開。
はじまりは、卒業に必要な1単位の取得だった。
もう10年くらい前のことだけど、わたしと夫は同じ通信制の大学で学んでいた。
わたしは単位を取るお金がなくて1年留年したけど、夫は順調に学びを進めて、あと1単位取れば卒業というところに来た。
そこで夫が選んだのが
ファイナンシャルプランニング総論
だった。
見事単位を取得して大学を卒業したあと、乗りかかった船とばかりにファイナンシャルプランナー(以下FP)の資格を取り、さらにそれだけでは足りないと宅地建物取引主任者(現:宅地建物取引士)の資格を取り、さらにさらに高みを目指して夫が取り組み始めたのは
社会保険労務士
の勉強だった。
なぜ夫がこんなに資格マニアのようになるのか。
理由はひとつ。
武器を身につけるため。
なにやら穏やかじゃない響きだけど、これがしっくり来る。
何度も書いたけど、私たち夫婦は同じ難病があって身体障害者である。
夫は筋力低下のため座位をとることができず、電動車いすの座る部分がフルフラットのストレッチャー仕様になっている。
動かせるのは、左手の親指と人差し指をそれぞれ少々。
あとは、表情と口と、キレッキレの頭。
ずっと前から、夫は働きたいと強く思っていた。
でも、身体的に一般的な就職は厳しい。
立ち向かうには、働くには、
武器=資格が必要だ。
しかも、とびきり難しいやつだ。
そう思った(と思う笑)夫は、先に触れた流れで勉強し、FP、宅建と資格を取り続けた。
社会保険労務士の試験は超難関だ。
毎年合格率が1桁で、2%だった年もある。
針の穴だ。
荒波中の荒波だ。
その試験に、夫は何度も挑んだ。
一発で合格するのがかっこいいかもしれないけど、わたしは、挑んでは破れ、それでもアプローチを変えながら挑み続けることをやめない夫がかっこいいと思った。
2018年の秋からは、合格したときにすぐ社労士登録できるようにと、アルバイトも始めた。
2年の実務経験があれば、合格後に別料金で講習を受けずに即登録できるからだ。
とはいえ、夫は毎日通勤はできない。
ネットで探しまくって、テレワークを導入している事務所を発見し、ダメもとでメールを送ってみた。
その事務所が、いまの勤務先である。
どこの馬の骨ともわからない、しかも障害がある夫を、数回のメールのやりとりだけで採用してくれた所長さんには、本当に感謝しかない。
まじで!!
会ったことないのに!!
いいの?!ほんとに?!
って、メール送っておきながら思ったもんね。笑
何はともあれ、これで、社労士として働く最初の1歩は踏み出せた。
あとは、合格。
2019年…もう2歩くらい足りず
2020年…新コロ騒動(濃厚接触者もどき)で心が乱れ撃沈
そして、2021年。
この年、いつも以上に夫はがんばった。
しゃかりきがんばった。
朝5時に起きて勉強してた。
いやこれは普通に目が覚めるらしいんだけど。
気心の知れたヘルパーさんに
「夫さんおじいちゃんじゃないですか!😆」
と笑われるくらい、朝早く起きてた。
わたしは寝てた。笑
新コロは相変わらず蔓延っていたけど、家族もヘルパーさんもみんな無事だった。
そうして、心身ともに整えて、8月末の試験に挑んだ。
試験から数日後、自己採点をしてみた。
成績、めっちゃいい。
直前模試のときとか、「え…これは…やばいのでは…」とわなわなしてしまう惨状だったのに…
本番にめっぽう強い男・夫!!
ただ、1科目だけ基準点に1点足りなかった。
けど、社労士試験には【救済措置】というのがあるらしい。
その年の受験者の得点分布を考慮して、一定の場合に合格基準点を引き下げる措置
のことだそうで、夫の1点足りない科目がそれに該当するように、わたしは毎日祈った。
願掛けとかはしなかったけど、夫の祖父母の遺影に向かって、どうかひとつお願いします!と祈り続けた。
The・他力本願。笑
そうして迎えた、10月下旬の合格発表日。
祈りが通じたのか、夫の受験番号は合格者一覧の中にあった。
夫もわたしも、一瞬は信じられなくて、でもそこに確実に番号はあった。
夫、合格!!!
わたし、号泣。
普段はポーカーフェイスの夫も、
「さすがに込み上げるものがあるな…」
と、少し目を潤ませていた。
ついに、ここまで来た。
ようやく、たどり着いた。
おそらくだけど、夫はいままで、いろんなことに劣等感を抱いていただろうし、悔しい思いもたくさんしてきた。
わたしだったら、それらをうじうじ気にして悩んでるふりをして、まわりに優しくしてもらうことばっかり考えるところだ。
だけど、夫はそうじゃない。
むしろ逆境や悔しさを原動力に、いまに見ていろ精神でがんばるのだ。
そうして、敢えて荒波に飛び込んでいく。
がんばっているところは、まわりに見せない。
そんな夫を、心から誇りに思う。
合格がわかってから、夫は
「今回もダメかもしれないって少し思った」
「俺ほんとに社労士になれるのかなって思った」
と、本音を打ち明けてくれた。
わたしは、ごくごく平凡な人間で、取り柄らしい取り柄もないけど、普段は強くて聡明な夫が戦闘モードをオフにして安心できる場所でありたい。
そしてそして、2022年。
夫、開業社労士になりました!!
勤務している事務所のお仕事も続けながら、自分の城を持ちました。
勤務を続けさせてくれる所長さんには、もうどれだけ感謝したらいいかわからないくらいです。
本当にありがたい。
ここからが、夫のスタート。
同じ方向を見て、ともに人生を切り開いていく所存です!!
どうぞよろしくお願いいたします!!