的をより正確に再定義すると、消費者や顧客の意識・認識・態度を変えることによって行動を変えること(買っていただくこと)となります(「買い続けていただくこと」を除外)。

「広告効果」は「マーケティング効果」の一部でしかない

さらにもうひとつ注意が必要です(くどくてすみませんが大事なことなのです)。

下記のベクトル図は、米国統計協会で活動し、市場調査委員会から「市場調査の実践に対して顕著で持続的な価値のある貢献をした」として栄誉殿堂賞を受賞したソロモン・ダトカ博士の著書『新版 目標による広告管理 - DAGMAR(ダグマー)の新展開』に記載されているものです。

(最高すぎる名著なんですが絶版による希少性によってAmazonではとんでもない高値になってしまっています…)

ダトカ博士は、著書の中で下記のように述べています。

消費者向け商品・サービスの広告およびマーケティングの最終目的は、購入を引き起こすことである。とされて以来、広告とマーケティング目的との区別が不明瞭なままにされてきた。マーケティングのほんの一部分である広告は、「ブランド選考」のような心理学的な効果を生み出すことにかかわっている。一方、マーケティングは、商品(あるいはサービス)がつくられ、集められて、消費者あるいはユーザーに届けられるまでのすべての機能 ―広告を含めて― をカバーしている。

ソロモン・ダトカ著『新版 目標による広告管理 - DAGMAR(ダグマー)の新展開』

ほんこれなんです。

先ほど、マーケティングコミュニケーションの目的は、消費者や顧客の意識・認識・態度を変えることによって行動を変えること(買っていただくこと)と再定義したばかりですが、消費者や顧客の意識や認識や態度が変わり、その商品を「買いたい」と思いお店に行ったとしても、お店に商品が置いていなければ(配荷されていなければ)購入することはできません。

この場合、売上が上がらなかった要因はマーケティングコミュニケーションではなく、チャネル政策に責任があります。

となると、より正確にマーケティングコミュニケーションを定義するならば、「消費者や顧客の意識・認識・態度を変えることによって購入意向を高めること」となるかもしれません(「買っていただくこと」ではなく「購入意向を高めること」に変更)。

なぜこんなに言葉の定義をギャーギャー言っているのか

「言葉の定義とかいいから、早く本題に入れよ!」という読者の声が聞こえてきそうです。

なぜ僕がマーケティングコミュニケーションの定義にここまで筆を割いているかというと、これこそが「施策の成功と失敗」の「解釈」を分ける「肝中の肝」だからです。

ある企業が「商品のリピート購入」を最大化するための広告キャンペーンを企てる場合、施策の成功・失敗は「リピート売上が上がったかどうか」で測られることがほとんどでしょう。

しかし、先に述べた通り、商品そのもののパフォーマンス力が低かったらリピート購入は起こりません。営業部隊が弱くストアカバレッジ(配荷率)が低かったら買いたくても買えません。

でも、結果としてリピート売上が上がらなければ、宣伝部やマーケティング部の施策が失敗だったとして糾弾される可能性があるのです。

だからこそ、マーケティングコミュニケーションには「何ができて」「何はできないのか」を正確に定義し、部署または部署間で正しく認識しない限り、自部署の努力だけではどうしようもない十字架を背負う(背負わされる)ことになり、至るところで不幸な行き違いが発生してしまうのです。

次から次へと出現するバズワード

話を本題に戻します。

ここまでくどくどと書いたこと以外にも、マーケティングコミュニケーションに従事する人たちの心を惑わせることがあります。

そうです、次から次へと出現するバズワードです。

マーケティング(Marketing)は、Market+ing という言葉が表す通り、持続可能な売上を上げるために環境変化にフィットさせ続ける全事業活動です。

環境が変わることが前提なため、マーケティングも変わり続ける宿命を持っていると言えます。

そして、2000年以降の20年で起こった環境変化は、以前とは比べ物にならないくらい早く、大きいものです。インターネットの普及、スマホの普及、クチコミサイトとSNSの普及、そして消費者の価値観の変化、枚挙に暇がありません。

これが、「○○はもう古い! 次は△△だ!」というバズワードが大量に出現する背景です。

バズワードは決して悪いことばかりじゃないのですが、その説明をると長くなるので割愛します。ここで言いたいのは、「バズワード=流行りの施策=流行りの薬」に(脊椎反射的に)飛びつくのは危ないよ、ということです。

マーケターの仕事はお医者さんと同じ

冒頭で述べた通り、マーケティングコミュニケーションの成功(限られた資源で最大の成果を出すこと)のためには、診断と処方の両方が正しく行われていることが大前提となります。

しかし、「バズワード=流行りの施策=流行りの薬」の通り、広告・PR・マーケティング業界では、日常的に「薬が流行る」のです。

「すごい薬が出たよ!」という具合です。

あなたが「体調が悪いな…」と病院に行ったとき、先生(お医者さん)が診断することなく「いやあ〜! 先月すごい新薬が発売されましてね! みんな飲んでるし、ひとまずあなたもこれ飲んでみてくださいよ! すごい効きますよ!」と言われたらどう感じるでしょう。

「おいおい、診断する前に薬を処方するなよ」って思いますよね?

