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『ラグビーワールドカップ2023視聴日誌』 2カ月をかけて全48試合が紡いだ物語の記録

井川夕慈のKindle電子書籍『ラグビーワールドカップ2023視聴日誌 7時間先の朝に見ていたフランス』より一部を抜粋して公開します。


はじめに

2019年に私は初めて「ラグビーワールドカップの48試合すべてを見る」という経験をした。
と言っても主にはインターネット経由の動画配信で見ていたのだが、その大会は自国で開催されていたため、うち4試合は、スタンドを埋める客の1人として生観戦する機会にも恵まれた。
私がラグビーに関心を持ったのは2008年前後であるが、それまではワールドカップがあると言ってもピンと来なかったし、日本代表ないしはオールブラックスの試合をつまみ食い程度に見ただけだった。

日本大会で48試合を初めて〝通し〟で見た私は、これは物語として面白い、と感じた。
多くの試合は1つの完結したゲームとして見ても楽しいが、プール戦が進むにつれて、空白が埋まりパズルが完成するように、決勝トーナメントの組合せが確定して行くところが面白い。
またプール戦の内容も多彩だ。そこには、決勝トーナメントの前哨戦とも言える強豪国どうしの対戦があり、強豪国に挑戦する下位国の戦いがあり、下位国どうしの1勝を賭けた戦いがある。それぞれの試合がそれぞれの意味を有しており、どれ1つとして同じ内容の試合は無い。
プール戦の篩(ふるい)にかけられて生き残ったチームどうしが対戦する〝負けたら終わり〟の決勝トーナメントがスリリングなことは言うまでもない。各チームは過去の歴史と今大会のプール戦の記憶を背負って戦う。
そして大会最終日には、勝者の1チームが決まる。表彰ステージの上で勝者が振り返ればそこには、開幕から現在の歓喜に至るまでの2カ月に渡る物語が出来上がっているのである。

私は、1つの大会が全体として持つこの物語性を後から再現することは難しいのではないかと思った。
大会における個々の試合の動画や公式記録、統計数値、戦評記事などはデータとして残るであろう。しかし、この大会で優勝したのはあのチームだったけれど、それが決まるまでにはあんなことがあった、こんなことがあった、全体としてあのような雰囲気が醸成される中で、このような決定的な瞬間があって事が決まって行った……という内容は文字でしか残せないのではないか。

大会が生み出す大きな物語を後から追体験できるように保存できないものか。
それには時間順に記録を残すことが必要と思われた。
本書を日誌形式で作ることにしたのは、この理由による。

2023年のラグビーワールドカップはフランスで開催された。

私が住む日本と現地の間には7時間の時差がある。
そのため現地で21時に開始する試合は、日本時間で翌日の早朝4時に起きればライブ視聴できる。また現地で13時に開始する試合は、日本時間で同日20時にライブ視聴できる。
私は重要な試合はライブで視聴した。重要度に劣る試合や、現地で夕方に開始する試合は、見逃し配信で日本時間の翌日にまとめて視聴した。
日誌は、このような環境で残された。

何年か何十年か後に本書が読み返されて、2023年にフランスで書き進められ、それと同時に世界のラグビーファンが共有した物語が、読者の胸中に再現されるとすれば嬉しい。


(続きはKindleでお楽しみください。)

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井川夕慈
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