「様々なる意匠」 広瀬典丈
いけばなの流派分立は、①様式確立に絡む対立や正統性の争い、②血統主義の権力継承がもたらす家元の気まぐれ、二つが重なったものでしょう。
一方、絶対権威による近現代の押しつけ=進歩史観・西洋中心主義・保守・革新の二項対立はいけばなにも及び、「自然調・造形、保守・進歩」などの択一を迫りました。しかし今私達が居るのは、それら「様々なる意匠」の歴史的優劣を競う根拠が、ゆっくり失われて行く現場です。(→小林秀雄)
1.池坊
上作例は、いけばな流派中最も古い歴史を持つ、池坊のスタイルです。左から①立花正風体・②立花新風体・③生花新風体・④自由花です。
①立花・生花正風体の様式は、明治期の政治的混乱を乗り越えて指導体系を確立した、池坊宗匠池坊専正の主導で進みます。彼は、第二枝そえを前ではなく後方に出す独特の形を生み出し、煩雑な指導体系を整理しました。
大正・昭和以降池坊は、ゆっくりと盛花を含む③自由花を許容してゆき、1970年代後半~90年代、45代家元池坊専永は、花格の制約に思い切った自由を許す②③立花・生花新風体を提唱しました。
2.未生流系統の生花定型スタイル
作例①~⑤は十八世紀末、未生齋一甫(山村山碩)・未生斎広甫によって確立された未生流系二流派の生花様式。
未生流系生花は、水際を斜め一本にまとめる又木留め、約枝三本の3頂点を結ぶ形を直角二等辺三角形にまとめる、などの特徴を持っています。①②は嵯峨御流の竹筒による生花。③④は真道流、③はヤナギで富士山と雲を象る遊び性の強い伝承花、④はスイセン葉組み。⑤は茶室に飾る茶花です。
3.松月堂古流系統の生花定型スタイル
松月堂古流は十八世紀末、是心軒一露 が確立した生花様式の流れ。
松月堂古流系生花は、東海地方中心に、花形説明で陰陽五行・地水火風空五大を強調する独自の主張を持っていて、花留めは笄留めを多く用います。
4.小原流 投入・盛花
小原流は十九世紀末、池坊にいた小原雲心が西洋飾花から想を得た盛花様式と、文人瓶花様式を取り入れ、小原光雲・小原豊雲と受け継がれた流派。
剣山を発案し、水盤の水際を立ち上げず盛る手法=盛花を確立しました。
5.草月流 自然調自由花・造形花
草月流は二十世紀中頃の自由花運動の中心人物の一人、勅使河原蒼風が創流したいけばな流派。第二次世界大戦後、西洋前衛芸術運動(シュルレアリスム・アンフォルメル)と同期し、前衛いけばなとして欧米に広がりました。
草月流いけばなの基本理念は「制作者の自由」にありますが、大きく見れば、従来のいけばなの基本スタイルを尊重する「自然調自由花」と 「西洋前衛芸術運動」に同期した「造形花」に分かれます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?