でも、業界で起こっていることってまさにこういうことなんです。

企業、商品・サービス、ブランド、競合環境や市場ポジション、使える資源(予算など)、市場環境やタイミングによって、マーケティングの課題は千差万別です(人によって病気は様々)。

にもかかわらず、「バズらせましょう!」「エンゲージメントが重要です!」「これからは動画マーケティングです!」という「薬売り」が大量に出てきて「新薬」を販売する。

しかも、その「新薬」はあたかも「万能薬」のように、「この薬飲んどけばどんな人でも絶好調だよ!」と、あらゆる病気にも効くかのように喧伝されます。

多くの患者(企業や商品やブランド)がその「万能な新薬」を飲み、「う〜ん? 効いているのかな?」なんてことをやっているのです。

いい加減、もうやめませんか……。

この世に、どんな病気にも効く万能薬など無いように、マーケティングの世界にも魔法の杖や万能薬はありません。

流行りの薬=「新薬」は、「いままではやりたかったけどやれなかったこと」が「できるようになった」ものであることが多いため、確かに「特定の病気」には効きます。

でも、頭痛薬が頭痛にしか効かないように、胃腸薬が胃痛や下痢にしか効かないように、正しい診断と処方があって初めて「その新薬」は効くのです。当たり前の話なんですが、診断あっての薬なんです。

マーケティングコミュニケーションの施策あれこれ(再)

ということで、改めてマーケティングコミュニケーションマップを見てみましょう。

それぞれの箱(施策)は薬です。そして箱が置いてある場所と幅が「薬が効く範囲」を示しています。

ちなみに、「売り手発想でつくられるマーケティングファネルなんて古いよ!」「いまは顧客の行動や思考・感情を含めたカスタマーエクスペリエンスに注目したカスタマージャーニーマップでしょ!」という意見もあると思います。

ごもっともです。

しかし、そのカスタマージャーニーマップを正しく作成するためには、「顧客がそのときどんな感情を持っているのか?」または「どんな感情を持ってもらいたいのか?」を整理・規定した上で、最適な施策(薬)をマッピングする作業が必要です。

また、カスタマージャーニーマップにも、多くの場合、最上段に「フェーズ」「ステップ」「ステージ」などいう言葉でファネルと似たような購買プロセスが明記されていることがほとんどです。

にもかかわらず、誠に僭越ながら、どの施策(薬)が「何(どこ)に効き」「何(どこ)には効かないのか」を正確に把握している方は驚くほど少ない、というのが僕の率直な所感です。だから、ファネルもカスタマージャーニーマップも施策(薬)が「きちんとした場所」に配置されないのです。

つまり、頭痛に胃薬、胃痛に頭痛薬が処方されており、施策を実行する前から「失敗することが決まっている」ものが驚くほど多いのです。

デジタル化の波によって施策の種類が急増したことも要因のひとつなのかもしれません。

ひとむかし前のマーケティングコミュニケーション施策

ネットが普及する前のマーケティングコミュニケーションマップです。白がリアル(アナログ)施策、緑がリアルとデジタルの両方で実行できるものを示しています。

めちゃくちゃシンプルですよね!

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の4マスメディアと店頭マーケティングの2つが最重要施策であることが一目瞭然です。

人口も市場も拡大していましたから、新商品をたくさんつくって、新規顧客に買ってもらう戦略で売上を増やすことができた時代です。そのため、マーケティングの主戦場は左側、つまり「買ってもらうまでのマーケティング(プリマーケティング)」でした。

デジタル施策はなぜ生まれるのか

そして現在。

たった20年で、このピンク色のデジタルマーケティングコミュニケーション施策が追加されました。短期間でこれほど多くの「できること」が増えれば、現場が混乱するのも致し方ないのかもしれません。

ここから、特に誤解が多いデジタル施策の「できること」と「できないこと」について解説していきますが、すべてに共通することは、すべてのデジタル施策は「いままではやりたかったけどできなかったこと」が技術革新などによって「できるようになった」ものであることです。

文字数の都合上すべてには触れませんが、頭の中で「この施策は○○ができるようになった施策なんだな」と読み解いていくと理解が早い気がします。

ディスプレイ広告 / YouTube広告の「できること」と「できないこと」

まずは一番シンプルなところから。

ディスプレイ広告やYouTube広告は、いまや「マス広告の代替」としても利用されています。リーチの広さ、インプレッション単価の安さ、ターゲティング精度が高いことなどが強みですから、認知獲得が得意。一方、弱みは興味がない人にはスルーされてしまうことや、深いコミュニケーションがしにくいことによる理解促進の限界と言えます。

「ディスプレイ広告やYouTube広告はCRM(Customer Relationship Management)に効く!」と理解している人はいませんよね? 「この施策が何に効き、何には効かないのか」の正しい理解とは、そのくらいでOKです。

でも、そこをちゃんと理解しているからこそ、多くのディスプレイ広告のKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)は認知度であり、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)はImp数やCPM(Cost Per Mille:広告の1000回あたり表示単価)またはCTR(Click Through Rate:クリック率)やCPC(Cost Per Click:クリック単価)と、KGIとKPIを正しく設定できるわけです。

