こどもが市長選候補者に聞いてみたい、3つの質問とは。「ちがさきこども選挙」第3回ワークショップレポート
2022年10月30日に投開票が行われる茅ヶ崎市長選挙。「こども選挙」は、それと同時開催という形で、小学生〜17歳のこどもたちによる模擬選挙を行う市民発のプロジェクトです。
こどもたちは、有権者ではないけれど、立派な主権者。政治や選挙を身近に感じられず投票率も低い現状がある日本で、投票権よりも⼤切なのは、⼀⼈ひとりが未来について考えを持ち、 その声が政治に届くことなのではないか。
今そういう機会がないのであれば、私たち市民が、子どもの声を政治や社会に届け、こども自身が社会と関わる空間を生み出していこう。
そんな思いを抱いた茅ヶ崎市の大人たちが実行委員会を結成し、公募で集まった「こども選挙委員」のこどもたちとともに、草の根的に活動しています。
この記事では第1回、第2回に引き続き、「こども選挙委員」向けの第3回プログラムの様子をお届けします。
まずはまっさらな心で
10月のはじめ、秋の日差しにキラキラと輝く海を目の前にしたコワーキングスペース「Cの辺り」に、続々とこどもたちが駆けつけました。
3回目ともなると、もう慣れたもの。早く到着して好きな席を選ぼうとする子、顔見知りになった大人スタッフと談笑する子など、和やかな雰囲気が広がります。
この日のテーマは「候補者への質問を考えよう」。民主主義の勉強や自分のまちを考えるワークショップ、先輩の話などこれまでの学びを基に、候補者へ聞いてみたい3つの質問を、全員で話し合って決定することがゴールです。
「質問を考えてきた?」
スタッフの問いかけに元気に答えるこどもたちの手元には、「こども選挙ノート」が。ぎっしりとメモで埋め尽くされていることにスタッフも驚きを隠せません。
「さっそく質問を考えてみよう!」
なんの予備知識もポイント解説もないまま、まっさらな心で質問を考える。これも大事なワークです。用意された付箋に、こどもたちは次々に「質問」と、「(その質問をしたい)理由」を書き込んでいきます。
ぎっしり埋まった模造紙。ここからディスカッションに入るのかと思いきや、スタッフから投げかけられたのは、意外な一言でした。
「ここで絵本を読みます」
絵本を題材にした模擬投票にチャレンジ!
スタッフが手にしたのは『どうぶつせんきょ』という絵本。
森の王だったライオンが水をひとりじめしてプールをつくり、カンカンに怒った動物たちが、民主的にリーダーを決めるため、はじめての選挙を行う物語。それぞれ公約を掲げて立候補したのは、ライオン、サル、ヘビ、ナマケモノの4匹。
「みなさんなら誰に投票しますか?」
絵本では動物たちの投票結果も描かれていますが、読み聞かせはその手前でストップ。こどもたちに自分で考えるよう促しました。
川の流れを変える工事のおかげでサルたちに仕事をつくったと主張するライオン。まず裏切り者のライオンを追い出しみんなに住処をつくるというサル。誰よりも森のことを知っているとアピールし、一致団結して水不足を乗り越えようと呼びかけるヘビ。一人一人の声を聞いて、焦らずじっくり取り組むというナマケモノ。
誰がリーダーとしてふさわしいかを選び、誰にも見られないように付箋に候補者名を書いて、投票箱へ。
スタッフが集計した結果は…
ライオン0票、サル2票、ヘビ2票、ナマケモノ6票、…。
こどもたちの投票で、当選したのはナマケモノという結果になりました。
こどもたちに、投票した理由も聞いてみました。例えばサルなら、
ヘビは、
と、それぞれにそれぞれを選んだ理由がありました。
当選したナマケモノには、
と、大人顔負けの声が集まりました。
そんな中、実はひとりだけ、「誰にも投票しない」と投票用紙の付箋に書いた子がいました。理由を聞くと、
と、きっぱり。模擬投票、しかも架空の動物をモチーフにしたものでも真剣に考え、それぞれの理由で投票をした子どもたち。考える力がしっかりと育っていることを感じます。
みんなのための質問と、自分のための質問と。
さて、「どうぶつせんきょ」の経験を踏まえて、ここからは候補者への質問をもう一度良く考えてみるワークへと移ります。質問の考え方として、スタッフから提示されたヒントは、以下の2つ。
選挙委員のこどもたちはそれぞれ、茅ヶ崎が「こうなってほしい」というイメージを持っていて、第1回のワークショップではそれを用いて議論しました。自分のイメージ近いまちづくりをしてくれそうな候補者を選ぶための質問も大事です。
でも一方で、彼らは「こども選挙委員」。茅ヶ崎市のこどもたちみんなが、選挙委員が決めた質問に対する回答を見て候補者を選ぶため、みんなが候補者を選ぶ参考になるような質問を考えることも大事な役割なのです。
「さっき考えた質問を変えてもいいし、追加してもいいです。今の視点を取り入れて、もう一度考えてみてください」
スタッフに促され、もう一度質問を考え直すこどもたち。書き出す作業を終えたら、ずらりと並べた付箋の中から1人ひとつずつ発表しました。
子どもの数だけの視点で考えられた質問が出揃い、この日のワークはここからが正念場。みんなの質問を聞いて、改めて一人ひとつの質問を選び、さらにグループ内でひとつに絞り込みます。
自分の意見とみんなの意見が交わる中で、子どもたちはどのように話し合いを進めるのでしょうか。
どれか1つ選ぶ?みんなの意見を合わせる?
