「あり方」だけ決めて、会社をつくりました。広告プランナーとライターが、夫婦で起業した話。
2020年12月1日、夫とふたりで「株式会社be」を立ち上げました。
まわりのみんなは「一大決心だね!」「すごい!」なんて言ってくれるけれど、正直な私のいまの心境は、「こうなることは必然だったのかな」と、どこまでも流れの中にいる感覚。私たちはとても自然体で、いまここにいます。
決断のときは、突然に。
直接的なきっかけは、2020年夏頃。夫が10年勤めた広告代理店で早期退職のプランが発表され、「どう思う?」と相談を受けました。彼は43歳。早期退職なんて考えてもいなかっただろうし、会社員という立場での仕事も充実しているように見えていて。正直私は、寝耳に水な感じで受け取りました。
でもその早期退職プラン、よくよく見てみると、私たちの生き方と照らし合わせるとなかなか魅力的でした。退職時のメリットだけではなく、個人事業主として独立したあとも支援してくれて、これまでの関係性もいかしながら私たちらしい人生の冒険ができそうなイメージが浮かんできました。
ニュースでもちょっとした話題になっていましたよね。
報道のなかにはネガティブなものもありましたが、私たちにとってはそうではなくて。「ちょっと本気で考えてみようか」と、この頃からふたりでワクワクしながらこれからの生き方についての対話を繰り返しました。
働き方と暮らし方、子どもたちとの有限な時間、両親や親族のこれからのこと、地域とのかかわりのこと、もちろんお金のことも。「私たちはどうありたいか」を考えた期間だったと思い返します。
ふたりが共通して持っている思いのひとつに、
暮らしと仕事を分けるのではなく、そのどちらも「自分自身」でありたい。
というものがありました。そして、大切にしているこの言葉、
もっと、家族で冒険しよう。
自然と道筋は見えてきました。暮らしも仕事も、どちらも一緒に冒険する。私たちの人生がまた一歩、動き出した瞬間でした。
多様なあり方に出会った「育休キャラバン」
たぶん、私たちが現在地に流れ至るまでのターニングポイントは多々あったのです。でも、おそらく一番大きかったのは、2019年夏の「育休キャラバン」だったんじゃないかと振り返ります。日本一周、100日間キャンピングカーの旅。
育休キャラバンの話の前に、まずは、ごく普通の夫婦である私たちの背景をお伝えしますね。
出会いは、大学のとき。夫は理学部物理学科、私は理学部数学科の同級生として仲良くなり、大学時代は仲間たちとワイワイだらだら(笑)、典型的なモラトリアム期間をともに過ごしました。
夫は新卒で広告代理店へ。物理学科からの異例の就職でしたが、彼の広告に対する熱意はとても高く、仕事にどんどんのめり込んでいきました。毎日タクシー帰りみたいな無茶をしながら9年働いたあと、電通へ転職。プランナー、クリエイティブディレクターとしてさまざまなクライアントさんと対話を重ね、その本質的な価値を広く社会に届けるとともに、新たな価値を創造する新規事業開発にも取り組んできました。
一方の私が新卒で就職先したのは、電機メーカー。システムエンジニアとして働き始めましたが、たった2年半で「違う世界を見たい」と思うように。憧れていた気象予報士の資格を取得してCS放送局に転職し、気象コンテンツの企画・制作に携わる中で出会ったのが、深刻化する環境問題にクリエイティブに取り組む方々。なぜか無性に心惹かれ、彼らを取材し記事を執筆する副業ライターに。執筆・編集の知識はゼロまま無謀にも本業にしてしまったのが11年前。それ以来、フリーランスライターとして人の想いを取材し、インタビュー記事として届けることに情熱を燃やし続けています。
そんな私たち、就職3年目で結婚し、ふたりの生活を10年も謳歌しました。その間は、都心の高層マンションに住み、ブランド品を身にまとい、休日は銀座でランチ、なんて暮らしを満喫していたことも。でもふと思うところあり、2010年に茅ヶ崎市に移住。その後2013年には第一子、2018年に第二子を授かりました。そして2019年、家族4人で日本一周の旅「育休キャラバン」へ。会社員の特権とも言える育休を利用して、100日間、0歳息子、6歳娘と一緒に日本のあちこちをぐるぐると旅してまわりました。
子どもが小さなうちに家族で濃密な時間を過ごしたかったこと、「旅するなら今しかない!」という想い、キャンピングカーや日本一周に対するミーハー心…。動機はさまざまでしたが、たぶん私たち、広い世界が見たかったのです。人生の冒険をしたかったのです。
それなりに“順調”と言われるような人生を歩んできた。心惹かれた業界で働いてある程度力も発揮し、評価もいただいてきた。出会いに恵まれ、地域コミュニティも育んできた。このまま流れに乗って歩んでいくのも、きっと幸せ。
でも。