(無論、ディスプレイ広告とYouTube広告の強みと弱みはそれぞれ細かくは違いますが、それを書き始めるとキリがなく、本noteは「全体感をざっくりと把握すること」が目的なので、このくらいの粒度で行きます)

バズキャンペーンの「できること」と「できないこと」

次にバズキャンペーン。

まず最初に、バズキャンペーンのリーチはアンコントローラブルであることに注意が必要です。バズるかバズらないかはコンテンツ(ネタ)次第、ユーザー次第ですから当然ですね。

ですから、ここでは(成功した場合の)バズキャンペーンとしています。

企画・制作したコンテンツがうまくバズり、Twitterで1万RT、10万いいねが付いたとしましょう。

「やった! バズりました! ヤッホーイ!」と喜ぶのもつかの間、クライアントから「でも売上はピクリとも動きませんでした」と言われ、一同悲しみに暮れる。よくある光景です。

この不幸も、そもそも「バズ」によって得られる成果は何で、何は得られないのか、について事前にクライアントと代理店側でキチンとしたすり合わせができていないことに起因しています。

「昨日のアウディの動画すごかったな! あれCG? 本物? かっこよかったわー。今週末一台買っちゃおうかな!」なんてこと起こりますか? 起こりませんよね。バズっても数万〜数千万円するような高価格帯商材は売れません。

高価格帯商材におけるバズのKGIは、認知度、興味喚起度が精一杯で、一度や二度のバズで想起集合(Evoked Setに入ること)は求めすぎだと思います。KPIはImp数、RT数、いいね数、動画再生数などが一般的です。

一方、コンビニなどで数百円で買えるアイスやお菓子の場合、バズれば売上に直結することもあります。だからバズのKGIを売上にする場合もあるのでしょうが、個人的にはあまりお勧めできません。

理由は、バズるもバズらないもコンテンツ(ネタ)とユーザー次第、というハイパーリスキーな施策がバズマーケティングであり、バズるかどうかやってみなけりゃわからない(過去の成功事例も再現可能なものはほとんどないという)バズ施策のKGIを(最も難しい)売上に設定するなど、バズの魔術師か予算に余裕がある一部の企業にしかできないことだからです。

ということで、「バズらせて売上を爆増させたい!」は、予算が大量に余っていて「どうなってもいいからとにかくおもしろいことをやりたい!」場合を除き、やめておきましょう。

もっと詳しく知りたい方はこちらに書いてあるので時間があるときにぜひ。

インフルエンサーマーケティングの「できること」と「できないこと」

インフルエンサーマーケティングも誤解が多い施策です。

まず、フォロワー数が数十万人以上のトップインフルエンサーを起用する場合は、メディアの記事タイアップの代替と捉えるのが良いでしょう。記事タイアップの代替ですから、KGIは認知度と興味喚起度。純広よりも記事タイアップ寄りの施策ですから、認知度よりも「いかに興味喚起できたか」を測ったほうが良いと思います。KPIはImpやエンゲージメント数(率)です。

特定の領域に強いカテゴリーインフルエンサーは、フォロワー数が数万〜十数万くらいが一般的ですから、リーチが問われる認知度や興味喚起効果は限定的となります。その代わり、特定のテーマについてフォロワーの信頼を獲得するカテゴリーインフルエンサーは「説得力」や「信頼性」に強みを持ちます。そのため、KGIは認知や興味喚起ではなく、理解度や(購入・来店)意向とするのが良いでしょう。

最後は特定の商品やブランドの大ファンであるブランドインフルエンサー。フォロワー数は数百〜数千、多くても数万前半くらいですから、強みはリーチではありません(むしろ弱みです)。ブランドインフルエンサーの強みは兎にも角にも「ブランドに対する深い愛情」です。ですから、KGIは好意度や共感で測るべきです。

「最近は広告がスルーされちゃう時代だから、インフルエンサーマーケティングで商品の魅力を訴求したい!」といった「ざっくりとした依頼」がいかに危ないかおわかりいただけたでしょうか。

インフルエンサーマーケティングは「何ができて」「何ができないのか」。そして、それぞれのインフルエンサーの強みと弱みは何か。自社の課題は何か。であるならば、何をやり、何はやらないべきか。

とても当たり前の話なんですが、そこをすっ飛ばしてしまうことによる不幸が後を絶ちません。注意してください。

インフルエンサーマーケティングも下記に何本かnoteを書いています。もっと深く理解したい方は下記をどうぞ。

リスティング広告の「できること」と「できないこと」

2021年、インターネット広告費は、2兆7,052億円(前年比121.4%)に達し、マスコミ四媒体広告費の総計2兆4,538億円を初めて上回りました(参考:電通「日本の広告費2021」)。

2兆1,600億円ほどのインターネット広告「媒体費」のうち、37%(およそ8,000億円)を占めるのが検索連動型広告(リスティング広告)です。

なぜリスティング広告はこれほどまでに利用されるのでしょうか。当然、成果が得られるからです。では、どんな成果が得られるのでしょうか。

リスティング広告が「できるようにした」3つのこと

さきほど、デジタル施策は「いままではやりたかったけどできなかったこと」が技術革新などによって「できるようになった」ものと書きました。

では、リスティング広告が「できるようにしたこと」とは何でしょうか。僕の大好きな掃除機で考えてみましょう。

突然ですが、あなたは直近一ヶ月間で、掃除機のことをどのくらい考えましたか?