こうして始まった「絞り込み」の作業。
Cグループの3人を覗くと、グループ内の2人が「じぶんがかえたちがさきでなにをしたんですか?」を選んでいました。もうひとりは「市長になりたいと思ったきっかけはなんですか?」を推していました。でもみんな、まだ捨てきれない他の案もある様子。
さあ、どうしよう。スタッフのアドバイスで、3人は、模造紙の上に20問ほどある質問の中から、似ているものを集め始めました。すると、いろいろなことが見えてきます。
「なぜ市長になりたいんですか?」という質問は全員から出ています。さらに、「市長になったら何をがんばりたいですか?」「市長になったら何をしたいですか?」という「やりたいこと」を問うものも多く、さらにはそれに重ねて「何をやりたくて、何が目的ですか?」という問いも。しばらくあれこれ考えた3人。
「これって一緒に聞くといいかも!」
1人がペンを持ち、付箋に書いたのはこんな質問。
「やりたいこと」と、その「目的」。確かにこう聞けば、回答の中に「なんで市長になりたいか」という理由も滲み出てきそうです。3人でスタッフとともに文章を精査して、他の案との融合も最終確認して、できあがった「質問」と聞きたい「理由」は、こちら。
みんなの意見を融合させてうまく組み合わせられた3人は、満足顔。その発想にスタッフも驚かされました。
一方、Aグループは、最後まで2案で悩み続け、最終的にこちらに決めました。
Bグループは、最後まで質問が選びきれず、「全部一緒に聞いちゃおう!」という案に。
さあ、この3つから、一体どうする?
すぐに手が上がったのは、2つの案で迷っていたAグループ。提出した案がCグループと似ているため、自分たちは変えようと思ったようです。新たにAグループから出た案は、こちら。
Aグループは子ども目線で感じている茅ヶ崎の具体的な課題に焦点を当てた問いをぶつけることになりました。「聞きたかったからよかった!」と、満足そうな表情に。
一方のBグループは、まだ3つの問いが内包されているままの状態。「絞らなきゃ」と、自分たちでくじ引きをしたり、投票をしたり。みんなの意見を1つにまとめ、さらにAやCとのバランスも考える必要がある、時間を要する難しい作業にも、こどもたちは集中して取り組みました。
最終的にBグループが決めたのは、こちらの案。
市民とともに歩む市長かどうか、子どもの声も取り入れてくれるのか、そして実行力も問う素晴らしい質問が出来上がり、会場からもBグループに大きな拍手が贈られました。
子どもたちの想いは、候補者の元へ。
こうして決まった3問の質問。改めてここに紹介します。
いかがでしょうか。市長として大切にすることは何か、市民とともに歩んでくれるのか、そして、子ども目線の課題に対する問いかけ。こどもが自ら考えた、かけがえのない3問です。
この日の最後は、グループごとに質問を投げかける動画を撮影しました。全員で一斉に話すグループ、1人ずつ交代で話すグループなど、それぞれの個性豊かな動画ができあがりました。
これからこの動画を市長選挙の全候補者に見てもらい、回答をいただきます。一体どんな回答が届くのでしょうか。そしてそれを見た子どもたちは、どの候補者に1票を投じるのでしょうか。
いよいよ佳境に入った「こども選挙」。
冒険は続きます!