2023年6月13日@こども未来戦略方針
支援金は、社会保険(より具体的には医療保険)のルートを活用して徴収する。
少子化対策の財源に、社会保険ルートを活用することが(事実上)決まったのはいつか。
それは2023年6月13日である。
「こども未来戦略方針」が閣議決定された。
そこには、次のように書かれていた。
「企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組み」がそれだ。
この文には次の脚注が付いていた。
「社会保険の賦課・徴収ルートを活用する」とある。
文面上はまだ「検討する」の段階だが、次の2023年10月2日の会議で、社会保険の中から医療保険を推す意見が学者たちからあがり、医療保険者等を呼んだ大臣〝懇話会〟を経て、次の2023年12月11日の会議で、支援金制度としてトントン拍子に案が出て来たことからすると、社会保険を活用することは、事実上すでに確定事項だっただろう。
2023年5月22日@第4回こども未来戦略会議
なお、社会保険ルートを活用することが決まった時点は、もう少し遡ることができる。
2023年5月22日の第4回こども未来戦略会議で、少子化対策(加速化プラン)の財源をテーマに議論された際に、内閣総理大臣の岸田が、その場で、締めくくりの言葉として、次のように〝宣言〟したからだ。
消費税の選択肢を消した。
この時点で、社会保険ルートを活用することは事実上決まった、と言えよう。
2023年5月22日である。
2023年4月7日~2023年5月22日@こども未来戦略会議
2023年5月22日の前に、こども未来戦略会議は3回開かれている。
その間、財源については、どのような意見が出ていたか。
社会保険ルートを活用する案は、誰の意見に発していたか。
大雑把に言えば、学者の意見に発していた。
具体的には、慶應義塾大学商学部教授・権丈善一、日本赤十字社社長/慶應義塾学事顧問・清家篤、学習院大学経済学部教授・遠藤久夫である。彼らは後に、社会保険の中でも医療保険の活用を推すメンバーでもあった。
ただし、彼らが社会保険ルートをベストと考えていたとは思われない。消費税が可能なら、その方がよいと思っていただろう。増税が不可能なら社会保険ルートで、と言ったまでだろう。
社会保険ルートに反対したのは、経営者と労働者の代表であった。
具体的には、日本経済団体連合会会長・十倉雅和、日本商工会議所会頭・小林健、日本労働組合総連合会会長・芳野友子だ。彼らは様々な税財源の組合せを志向していた。
他には、サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長・新浪剛史が資産売却や相続税や資産課税を、フリーアナウンサー・中野美奈子が酒税・たばこ税・贈与税・相続税を提案していた。
学者の中でも、社会保険ルートの活用を強くアピールしたのは、権丈善一だ。
例えば、2023年5月22日のこども未来戦略会議で次のように発言している。
要するに、既存の社会保険による再分配の偏りが、若者を貧しくして少子化の原因となっているのだから、既存の社会保険を使用した新たな再分配を行って、子育て世帯を豊かにしよう。そうすることで少子化を克服しよう、という発想である。
再分配の不具合は、別の再分配で正そう、ということであろう。
その権丈が、2023年5月17日のこども未来戦略会議で、次のように発言しているのが目に留まった。
「企業を含め、社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で広く負担していく新たな枠組み」は、すなわち社会保険ルートの活用を意味し、後の「こども未来戦略方針」(2023年6月13日)に書き込まれることになる文言だ。
ところが、その文言は、すでに政府の別の文書に出ている、と言うのだ。
2022年12月16日@全世代型社会保障構築会議報告書
「全世代型社会保障構築会議報告書」は2022年12月16日にまとめられている。
そこには、次のように書かれている。
確かに「企業を含め社会全体で連帯し、公平な立場で、広く負担し、支える仕組み」とある。
しかし、これは「骨太の方針2022」にすでにある、と言うではないか。
2022年6月7日@経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)
「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針2022)にあたってみた。
これは、2022年6月7日に閣議決定されている。
そこには、次のように書かれていた。
「企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組み」とある。
これは、「こども未来戦略方針」(2023年6月13日)とまったく同一の表現ではないか。
「こども未来戦略方針」の文章を再掲する。
「新たな枠組み」とは、社会保険ルートの活用、すなわち支援金のことだが、これはすでに2022年の「骨太」の中に仕込まれていた。
2021年6月18日@経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太の方針2021)
いつの「骨太」から書き込まれたのだろう。
「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針2021)には、次のように書かれていた。
これは、2021年6月18日に閣議決定されている。
2021年の時点ですでに書き込まれていた。
前年はどうか。
「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太の方針2020)には、次のように書かれていた。
書かれていなかった。
つまり、「企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組み」は、2021年6月18日に、「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針2021)の中に登場した。
当時の内閣総理大臣は、菅義偉だった。
「骨太」は経済財政諮問会議で審議して答申する。
当時の内閣府特命担当大臣(経済財政政策)兼経済再生担当大臣は、西村康稔だった。
西村康稔と権丈善一
「企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組み」の文言は、誰が書き入れたのだろうか。
私は、それを知らない。
しかし、権丈の持論を西村が取り込んだ可能性はある。
権丈と西村がつながっていたことをうかがわせる次のようなブログ記事を見つけたからだ。
それは約20年前の小泉政権時代に遡る。
なお、写真は削除されている。
また、権丈と西村の蜜月ぶりをうかがわせるやりとりが、こども未来戦略会議にある。
2023年12月11日、医療保険を活用する支援金制度が「こども未来戦略」案に示された回のやりとりである。
会話の中にあるように、権丈は、6日前の経済財政諮問会議にも臨時議員として呼ばれていた(2023年12月5日)。
このとき、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)兼経済再生担当大臣は新藤義孝に代わっていたが、西村は経済産業大臣として参加していた。
なお、西村は、それから間もない2023年12月14日に、自民党安倍派の裏金疑惑のために経済産業大臣を辞任した。
推察
以下は推察である。
「企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組み」
すなわち社会保険ルートの活用は、西村と権丈の政・学ラインによって仕込まれた。
2021年6月の菅内閣のときだった。
2021年10月に岸田内閣が発足した。
2022年にインフレーションが始まった。
支援金制度は2024年6月に法案が成立したが、岸田が実質的にしたことは、消費税の選択肢を消すことだった。それは、パンデミック収束後の金利差に由来する円安がもたらしたインフレーションのただ中にあっては、必然的なことだった。
こども未来戦略会議は、全世代型社会保障構築会議報告書を参照している。全世代型社会保障構築会議報告書は、「骨太」を参照している。
「骨太」に従う限り、残る選択肢は、社会保険ルートの活用しかなかった。 岸田は、支援金の法案を通すしかなかった。
仕込まれた爆弾は、三年間の潜伏期間を経て、炸裂した。