たぶん、0秒ですよね。なぜなら、あなたの家の掃除機は、いま調子が悪くないし、壊れていないからです。

たとえ、週に1回程度掃除機を使っていても、意識して使っているわけではありません。使っていることと関心を持っていることは違います。私たちは、掃除機を使いながら、別のことを考えています。だから、普通の人は、1ヶ月に1秒も掃除機のことは考えていないのです。

「いますぐ客」と「そのうち客」

掃除機はおもしろい商品で、家(部屋)を持つ(住む)すべての人がターゲットに入ります。「うちはそろそろもう掃除機は必要ないかな〜」なんて人はいません。生きとし生けるもの、部屋があれば必ず掃除機が必要です。

しかし、「いま」掃除機が壊れていないほとんどの人は、「いま」買い替えのニーズがあるわけではない。「いつか」壊れたら買い換える。でも、「いまじゃない」。だから、掃除機市場における消費者の大半は「そのうち客」なのです。

掃除機が壊れていないとき、私たちは掃除機のことを1秒も考えません。無関心です。しかし、調子が悪くなったとき、スイッチを入れても動かなくなったとき、一瞬にして「うわあああ! 掃除機が壊れたー! もう6年も使ったから寿命かな……。仕方ねえ、買い換えるかあ。ああ〜想定外の出費辛いー!」とニーズが顕在化します。

ニーズが顕在化した人が真っ先にすることは何でしょうか。

そうです、検索です。TwitterもFacebookなんて開きません。TikTokも見ません。多くの人がスマホでGoogleアプリを開いて検索(情報探索)を始めるのです。

そのとき、Googleは瞬時に「このブラウザさん」「掃除機に興味があるってよ!」と、「WHO:誰」と「WHAT:何」が特定できるのです。しかも、最も重要な「いま(WHEN:NOW!!)」という最高の情報付きで。

リスティング広告の凄さは、「いま」「この人(ブラウザ)」が「○○に興味がある」というWHEN+WHO+WHATの3つを同時にターゲティングできることにあります。

リスティング広告が無い時代に、掃除機メーカーが一番苦労したのは、「みんな掃除機のターゲットである」「でも多くの人は ”いま” 新しい掃除機を必要としているわけではない」「”いま” 掃除機を必要としている人は、お店に来る。だから店頭マーケティングは頑張ろう」「それ以外はマス広告で広くあまねく情報を届けるしかない」ということでした。

それがリスティング広告の出現によって一変したのです。

掃除機、自動車、住宅、金融・保険商材などは「タイミングのターゲティング」が命です。必要じゃないときに情報を届けてもスルーされてしまう。でも、必要としている人がどこにいるのか、皆目検討がつかない。だからマス広告でざっくりと伝えるしかない。

そりゃ、リスティング広告に予算が集中するのもうなずけます。

しかし、ここでもひとつ注意が必要です。

掃除機が壊れたとき、Googleの検索窓に「掃除機 おすすめ」と打ち込む人(カテゴリー検索をする人)は良いとしても、たとえば僕の場合は掃除機が壊れたらたぶんGoogleに「ダイソン」と打ち込みます。

カテゴリー検索ではなくブランド指名検索をするのです。

なぜ僕は「ダイソン」と打ち込んでしまうのでしょうか。その理由は、広告、PR、SNSのUGCなどによって形成されたZMOT(Zero Moment Of Truth)によって形成された想起集合(Evoked Set)が影響しています(詳しくは後述します)。

ここで重要なのは、リスティング広告は「ニーズが顕在化した見込み顧客が」「検索をしてくれたら」「広告を出せる」が、「検索してもらえなければ広告を出すことはできない」という当たり前の事実です。

つまり、リスティング広告の弱みは「検索そのもの」を生み出すことはできないことです。リスティング広告で高い成果を出すために、「検索してもらうこと」を「別の施策」で担保しなければならないのです。

リスティング広告の弊害

いいこと尽くしのリスティング広告ですが、弊害もあります。それは、広告主の多くが「いますぐ客」の「収穫」(業界では「刈り取る」という悪しき言葉もあります)に意識と予算を集中しすぎてしまうことです。

広告主は、今期中に自社の掃除機を買ってくれる人を探しています。来期じゃだめなのです。今期の売上を上げなければなりません。そのため、予算を投下して、すぐに成果が出る(出やすい)リスティング広告に予算を集中投下します。

競合も考えることは同じですから、0.1%単位で最適化を行いながら緻密な運用を行い、レッドオーシャンの中で殴り合う。

でも、企業の勝手な都合である今期(12ヶ月間の会計年度)中に掃除機が壊れ、買い替えを検討する人の数には限りがあります。「いますぐ客」の人数は限定的ですから、どこかのメーカーが獲れば、どこかが獲られるゼロサムゲームです。その闘いを来期も、再来期もずっと続けるのでしょうか。

