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炭火が生まれるまでの物語 #1 紀州備長炭の原木ウバメガシ

和歌山県で紀州備長炭を焼いております、池渕木炭と申します。
国産の備長炭について、すこしずつお話してみたいと思います。

ゆったり炭火を眺めながら、もしくは炭火を思い浮かべながら、読んでいただければうれしいです。

#1 生き方がしぶい!紀州備長炭の原木「ウバメガシ」


紀州備長炭は、ウバメガシ(姥目樫)という木を原木としています。
この地方では、庭木にしている家もよく見かける、身近な木です。
ツヤツヤした葉とちいさめドングリがかわいい常緑樹です。

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一番の特徴は、とにかく重い!

とにかく硬くて重く、水に沈むといわれています。
細いから軽いだろうと、油断して持ち上げると、腰にきます・・・
そして足に落とすと、声が出ないほど痛い・・・

成長は他の木に比べて遅く、備長炭に向く太さになるまで20〜30年ほどかかります。時間をかけてゆっくりと自分の密度をあげていくのでしょうね。

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生えている場所がすごい


ほぼ崖といってもいい急斜面で、岩を抱え込むように根をはって育っていきます。
環境を言い訳にしないその姿は、出会うといつも圧倒されます。

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本当なら酸素を求めて、広く浅く根をはる方が効率的なようですが、ほぼ岩盤みたいな土壌だとそうもいかないのでしょう。


「択伐」という言葉、聞いたことありますか?

切り方も、炭焼職人の間でずっと伝わってきた手法があります。

ウバメガシは1つの株から何本もの木が生えるのですが、それを全部切ってしまうのではなく、若く細い木を残して切る「択伐」という手法です。

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木や森は、人が手を入れないほうがいいイメージがありますが、ウバメガシは太くなりすぎると虫に喰われて弱り、倒れてしまう可能性が高くなります。

定期的に太い木を切り、世代交代させてあげることで、株全体が元気になり、長く存続します。

SDGsという言葉が登場する300年ほど前から続けられている手法。

紀州の備長炭は、原木となるウバメガシがあってこそ成り立ちます。大事に受け継がれてきた山で、山仕事をさせてもらえることに感謝です。


木の生き様が炭になる

木としての見栄えはあまり派手ではなく、山を歩いていてふと横をみると「おお!こんなところにウバメガシ!」みたいなこともよくあります。

ちょっと地味で、厳しい環境に淡々と適応し、(あえて選んでる?)いろいろあって曲がりくねりながら育ち、気がついたらとんでもない密度になっていたのかなと。(あくまでもイメージ)

その高い密度のおかげで、1000℃を超える製炭工程でも燃え尽きることがなく、あの金属音をうむ物体に生まれ変わります。

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長い文章をここまでお読みいただきありがとうございました。

今、目の前で輝いている炭火の向こう側に、いろんなものが見えてくる気がしませんか?

岩に根をはるウバメガシのパワー、自然と長く付き合っていく先人の知恵、などなど・・・ちょっと思い出してもらえると嬉しいです。


最後に

少し前に木を切った場所を通ると、切り株から新しい芽が芽吹いていました!嬉しい光景です。

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