まだ見ぬ世界がきっとある。もっともっと私たちの魂が喜ぶような生き方・暮らし方があるかもしれない。私たちが本当に幸せと感じるあり方を探ってみたい。そんな期待感を持って旅立ちを決意しました。勇気を持って100日もの育休取得を決断してくれた夫には、いまでも感謝しかありません。
キャンピングカーで子どもたちとともに暮らしのすべてをともにするなかでたくさんの出会いに恵まれ、私たちは価値観を大きく揺さぶられました。
札幌では、衣食住、暮らしのすべてを自分たちの手でつくり、自然や人との“いかしあい”のなかで暮らす家族に出会いました。彼らが家族ごと通っている幼稚園でも、価値の逆転を感じる気づきをいただいて。
鳥取県智頭町では「森のようちえん」に通う4家族がひとつ屋根の下、まるで大家族のように暮らしていました。ここに暮らしながら、お隣の岡山県西粟倉村で「やがて風景になるものづくり」を掲げ、地元の木をいかした家具と暮らしの道具をつくり続けている「ようび」の大島夫妻の、ものづくりに込めた魂にも触れて。
「旅人」にもいっぱい出会いました。大きなテントを車に積んで、長期間点々と移動しながら暮らす家族。ギターを抱えてヒッチハイクで日本一周している青年。会社を辞めて自転車で日本一周している方、スケボー日本一周なんて方もいました。あぁ、世の中にはこんなにも多様な生き方があるんだ、と知った私たちの中に生まれた、旅の結論のような言葉が、これ。
もっと、家族で冒険しよう。
なにかひとつのゴールを目指す「挑戦」ではなく、子どものようにいつもワクワクしながら、その道中のごちゃごちゃも味わい尽くして、まるであてのない旅のような「冒険」。家族のかたちも、冒険のかたちも、どんどん変わっていい。いや、むしろ、変わっていくことを喜び、楽しんでいたい。それは必ずしも「旅」とか「移住」とか、なにか行動しよう、ということではなく、「心のありよう」のお話。これから先、さまざまな制約で旅に出られなくても行動できなくても、「冒険的生き方」をしたいね、ということ。
そして、それぞれの幸せのかたちに出会って彼らの想いを聞いて、「じゃあ、私たち自身の幸せは?」と問いかけ続けた私たちが描いた「こうありたい」は、
なにをやるか(do)ではなく、どうあるか(be)を大切にしたい。
そして、
暮らしと仕事を分けるのではなく、そのどちらも「自分自身」でありたい。
そういうあり方が、いまの私たちにとっての「幸せ」であると感じ取りました。「育休キャラバン」を通して、そんな想いが私たちの根底に、どっしりと根付いたのです。
「株式会社be」はじめます。
そして、そんな私たちにとっての幸せを探究するために、ふたりの会社をつくりました。
夫が「会社名、beってどうかな?」と、このステートメントとともに提案してくれて、なんだか「あ、それいいね」ってすぐにしっくりきました。現在このステートメントは、ホームページ公開に向けてブラッシュアップ中。
ロゴは、夫の後輩のアートディレクターさんが送別として贈ってくださいました。他にもたくさんの案をご提案していただいて…どれも本当に素晴らしかったんです。なんて幸せなスタートなんだろう、と涙しました。
会社設立記念に、ふたりの写真も撮っていただきました。いつも私たち家族の成長を切り取ってくださるカメラマンさんにお願いして、家から海に向かう、いつもの道でパチリ。
beで何する(do)?
ステートメントに、「幸せなあり方を探求する」と書きました。
でも、何やるの?
よく聞かれます。そうですよね。でもね、そこが株式会社beが「be」である所以。どこまでも自然体で、ふたりのあり方(be)そのままで立ち上げた会社です。まずdoではなく、beを言語化してみました。
ビジョンもミッションもアクションも定めず、まず「こうありたいね」ってbeを書き出してみた私たち。これを書いたあとも、またひとつふたつ、beがふつふつと浮かび上がってきています。このbeたちから沸き起こってくるdoを、これからひとつずつ実践していきます。もちろんこのbeも、これから変わっていくことを楽しみながら。
まずはそれぞれ広告プランナー、ライターというそれぞれのお仕事も継続しつつ、いま、ふたりでbeのdoについての対話をワクワクしながら積み重ねています。第一弾事業は、近日中に発表できるかな。
客観的に見たら、「やることを決めずに会社をつくるという無謀な挑戦」かもしれない。会社員を辞めて経済的な不安がないわけではないし、何度も失敗するだろうし、自分たちの甘さを実感することになるでしょう。冒険の道のりは、きっと幸せなことばかりじゃない。
でもそんなネガティブ要素よりも、私たちにとって大きいのは、「大切にしたいbeから沸き起こるdoを面白がって実験し、真面目に考察する新たな冒険のはじまり」にいるワクワクです。「beさえ定まっていれば、なにをやっていても“私たち自身”だから、大丈夫」という確信とともに。
「株式会社be」の冒険、はじまります!!
※現在ホームページは準備中で、ロゴのみ掲載しています。お問い合わせは、 info@be-inc.life までお気軽にどうぞ。