顧客には「いますぐ客」(あなたの会社の会計年度内にニーズが顕在化する見込み客)と、「そのうち客」(ニーズはあるが、今期中にニーズが顕在化するわけではない顧客層)の2種類がいます。

どちらが重要で、どちらが重要ではない、という話ではありません。どちらも重要です。だからこそ、施策には時間軸のバランスが必要なのです。

「今日の売上」と「明日の売上」

「いますぐ客」に今期中に買っていただくための施策は左側。顕在顧客を効率的に収穫する費用的施策です。

一方、いつかニーズが顕在化する「その日」に向けて、「そのうち客」を育てる施策が右側。潜在顧客を効果的に育成する投資的施策です。

すべからく、効果測定指標は、左側が費用対効果。右側が投資対効果。左側はCost Per ○○に代表される「いくら使って、どのくらい売れたの?」が問われる施策。右側は「いくら投下して、どのくらいお客様は育ってるの?」が問われる施策。

左側は行動変容。右側は意識・態度変容や検討の選択肢(想起集合:Evoked Set)に入っているか、順位は高いか、などで測ると良いでしょう。

Webサイト(オウンドメディア)の「できること」と「できないこと」

まず前提として、スーパーやコンビニで販売されている一般消費財は、購入頻度が高く、価格が安いため、購入の失敗によるリスクが小さい特徴を持ちます。たとえ失敗したとしても、次に買わなければ良いだけなので、購入前に検索をして、入念にクチコミを探索することはありません。そのため、Webサイトの役割は小さいと言えます。

一方、家電や自動車、住宅や金融・保険商材などの場合、購入頻度が低く、価格が高いため、購入の失敗リスクが大きい特徴を持ちます。購入に失敗してしまうと、数年から数十年使い続けなければならず、後悔してもしきれません。そのため、購入前にたくさん検索をし、入念にクチコミをチェックします。

以上のことから、マーケティングコミュニケーションにおいてWebサイトの重要性が高いのは、関与度が高く、購入頻度が低く、価格が高い耐久消費財や専門商材となります。

Webサイトの役割は何なのか?

「上記ファネル図におけるWebサイト(オウンドメディア)の位置づけはどこからどこまでだと思いますか?」と質問すると、多くの人は「Webサイトは24時間365日働く優秀な営業マンです。いろいろな目的の来訪者が訪れ、様々な効果を発揮するため、一番左から一番右までのファネル全域をカバーしていると思います」という回答が返ってきます。

「では、Webサイトが果たしている価値をどのように効果測定し、検証していますか?」と聞くと、Google Analyticsで取得できるPVやUUはもちろん、1セッションあたりPV、セッションあたり滞在時間、再訪率など、だいたいのデータはしっかりとチェックしています」と答えます。

さらに意地悪な質問として「確かにPVやUUは少ないよりも多い方がいいかもしれませんが、多いと何か良いことがあるのですか?」と聞くと、「認知の向上や興味喚起にもつながっていると思います」と返ってきます。

本当でしょうか。

公式サイトへの訪問者はどこからやってくるのか?

公式サイトの訪問者はどこからやってくるのでしょうか。広告を出稿していれば広告経由の流入がありますが、広告を出稿していない場合は検索エンジン経由とメールやLINE経由が多いはずです。

メルマガやLINEに登録してくれているユーザーは既存顧客(購入経験者)やファンが多いはずで、新商品情報やキャンペーン情報のチェックが多いと推察されます。

では、流入元の多くを占める検索エンジン経由の訪問者はどうでしょうか。ブランド指名検索の場合、Googleに商品名を打ち込んでいるのですから、すでに商品のことは認知しています。

そして、忙しい日常生活の中でわざわざ検索をしてくれているのですから、興味も喚起されています。つまり、検索エンジン経由の訪問者は、何かの情報について「もっと知りたい」と思っているから、わざわざサイトにやってきているわけです。

とするならば、Webサイトの役割は「何かについてもっと知りたい」と考えている訪問者に対して、簡潔に情報を伝え、理解を促進することで、好意度や信頼度、ひいては購入意向を向上させることが目的であるはずです。

つまり、KGIは(サイト訪問前と後での)理解度、信頼度、好意度、購入意向の差分となります。このKGIが上がらない限り、いくらPVやUUなどのKPIが上がったとて意味がないのです。

一方、Webサイト(オウンドメディア)の弱みは何でしょうか。それは、「用があるときしか来てくれないこと」です。関与度が高い商材であれば検索エンジン経由で来てくれる可能性が高い。その代わり、用があるときしか来てもらえない。つまり接触頻度を高め、エンゲージメントとメンタルアベイラビリティを高めるAlways On(常時接続)型のコミュニケーションには向かないのです。

だから「用があるときは来てくれる。その代わり用がないときは来てくれないWebサイト(オウンドメディア)」と、その逆で、「用がない人しかいない。その代わり、自社に用がない人と日常的にうっすらと接点を持つことができるSNS公式アカウント」補完関係にあるということです(後述します)。

