予備費とは何か 3500億円→5000億円→10兆円!?
憲法に基づく制度
「予備費」なる言葉をよく聞くようになった。
OECDからも、
と言われている。
そこで予備費について調べてみた。
以下に備忘として書き残しておこう。
予備費は憲法に基づく制度である。
財政法は次のように定めている。
予備費は事前議決原則(日本国憲法86条等)の〝例外〟と言われる。
使途につき、事前の国会議決を経ないためだ。
予備費に似た制度に「補正予算」がある(財政法29条)。
補正予算は事前に国会議決を経る。
だから国会会期中は、予備費を使うのではなく、補正予算で対応するのが〝筋〟とされる。
予備費の使用が認められるのは、予算案を作成して国会で審議する時間を確保できないような緊急度の高い場合に限られる、と解すべきだろう。
2020年度以降に激増
既述のとおり、予備費は憲法が認める制度である。
しかしその規模が拡大すると、
①国会の事前審議を経ていない劣悪な事業が大規模に行われる
②安易な歳出拡大につながる
などの弊害が生じると考えられる。
なお、予備費の支出については、事後に国会の承諾を受けることになっている(日本国憲法87条2項)。
そのため、事後ではあれ、国会の牽制が働くと考える人もいるかもしれない。
しかし、事後ではまったく牽制にならないと思われる。
たとえ国会が支出を否決しても、法的効果は生じないからだ。
ねじれ国会の場合に参議院が事後承諾を否決した事例もあるが、否決したという事実が残るだけだ。
弊害①が生じるかどうかは、国会審議の〝質〟次第と言えよう。
兆円規模の補正予算案が、たった数回の審議で成立することもある。
事前に審議したからといって政策の質が担保されるとは限らない。
弊害②は、もう実際に生じているのではないかと思われる。
2020年度以降、予備費は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを契機に激増したからだ。
一般会計における「予備費」(予算額)、一般会計の「歳出決算総額」を順に並記すれば次のとおりである(億円未満切捨て)。
決算に、100兆円といった数字が簡単に出てくるのである。
予備費の使途
近年激増した予備費は何に使われたのか。
それは「使用調書」なるものを見ればわかる。
予備費は、使用時に事前の閣議決定を経る(財政法35条)。
そして事後には、各省庁の長が「調書」を、財務大臣が「総調書」を作成する(財政法36条)。
これらの「予備費使用調書」が事後に提出され、国会の承諾を受けるわけだ。
同調書は会計検査院に送付され検査を受ける。この点は通常の決算と同様だ(財政法36条2項、日本国憲法90条1項)。
実際の「予備費使用調書」を見てみよう。
財務省ウェブサイトの「予算」のページに掲載されている。
令和2年度(2020年度)
下方の「○ 予備費使用総調書など」の欄にPDFファイルがある。
予備費は本来「予見し難い予算の不足に充てるため」のものである。
ところが①のように、ぼんやりとではあれ、使途を制限した予備費が設けられている。
何に使われたかは、各明細の「説明」欄を見れば、だいたいわかる。
例えば①に関しては、2021年3月23日の閣議決定に基づき、
1兆5402億円が使用されている。
同年度の使用調書は国会に提出され、衆参両院の決算行政監視委員会で審議され、2022年4月12日に衆院本会議で、5月18日に参院本会議で事後承諾の議決がなされている(起立多数)。
令和3年度(2021年度)
同年度の使用調書は2023年4月13日に衆院本会議で、5月24日に参院本会議で事後承諾の議決がなされている(起立多数)。
令和4年度(2022年度)
①に「原油価格・物価高騰対策」なる名目が追加されている。
例えば2022年9月20日の閣議決定に基づき、
1兆2959億円が使用されている。
事業内容については、会計検査院の「令和4年度決算検査報告」がわかりやすい。
以下ウェブサイトに「第3 燃料油価格激変緩和対策事業の実施状況について」なるPDFファイル(全26ページ)が掲載されている。
同年度の使用調書は国会で審査中である。
令和5年度(2023年度)
年度中のため、使用調書はまだ掲載されていない。
そのかわり、以下ページの最下段に、使用実績が示されている。
令和6年度(2024年度)
政府案は次のとおりである。
「新型コロナウイルス感染症…」「ウクライナ情勢…」が消えたかわりに「賃上げ促進環境整備対応」なる名目が追加されている。
これは「予見し難い予算の不足」に当たるのだろうか。
計2兆円という規模の妥当性は、明日始まる通常国会で審議される。
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