奥野他見男著『支那街の一夜』 奉天・長春・熊岳城・湯崗子・大連…『ハルピン夜話』の続編が登場
Kindle電子書籍 奥野他見男著『支那街の一夜』(初出1923年)より一部を抜粋して公開します。
あゝ驚奇の世界
何という驚異に満ちた世界が、今眼のあたり私の前に展開するのであろう。カフェーに媚びを売る柳腰嬋娟(りゅうようせんけん)たる美女や、金に代えられて貞操を無残に虐げらるる少女悲惨なる群れが、支那の街に渦巻いている。貪欲飽くなき父は娘を売りて紅酒(こうしゅ)に微醺(びくん)を買い、娘(こ)は又高らかに歌って、苦悩を知らざるが如く児戯(じぎ)す。十四五と云えば春風(しゅんぷう)ひと度吹けば蕾(つぼみ)の姿態なるに、こは又如何に、彼らは一方に児戯(じぎ)して、一方に客席に枕(ちん)す。悲惨これに過ぐるものあらんや。
国を隔つこと僅わずかに海一つ。こうも変わった世界があろうとは、幻にも又描かなかったものである。今私の筆は次第に珍奇な世界を諸君の眼の前へ拡げてゆくであろう。
目次
あゝ驚奇の世界
カフェーで歌う支那娘
舟遊びの艶姿
物凄い泥棒街
支那の吉原見物
喇嘛寺の淫怪
美しい仙境
支那にあるロシア酒場
佳人に戯るる一夜
悲しき栄華の跡よ
女学校参観
小鳥の如く震える娘
アカシヤの誘惑
赤裸々の女を見るの記
手紙の主
湯崗子の一夜
馬賊に捕らわれた人の話
美しき暁の悲劇
小さき訪れ
歓迎会
名曲の奏でらるる所
万感に乱れて
船室の物語
波をゆくエピソード
すべてよ、さようなら
付録 大連まで
編集後記……井川夕慈
(続きはKindleにてお楽しみください。)
奥野 他見男(おくの たみお)
明治22年~昭和28年(1889~1953)
小説家。本名 西川他見男。金沢市生まれ。金沢医専薬学部卒。在学中「北国新聞」に『凸坊の日記』(明治43年)を連載。上京後、『大学出の兵隊さん』を刊行(大正6年)、一躍流行作家となる。以後、「婦女界」「主婦之友」などに執筆し、あらゆる流行語を用い、新風俗を描いた作品を発表、ユーモア小説の草分けとなる。
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