ちなみに、Webサイトの効果を高めるためのひとつのキーワードとして「オウンドメディアのソーシャル化」が挙げられます。興味がある方は下記noteのオウンドメディア箇所も合わせて確認してみてください。

UGC(クチコミ)の「できること」と「できないこと」

続いてUGC(User Generated Content)の「できること」と「できないこと」について。

とても重要なことなので、下記noteに詳しく書きましたが、ここでも簡単に触れておきます。

まず、Twitter、Facebook、Instagramなどのタイムラインに流れてくるタイムライン型UGCは何をもたらしてくれるのか。それは、図の通り、認知の向上や興味喚起です。

私たちはどんなときにSNSを使うのか。そうです。暇なときです。多くの人は暇をつぶすために、無目的でSNSアプリを開きます。別の言い方をすれば(Instagramのタグ検索を除き)SNSのタイムラインを見ている人は、特定商品に用がない人なのです(用がある人はとっとと検索エンジンに行きます)

タイムラインという場所は暇つぶしのために時間を過ごしている場所であり、そこで取得する情報は受動的かつ偶発的なものです。となると、タイムラインに流れているUGCのマーケティング効果は「欲しくさせること」「買ってもらうこと」は難しく、知ってもらうことや興味を持ってもらうことと考えたほうが良いでしょう。

また、ディズニーランドやUSJのように、来場者による「なう投稿」が多い商業施設は、フォロイー(フォローしている人)の投稿に触れることによる再想起が促され、休暇の日に遊びに行く場所の想起集合(Evoked Set)に入り続ける効果もあると言えます。

一方、食べログやAmazonレビューのようなレビュー型UGC(いわゆる「クチコミ」)のマーケティング効果はなんでしょう。そもそもレビューを見る人は、特定商品を買おうかどうか具体的検討に入っている人です。となると、すでに商品認知や興味喚起はされているわけで、役割は理解促進と比較検討(選択肢の絞り込み)と解釈できます。

このように、一言でUGCと言っても、タイムライン型とレビュー型で役割はまったく異なり、かつ商材特性(一般消費財か耐久消費財か)によっても異なります(一般消費財の場合、購入前にいちいちレビューを見る人は少ないため、レビュー型UGCのマーケティング効果は限定的となります)。

コンテンツマーケティングの「できること」と「できないこと」

次に数年前に注目を浴びたコンテンツマーケティング。

結論から言ってしまうと、コンテンツマーケティングの役割は、「そのうち客」の効果的育成であり、「いますぐ客」の効率的収穫ではありません。

なぜか。

「いますぐ客」はすでに具体的な情報探索行動をしているため、コンテンツマーケティングという手法を行わなくても、普通に検索エンジン経由でWebサイトにやってきてもらい、理解促進→購入意向向上をしてもらえれば良いからです。

米国コンテンツマーケティング協会によるコンテンツマーケティングの定義を見てみましょう。

コンテンツマーケティングとは、適切で価値ある一貫したコンテンツを作り、それを伝達することにフォーカスした、戦略的なマーケティングの考え方である。見込客として明確に定義された読者を引き寄せ、関係性を維持し、最終的には利益に結びつく行動を促すことを目的とする。

CONTENT MARKETING LAB

これらから、僕はコンテンツマーケティングは大きく分けて下記の2つがあると考えています。

「興味喚起」→「選択肢」に入るためのコンテンツマーケティング

Hondaキャンプというサイトがあります。

キャンプをテーマにしたHondaのコンテンツマーケティングサイトの役割は何でしょうか。「いますぐ客」の獲得? 違いますよね。すでにHondaの特定車種を検討している人は、とっとと車種別の特設ページに行くはずです。

となると、このサイトの役割は、まだHondaの特定車種の検討段階には至っていない、または車を買う(買い換える)かどうかも定まっていない「そのうち客」に対し、キャンプの素晴らしさを伝え、「キャンプいいな!」→「キャンプ行きたい!」→「キャンプに行くには車があると便利」→「キャンプに行く車としてHondaの○○は良さそう(想起集合入り)」と、徐々にファネルの左から右へ導くことと言えます。

にもかかわらず、多くのコンテンツマーケティングは、KGIをディーラー検索や試乗予約数(購入や購入直前に動く指標)に設定してしまうのです。

ちょっと待ちましょう。ディーラー検索や試乗予約は、「いますぐ客」(購入の最終検討者)が行う行動であり、コンテンツマーケティングを行わないと興味を持ってもらえないファネルの左端にいる人の意識・認識・態度変容を促す施策のKGIとしては間違っているのでは? と考えるべきです。

これも、コンテンツマーケティングの「できること」と「できないこと」を正しく理解しないまま誤ったKGIを設定し、「こんなに大金を使ってコンテンツマーケティングをやったのに(今期中に)商品がせんぜん売れなかったじゃないかどうしてくれる!」とプロジェクトメンバー全員が不幸になる要因です。

「信頼獲得」→「選択肢」に入るためのコンテンツマーケティング

もうひとつが「信頼獲得」→「選択肢」に入るためのコンテンツマーケティングです。

かくゆう弊社(トライバルメディアハウス)も、本施策に力を入れています。

※トライバルのサイトには、100本以上の専門記事がアップされています。

トライバルの顧客は大手企業の宣伝部、広報部、マーケティング部の方々です。それらの方は、今期(今年度)中に特定課題を解決するための情報探索を行っている方(いますぐ客)もいらっしゃれば、「いま現在、特段困っていることは無いが、いつかソーシャルやデジタルの領域で解決すべき課題が発生するかもしれない」という「そのうち客」も多くいらっしゃいます。

「そのうち客」の方々は、いま現在、具体的なソリューションやパートナーを探しているわけではないため、サービス紹介やセールスは「不要」「邪魔」「うざい」。

だからこそ、「そのうち客」に対しては、サービス紹介も売り込みも一切せず、ただひたすら有益な情報を制作・投稿し続け、信頼度を上げ続けることに徹します。

そして時が経ち、いずれ顧客のニーズが顕在化したときに、信頼度向上→想起集合(Evoked Set)に入っているトライバルが想起され、問い合わせをしてもらう。これが「信頼獲得」→「選択肢」に入るためのコンテンツマーケティングです。

そのため、KGIは信頼度の向上、Evoked Set、問い合わせ意向の向上であり、KPIはコンテンツのPVやUUが正解、となります。決して「いますぐ客」からの具体的問い合わせ獲得数ではないのでご注意を。

ソーシャルメディア公式アカウントの「できること」と「できないこと」

最後にソーシャルメディアの公式アカウトの「できること」と「できないこと」について。

とてもわかりやすいので、JALさんのInstagramを引用させていただきます。

JAL公式Instagram

このJALのInstagramを見て、「確かにきれいな写真が多いけど、これでチケットはどのくらい売れてるの?」と聞いてしまう人は危険信号です。

出張族を除く平均的な日本人が一年間で飛行機に乗る回数は0−2回です。つまり、大半の人はほとんど飛行機のことなんて考えていない。

昨日まで数カ月間、1秒も飛行機のことを考えていなかったのに、今日の食卓で「年末年始、久しぶりに実家帰ろうか」という会話をした瞬間、ニーズが顕在化し、「チケットあるかな」「いくらかな」と気になり始める。

ニーズが顕在化した人が最初にする行為はなんでしたっけ? そうです、検索です。「JAL」とか「ANA」とか「格安航空券」などと検索をするわけです。

ここで(ものすごく)重要なのは、なんとなくでも無意識にでも「JAL」と検索してもらったら勝ち!(ものすごく有利)ということです。

私たちは、1年のほとんどを「飛行機」と無縁に過ごします。1日に1秒も考えていない。でも、ニーズが顕在化した瞬間、「JAL」や「ANA」を想起する(そして想起した順番に検索をする)。

つまり、勝負は「ニーズが顕在化した瞬間」に決まっているのです。

では、ニーズが顕在化した瞬間に思い出す第一想起はどのようにして形成されるのか?

答えは「接触頻度」です。高いフリークエンシーでエンゲージメントを高め続けたブランドが最初に思い出してもらえるのです。

Webサイト(JALの場合はチケットを購入するサービスサイト)は、用があるときにしか来てもらえません。そのため、サービスサイトで接触頻度を高めることは不可能です。

そこで、Instagramの公式アカウントなんです。

Instagramを利用する人の大半は暇つぶしです。飛行機やJALに用はありません。そんな人に毎日「お得なチケットがあります!」「お得なキャンペーンやってます!」とセールスし続けたらどうでしょう。「うぜー!」とリムーブされてしまうのがオチです。

だから、JALは美しい旅先の風景などを中心とした投稿を行い、飛行機やチケットに用が無い人でも、毎日チラチラ見ていても不快にならない、邪魔にならない、その上で少し「おっ」「素敵じゃん」と感情を動かす(エンゲージメントを高める)投稿を行い、毎日、少しずつ、薄く、浅く、それでいて長〜〜く接触し続けることによって、「いつか来る(ニーズが顕在化する)その日」まで「そのうち客」とAlways Onの関係を持ち続けているのです。

そのため、KGIは「いますぐ客」のサイト送客やチケット売上ではなく、「そのうち客」の想起率、好意度、利用意向の向上なのです。

SNS公式アカウントの投稿を見ている人の大半は、自社に用が無い人たちです(用がある人はWebサイトに行ってます)。「用が無い人たちと、日常的に接触できることが価値」なのです。

SNS公式アカウントの強み、わかっていただけたでしょうか。その特性上、短期的な売上の獲得には不向きです。「公式アカウントやってるけど、売上ぜんぜん上がらないじゃん!」と嘆いている方、処方が間違ってますよ。

様々な「モデル」の考え方

思いの外、長くなってしまいました…。

最後に、特定のマーケティングコミュニケーション施策ではない、有名な「モデル」の考え方(位置づけの解釈の仕方)について個人的見解を述べておきます。

パーセプションフロー®(モデル)の考え方

まず最初に、音部大輔さんが提唱するパーセプションフロー®・モデルについて。

FICCさんのサイトから引用させていただきます。

パーセプションフロー®・モデルは、Coup Marketing Companyの音部大輔氏によって考案されたマーケティング・マネジメントのモデルです。一連の購買行動プロセスを「自然な認識変化の流れ(パーセプションフロー®)」として描き、組織的な協働を可能にするマーケティング活動全体の設計図です。

FICC

パーセプションフロー®・モデルは、顧客の購買プロセスを一般的な認知→興味喚起→理解〜などと並べて施策を当てはめていくのではなく、顧客の解釈や認識の流れを描いた上で全体戦略を設計するものです。

そういった意味で、本noteの内容(伝統的なファネルをベースとした正しい診断と処方:基本のキ)をマスターした人が次に進む本質編・上級編がパーセプションフロー®・モデルと言えるでしょう。早くみんなでこっちの世界に行きましょう。

下記の書は全マーケター必読の書です。ご一読を。

ちなみに、パーセプションについては最近刊行された本田哲也さんの本も合わせてどうぞ。

データ(ドリブン)マーケティングの考え方

続いてデータドリブンマーケティングについて。

「データは21世紀の石油だ!」などと言われ、マーケティングの世界でも「データを制するものがビジネスを制する」と言われます。

業界でも数年前からDMPだ、CDPだ、MAだと熱い注目を浴びていますが、データマーケティングの目的をシンプルに言えば、「One to Oneマーケティングをリアルタイムかつマスレベルで実行すること」です。

下記の本でも解説されていますが、データそのものは価値を生みません。そのデータをどう解釈し、仮説をつくり、正しい診断と処方ができて初めてデータマーケティングの効果を発揮します。

データドリブンマーケティングにおいても、結局は「ボトルネックの発見(病気の特定)」→ 「解決のための施策を実行(薬の処方)」という流れは変わりませんので、本noteで解説した「基本のキ」はマスターしておく必要があります。

Moment-Of-Truth(真実の瞬間)の考え方

本来、ファネルとMoment Of Truthはフレームが違うというか、レイヤーが違うというか、ひとつの図の中で解説してしまうことが良いかと言われると必ずしも良いとは言えないのかもしれませんが、初学者にとっては「なんとなくのつながり」がイメージできた方が理解しやすいと思い、図に落としました。

詳細は下記の記事に詳しいのでそちらで。

ここで理解していただきたいのは、広告、PR、UGCなどによって形成されるZMOTの重要性と、既存顧客のTMOTがZMOTの一部になることです。

買ってもらうまでのマーケティング(左側:プリマーケティング)と、買ってもらってからのマーケティング(右側:ポストマーケティング)はつながってループしており、新規顧客を獲得したいのなら、既存顧客のブランド体験が最高の状態でなければならないことを知っておきましょう。

想起集合(Evoked Set) /  第一想起の考え方

ZMOTにも関連しますが、本noteでも詳しく触れてきた想起集合と第一想起について。この概念も、普通にファネルを眺めているだけでは抜け落ちてしまう大切な概念です。

詳細は下記のnoteにまとめています。

いくら認知、興味、理解、好意、信頼を獲得していても、結局はニーズが顕在化したときに「思い出してもらえる存在」(メンタルアベイラブルな状態)でなければ検討してもらうこと、または買っていただくことにはつながりません。

※正確には、メンタルアベイラブルな状態でなくとも買っていただくことは可能ですが、そのためには値引きや割引など、価格訴求型のプロモーションによって強制的に購入を促す必要があります。価格訴求型プロモーションは短期的な売上の最大化に効力を発揮しますが、利益を下げ、ブランド価値を毀損させるリスクを増大させてしまいます。その意味で、やはりメンタルアベイラブルの向上→購入(検討)の流れが理想的と言えるでしょう。

下記は、トライバルが実施した延べサンプル15,000人を対象としたEvoked Set調査の結果です。興味深い内容がまとまっているので見ていってください。

売上の地図の考え方

これで本noteは終わりです。2万字も書いてしまいました…。最後までお読みいただいた方、お疲れさまでした。

本noteで整理したように、数十年前から使われている伝統的なファネルをベースとした「診断」と「処方」においても、まだまだ正しい理解が浸透しておらず、それが引き金となって、広告主も代理店もプロジェクトに関わるメンバー全員が不幸になることに強い課題感を持っています。

そして、現場で起こっている悲劇を一件でも減らしたい。その思いで書いたのが、2022年6月に出版した『売上の地図』でした。

そして、現場担当者を悩ませる「で、それやったら売れんの?」という愚問をなくしたい。大企業の売上は「ひとつの施策」の成否によって上下動するほど簡単なものじゃないはずです。もっと構造的に捉えなければなりません。

僕の集大成です。ぜひ読んでみてください。

(2023年12月11日 追記)
この記事が本になりました! 2024年1月17日出版です。売上の因果構造を整理した『売上の地図』と、マーケティングのファネルマップを整理した『マーケティング「つながる」思考術』を2冊併読していただくと、マーケティングの〈点⇄線⇄面〉がつながって効果てきめんです。ぜひ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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